20 / 129
第3話 ひとりっきりのお城
5.押部家の夕食
しおりを挟む
「奥様。
夕食の時間でございます」
「あっ、はい!」
野々村の声に飛び起きた。
考えながらいつの間にか眠っていたみたいだ。
寝起きを悟られないように身なりを整え、食堂に行くとすでに尚一郎は待っていた。
「今日は朋香の歓迎の意味も込めて、豪華にしてもらったよ」
「……ありがとうございます」
着いたテーブルは今朝とクロスを変えてあった。
そのうえ、花が飾ってあり、キャンドルまで灯っていた。
数度だけ亮平と行ったことのある高級レストランよりも、高級感がある気がする。
さらに、目の前のテーブルセッティングが朋香を緊張させた。
お皿を中心にカトラリーがいくつも並べてあるし、グラスだって複数置いてある。
普通の家の、さらには普通の夕飯で、こんなことはまずやらない。
……テーブルマナーは一応、知ってるけど。
ここまで本格的なのは自信ない。
そもそも、昼食を食べた時点でなんとなく嫌な予感はしていたのだ。
グーグー寝とかないでおさらいしておけばよかった。
しかし、いまさら後悔したって遅い。
緊張でがちがちになってしまった朋香に気づいているのか、尚一郎が小さく、くすりと笑った。
「マナーなんか気にしなくていいよ」
「……はい」
恥ずかしすぎて俯いてしまった朋香をよそに、食前酒のシャンパンが注がれる。
少しでも気持ちを落ち着けようと、ぱちぱちと泡のはじける黄金色のそれを朋香は一口飲んだ。
「……おいしい」
「それはよかった」
口当たりのいいシャンパンに、少し緊張がほぐれた気がした。
そのおかげで、後は普通に食事ができた。
「朋香はおいしそうに食べるね」
「そうですか?」
にっこりと尚一郎の、眼鏡の奥の目が細くなる。
今日はずっと、そんな感じで嬉しそうに、尚一郎から見られてばかりな気がした。
デザートに季節の果物をふんだんに使ったケーキまで食べ、食事が終わる。
最初、心配したほど、マナーで困ることはなかった。
というか、朋香が戸惑いの表情を見せると、尚一郎がさりげなく手本を見せてくれたから。
夕食の時間でございます」
「あっ、はい!」
野々村の声に飛び起きた。
考えながらいつの間にか眠っていたみたいだ。
寝起きを悟られないように身なりを整え、食堂に行くとすでに尚一郎は待っていた。
「今日は朋香の歓迎の意味も込めて、豪華にしてもらったよ」
「……ありがとうございます」
着いたテーブルは今朝とクロスを変えてあった。
そのうえ、花が飾ってあり、キャンドルまで灯っていた。
数度だけ亮平と行ったことのある高級レストランよりも、高級感がある気がする。
さらに、目の前のテーブルセッティングが朋香を緊張させた。
お皿を中心にカトラリーがいくつも並べてあるし、グラスだって複数置いてある。
普通の家の、さらには普通の夕飯で、こんなことはまずやらない。
……テーブルマナーは一応、知ってるけど。
ここまで本格的なのは自信ない。
そもそも、昼食を食べた時点でなんとなく嫌な予感はしていたのだ。
グーグー寝とかないでおさらいしておけばよかった。
しかし、いまさら後悔したって遅い。
緊張でがちがちになってしまった朋香に気づいているのか、尚一郎が小さく、くすりと笑った。
「マナーなんか気にしなくていいよ」
「……はい」
恥ずかしすぎて俯いてしまった朋香をよそに、食前酒のシャンパンが注がれる。
少しでも気持ちを落ち着けようと、ぱちぱちと泡のはじける黄金色のそれを朋香は一口飲んだ。
「……おいしい」
「それはよかった」
口当たりのいいシャンパンに、少し緊張がほぐれた気がした。
そのおかげで、後は普通に食事ができた。
「朋香はおいしそうに食べるね」
「そうですか?」
にっこりと尚一郎の、眼鏡の奥の目が細くなる。
今日はずっと、そんな感じで嬉しそうに、尚一郎から見られてばかりな気がした。
デザートに季節の果物をふんだんに使ったケーキまで食べ、食事が終わる。
最初、心配したほど、マナーで困ることはなかった。
というか、朋香が戸惑いの表情を見せると、尚一郎がさりげなく手本を見せてくれたから。
6
お気に入りに追加
982
あなたにおすすめの小説
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
憧れのあなたとの再会は私の運命を変えました~ハッピーウェディングは御曹司との偽装恋愛から始まる~
けいこ
恋愛
15歳のまだ子どもだった私を励まし続けてくれた家庭教師の「千隼先生」。
私は密かに先生に「憧れ」ていた。
でもこれは、恋心じゃなくただの「憧れ」。
そう思って生きてきたのに、10年の月日が過ぎ去って25歳になった私は、再び「千隼先生」に出会ってしまった。
久しぶりに会った先生は、男性なのにとんでもなく美しい顔立ちで、ありえない程の大人の魅力と色気をまとってた。
まるで人気モデルのような文句のつけようもないスタイルで、その姿は周りを魅了して止まない。
しかも、高級ホテルなどを世界展開する日本有数の大企業「晴月グループ」の御曹司だったなんて…
ウエディングプランナーとして働く私と、一緒に仕事をしている仲間達との関係、そして、家族の絆…
様々な人間関係の中で進んでいく新しい展開は、毎日何が起こってるのかわからないくらい目まぐるしくて。
『僕達の再会は…本当の奇跡だ。里桜ちゃんとの出会いを僕は大切にしたいと思ってる』
「憧れ」のままの存在だったはずの先生との再会。
気づけば「千隼先生」に偽装恋愛の相手を頼まれて…
ねえ、この出会いに何か意味はあるの?
本当に…「奇跡」なの?
それとも…
晴月グループ
LUNA BLUホテル東京ベイ 経営企画部長
晴月 千隼(はづき ちはや) 30歳
×
LUNA BLUホテル東京ベイ
ウエディングプランナー
優木 里桜(ゆうき りお) 25歳
うららかな春の到来と共に、今、2人の止まった時間がキラキラと鮮やかに動き出す。
【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜
四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」
度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。
事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。
しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。
楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。
その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。
ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。
その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。
敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。
それから、3年が経ったある日。
日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。
「私は若佐先生の事を何も知らない」
このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。
目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。
❄︎
※他サイトにも掲載しています。
クリスマスに咲くバラ
篠原怜
恋愛
亜美は29歳。クリスマスを目前にしてファッションモデルの仕事を引退した。亜美には貴大という婚約者がいるのだが今のところ結婚はの予定はない。彼は実業家の御曹司で、年下だけど頼りになる人。だけど亜美には結婚に踏み切れない複雑な事情があって……。■2012年に著者のサイトで公開したものの再掲です。
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる