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第3話 ひとりっきりのお城
5.押部家の夕食
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「奥様。
夕食の時間でございます」
「あっ、はい!」
野々村の声に飛び起きた。
考えながらいつの間にか眠っていたみたいだ。
寝起きを悟られないように身なりを整え、食堂に行くとすでに尚一郎は待っていた。
「今日は朋香の歓迎の意味も込めて、豪華にしてもらったよ」
「……ありがとうございます」
着いたテーブルは今朝とクロスを変えてあった。
そのうえ、花が飾ってあり、キャンドルまで灯っていた。
数度だけ亮平と行ったことのある高級レストランよりも、高級感がある気がする。
さらに、目の前のテーブルセッティングが朋香を緊張させた。
お皿を中心にカトラリーがいくつも並べてあるし、グラスだって複数置いてある。
普通の家の、さらには普通の夕飯で、こんなことはまずやらない。
……テーブルマナーは一応、知ってるけど。
ここまで本格的なのは自信ない。
そもそも、昼食を食べた時点でなんとなく嫌な予感はしていたのだ。
グーグー寝とかないでおさらいしておけばよかった。
しかし、いまさら後悔したって遅い。
緊張でがちがちになってしまった朋香に気づいているのか、尚一郎が小さく、くすりと笑った。
「マナーなんか気にしなくていいよ」
「……はい」
恥ずかしすぎて俯いてしまった朋香をよそに、食前酒のシャンパンが注がれる。
少しでも気持ちを落ち着けようと、ぱちぱちと泡のはじける黄金色のそれを朋香は一口飲んだ。
「……おいしい」
「それはよかった」
口当たりのいいシャンパンに、少し緊張がほぐれた気がした。
そのおかげで、後は普通に食事ができた。
「朋香はおいしそうに食べるね」
「そうですか?」
にっこりと尚一郎の、眼鏡の奥の目が細くなる。
今日はずっと、そんな感じで嬉しそうに、尚一郎から見られてばかりな気がした。
デザートに季節の果物をふんだんに使ったケーキまで食べ、食事が終わる。
最初、心配したほど、マナーで困ることはなかった。
というか、朋香が戸惑いの表情を見せると、尚一郎がさりげなく手本を見せてくれたから。
夕食の時間でございます」
「あっ、はい!」
野々村の声に飛び起きた。
考えながらいつの間にか眠っていたみたいだ。
寝起きを悟られないように身なりを整え、食堂に行くとすでに尚一郎は待っていた。
「今日は朋香の歓迎の意味も込めて、豪華にしてもらったよ」
「……ありがとうございます」
着いたテーブルは今朝とクロスを変えてあった。
そのうえ、花が飾ってあり、キャンドルまで灯っていた。
数度だけ亮平と行ったことのある高級レストランよりも、高級感がある気がする。
さらに、目の前のテーブルセッティングが朋香を緊張させた。
お皿を中心にカトラリーがいくつも並べてあるし、グラスだって複数置いてある。
普通の家の、さらには普通の夕飯で、こんなことはまずやらない。
……テーブルマナーは一応、知ってるけど。
ここまで本格的なのは自信ない。
そもそも、昼食を食べた時点でなんとなく嫌な予感はしていたのだ。
グーグー寝とかないでおさらいしておけばよかった。
しかし、いまさら後悔したって遅い。
緊張でがちがちになってしまった朋香に気づいているのか、尚一郎が小さく、くすりと笑った。
「マナーなんか気にしなくていいよ」
「……はい」
恥ずかしすぎて俯いてしまった朋香をよそに、食前酒のシャンパンが注がれる。
少しでも気持ちを落ち着けようと、ぱちぱちと泡のはじける黄金色のそれを朋香は一口飲んだ。
「……おいしい」
「それはよかった」
口当たりのいいシャンパンに、少し緊張がほぐれた気がした。
そのおかげで、後は普通に食事ができた。
「朋香はおいしそうに食べるね」
「そうですか?」
にっこりと尚一郎の、眼鏡の奥の目が細くなる。
今日はずっと、そんな感じで嬉しそうに、尚一郎から見られてばかりな気がした。
デザートに季節の果物をふんだんに使ったケーキまで食べ、食事が終わる。
最初、心配したほど、マナーで困ることはなかった。
というか、朋香が戸惑いの表情を見せると、尚一郎がさりげなく手本を見せてくれたから。
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