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第3話 ひとりっきりのお城
2.ドイツ式の朝食
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大量の服が入った衣装室にげんなりしつつ、一階に降りたところで野々村が待っていた。
「おはようございます、奥様」
「……おはようございます」
先導するように黙って歩く、野々村の後をついて行く。
昨晩からにこりとも笑わないこの和服の老婆がなんとなく苦手だと朋香は思った。
「僕がプレゼントした服は気に入らなかったかい?」
朋香が食堂に入ると、尚一郎は見ていたタブレットを閉じて野々村に渡した。
土曜で休みだからか、黒縁の眼鏡。
その奥の眉を不満そうにひそめて聞かれると、なんと答えていいか困る。
「あー、着替えた後で気づいたので」
曖昧に笑って誤魔化すと、尚一郎は残念そうに、はぁっと小さくため息を漏らした。
「そう。なら、仕方ない。
……朝食にしよう」
尚一郎が野々村に向かって頷くと、朝食が出てき始める。
ハード系のパンに、ゆで卵、ハムとチーズ。
あとはヨーグルトとフルーツ、そしてコーヒー。
なんとなく、質素な気がする。
「ああ。
朝だけはドイツ式なんだ。
朋香も慣れてくれるといいんだけど」
「あー、はい」
そういえば、尚一郎はドイツ人ハーフだと聞いた覚えがある。
だから、なんだろうか。
初めてのドイツ式朝食は朋香を戸惑わせた。
ゆで卵の殻を剥こうと手に取った時点で止められる。
「ゆで卵は上を切ってスプーンですくって食べるんだ。
……こう」
尚一郎の手本通りにしようとするのだけれど、なかなか難しい。
とうとう苦笑いで尚一郎がやってくれた。
「エッグオープナーもあるからね。
次から準備しておこう」
「……はい」
恥ずかしすぎる、ゆで卵一個、まともに食べられないなんて。
パンは小振りな割にみっちりと詰まっていた。
一口食べてみたけれど、なんとなく馴染めない。
朋香が変な顔でもしていたのか尚一郎はおかしそうに笑うと、まるで手本でも見せるかのようにナイフでパンを半分に切った。
次にバターを塗り、ハムとチーズを挟んでサンドイッチにするとぱくり。
もぐもぐと口を動かしながら、こうするといいよと頷かれて、真似てみる。
やってみるとパンはハムやチーズと相性がよく、思いの外おいしくて、これなら好きだと思った。
「おはようございます、奥様」
「……おはようございます」
先導するように黙って歩く、野々村の後をついて行く。
昨晩からにこりとも笑わないこの和服の老婆がなんとなく苦手だと朋香は思った。
「僕がプレゼントした服は気に入らなかったかい?」
朋香が食堂に入ると、尚一郎は見ていたタブレットを閉じて野々村に渡した。
土曜で休みだからか、黒縁の眼鏡。
その奥の眉を不満そうにひそめて聞かれると、なんと答えていいか困る。
「あー、着替えた後で気づいたので」
曖昧に笑って誤魔化すと、尚一郎は残念そうに、はぁっと小さくため息を漏らした。
「そう。なら、仕方ない。
……朝食にしよう」
尚一郎が野々村に向かって頷くと、朝食が出てき始める。
ハード系のパンに、ゆで卵、ハムとチーズ。
あとはヨーグルトとフルーツ、そしてコーヒー。
なんとなく、質素な気がする。
「ああ。
朝だけはドイツ式なんだ。
朋香も慣れてくれるといいんだけど」
「あー、はい」
そういえば、尚一郎はドイツ人ハーフだと聞いた覚えがある。
だから、なんだろうか。
初めてのドイツ式朝食は朋香を戸惑わせた。
ゆで卵の殻を剥こうと手に取った時点で止められる。
「ゆで卵は上を切ってスプーンですくって食べるんだ。
……こう」
尚一郎の手本通りにしようとするのだけれど、なかなか難しい。
とうとう苦笑いで尚一郎がやってくれた。
「エッグオープナーもあるからね。
次から準備しておこう」
「……はい」
恥ずかしすぎる、ゆで卵一個、まともに食べられないなんて。
パンは小振りな割にみっちりと詰まっていた。
一口食べてみたけれど、なんとなく馴染めない。
朋香が変な顔でもしていたのか尚一郎はおかしそうに笑うと、まるで手本でも見せるかのようにナイフでパンを半分に切った。
次にバターを塗り、ハムとチーズを挟んでサンドイッチにするとぱくり。
もぐもぐと口を動かしながら、こうするといいよと頷かれて、真似てみる。
やってみるとパンはハムやチーズと相性がよく、思いの外おいしくて、これなら好きだと思った。
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