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第2話 玉の輿じゃないかな?

7.実家訪問

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家に行きたいというので、朋香の家に向かう。

工場から家まで徒歩五分で、いつもは歩きで通っているのだが、今日は尚一郎の車に乗せられた。

運転手付きの、メルセデスベンツ。
明夫にプレゼントされたものよりもさらに上の。

どことなく、落ち着かない。

「ここが朋香の生まれ育った家ですか」

着くと、尚一郎はなぜかとても嬉しそうで不思議だった。

昔ながらの家で鴨居が低いため、背の高い尚一郎はあたまをぶつけそうだ。
さらに、どこか浮いていておかしくなる。

茶の間に案内し、お茶を入れる。
戻ってくるとそこに尚一郎の姿はなかった。

どこにいるのか聞こうと明夫の顔を見ると、そのあたま越しに尚一郎の背中が見える。
隣の部屋で、仏壇に向かって手を合わせていた。

「押部社長。
なに、しているんですか」

「ん?
お義母上にご挨拶だけど。
朋香をもらうんだからね。
心配しないでも必ず幸せにしますって、約束してたんだ」

隣に座ると、目を開けた尚一郎がにっこりと笑う。
「でも、これはあくまで契約結婚で、私は」

「うん?
僕は必ず、朋香を幸せにするよ。
神に誓って」

朋香の右手を取ると、その指先に尚一郎が口づけを落とした。
眼鏡越しに視線が合うと、眩しそうに目を細める。

そんな尚一郎に朋香の心臓はどきどきと早く鼓動し、これはただ、尚一郎のやることが恥ずかしいからだと自分に云い聞かせた。

 
茶の間に行くと、尚一郎が改めて明夫にあたまを下げた。

「このたびは無理を云ったのにお嬢さんを私にくださり、ありがとうございました」

「あっ、いや、あたまをお上げになってください」

年下とはいえ、取引先の会社の社長、しかも日本でも屈指のオシベグループの御曹司にこんなことをされると、さすがに明夫も居心地が悪い。

「家族になったんですから、息子として扱ってくださって結構です」

「は、はあ」

明夫は出てもいない額の汗を盛んに拭いている。
息子として扱ってくれと云われても、なにか気に障ることをやってまた契約打ち切りの危機に立たされるわけにはいかないのだ。

「それで。
結納につきましては大変申し訳ないのですが、僕の都合で省略させていただきます。
もう、籍も入れたことですし」

「わかりました」

明夫は神妙に頷いているが、朋香は少し引っかかっていた。

別に結納とかめんどくさいことがやりたいわけじゃない。
現に亮介との話では結納はやらない予定だった。

けれど、あのオシベの御曹司が、結納省略なんてあるんだろうか。

「それから。
順番が前後して申し訳ないんだけど。
……朋香。
僕と結婚してくれてありがとう。
受け取って欲しい」

差し出されたグレーのケースはだいたい察しがつくが、開けたらその通りにダイヤの指環が入っていた。

「本当はオーダーしたいんだけど時間がなかったから、とりあえずこれで我慢して欲しい。
改めて、婚約指環と結婚指環を作ろう」

いいもなにも云ってないのに、勝手に尚一郎が朋香の手を取り、左手薬指に指環をはめてくる。

自分の指にはまった指環を見た朋香の感想は、……ヤバい、こんな高価なものが常時はまったままの生活なんて、緊張しすぎて死ぬ。

と、ロマンもなにもないものだった。
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