9 / 129
第2話 玉の輿じゃないかな?
3.弟の気持ち
しおりを挟む
食卓に着くと思いがけないごちそうに洋太は驚いていた。
「今日なんか、いいことでもあったの?
あ、例の契約打ち切りがなくなったとか?」
「あー、うん。
それもあるけど、結婚したんだよねー」
「はぁっ!?」
父親譲りの洋太の糸目が、人並み以上に見開かれる。
意気揚々と掴まれた唐揚げは、箸からぽろりと落ちた。
「どういうこと!?
なあ、親父!」
「それは、その。
……なあ、朋香。
やっぱり」
やはり、朋香が帰ったあとも明夫は社員たちに詰め寄られ、朋香の結婚取り消しを説得されたようだ。
「くどい!
もう決めたことだから」
経営や技術は頼りになる明夫だが、この件に関しては動揺しっぱなしで頼りにならない。
溺愛してきた娘がいきなり契約結婚、となるとそうなるのも無理もないかもしれないが。
「どういうことなんだよ、姉ちゃん。
俺にわかるように説明して」
「どうもこうも。
契約継続とこの先の融資の代わりに、押部社長と結婚しろって。
もう、婚姻届にサインしちゃったし」
明夫は黙ってビールを飲んでいる。
洋太も一気にビールを煽った。
「だいたいなんで、姉ちゃんとの結婚が条件なわけ?」
「知らない。
決まったことって云われた」
「姉ちゃんはそれでいいのか?」
「まあ。
よく考えたらすごい玉の輿だよ。
乗っといて損はないでしょ」
「ねーちゃーん」
洋太にジト目で睨まれるとさすがにたじろいだが、朋香も負けずに睨み返すと、はぁーっと大きなため息をつかれた。
「親父はいいわけ?
姉ちゃんが押部の野郎なんかと結婚して」
「……朋香が決めたことなら仕方ない」
背中を小さく丸めてしまった明夫は急に年を取ってしまった気がする。
「ごちそうさま。
つまみ食いしすぎたかな、腹がいっぱいで」
箸を置くと、明夫は席を立って茶の間に行き、テレビをつけた。
「あー、もう、よくわかんねー!
寝る!」
ガタン、乱暴に椅子を立つと洋太も自分の部屋に行ってしまい、ひとり残された朋香は深いため息を落とした。
……最後のごはんくらい、三人で仲良く食べたかったんだけどな。
残ったおかずにラップをし、冷蔵庫にしまう。
作った常備菜は冷蔵と冷凍にわけ、賞味期限やアレンジレシピを書いたメモを冷蔵庫に貼っておいた。
片づけを済ませると米をとぎ、明日の弁当の準備をする。
最後の弁当だから、ちゃんと入れたい。
「今日なんか、いいことでもあったの?
あ、例の契約打ち切りがなくなったとか?」
「あー、うん。
それもあるけど、結婚したんだよねー」
「はぁっ!?」
父親譲りの洋太の糸目が、人並み以上に見開かれる。
意気揚々と掴まれた唐揚げは、箸からぽろりと落ちた。
「どういうこと!?
なあ、親父!」
「それは、その。
……なあ、朋香。
やっぱり」
やはり、朋香が帰ったあとも明夫は社員たちに詰め寄られ、朋香の結婚取り消しを説得されたようだ。
「くどい!
もう決めたことだから」
経営や技術は頼りになる明夫だが、この件に関しては動揺しっぱなしで頼りにならない。
溺愛してきた娘がいきなり契約結婚、となるとそうなるのも無理もないかもしれないが。
「どういうことなんだよ、姉ちゃん。
俺にわかるように説明して」
「どうもこうも。
契約継続とこの先の融資の代わりに、押部社長と結婚しろって。
もう、婚姻届にサインしちゃったし」
明夫は黙ってビールを飲んでいる。
洋太も一気にビールを煽った。
「だいたいなんで、姉ちゃんとの結婚が条件なわけ?」
「知らない。
決まったことって云われた」
「姉ちゃんはそれでいいのか?」
「まあ。
よく考えたらすごい玉の輿だよ。
乗っといて損はないでしょ」
「ねーちゃーん」
洋太にジト目で睨まれるとさすがにたじろいだが、朋香も負けずに睨み返すと、はぁーっと大きなため息をつかれた。
「親父はいいわけ?
姉ちゃんが押部の野郎なんかと結婚して」
「……朋香が決めたことなら仕方ない」
背中を小さく丸めてしまった明夫は急に年を取ってしまった気がする。
「ごちそうさま。
つまみ食いしすぎたかな、腹がいっぱいで」
箸を置くと、明夫は席を立って茶の間に行き、テレビをつけた。
「あー、もう、よくわかんねー!
寝る!」
ガタン、乱暴に椅子を立つと洋太も自分の部屋に行ってしまい、ひとり残された朋香は深いため息を落とした。
……最後のごはんくらい、三人で仲良く食べたかったんだけどな。
残ったおかずにラップをし、冷蔵庫にしまう。
作った常備菜は冷蔵と冷凍にわけ、賞味期限やアレンジレシピを書いたメモを冷蔵庫に貼っておいた。
片づけを済ませると米をとぎ、明日の弁当の準備をする。
最後の弁当だから、ちゃんと入れたい。
6
お気に入りに追加
981
あなたにおすすめの小説
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
○と□~丸い課長と四角い私~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
佐々鳴海。
会社員。
職場の上司、蔵田課長とは犬猿の仲。
水と油。
まあ、そんな感じ。
けれどそんな私たちには秘密があるのです……。
******
6話完結。
毎日21時更新。
Spider
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
花火大会に誘われた。
相手は、会社に出入りしている、コーヒー会社の人。
彼はいつも、超無表情・事務的で。
私も関心がないから、事務的に接してた。
……そんな彼から。
突然誘われた花火大会。
これは一体……?
Good day ! 3
葉月 まい
恋愛
『Good day !』Vol.3
人一倍真面目で努力家のコーパイ 恵真と
イケメンのエリートキャプテン 大和
晴れて入籍した二人が
結婚式の準備を進める中
恵真の妊娠が判明!
そしてそれは
恵真の乗務停止の始まりでもあった…
꙳⋆ ˖𓂃܀✈* 登場人物 *☆܀𓂃˖ ⋆꙳
日本ウイング航空(Japan Wing Airline)
副操縦士
佐倉(藤崎) 恵真(28歳)
機長
佐倉 大和(36歳)
隠れ御曹司の愛に絡めとられて
海棠桔梗
恋愛
目が覚めたら、名前が何だったかさっぱり覚えていない男とベッドを共にしていた――
彼氏に浮気されて更になぜか自分の方が振られて「もう男なんていらない!」って思ってた矢先、強引に参加させられた合コンで出会った、やたら綺麗な顔の男。
古い雑居ビルの一室に住んでるくせに、持ってる腕時計は超高級品。
仕事は飲食店勤務――って、もしかしてホスト!?
チャラい男はお断り!
けれども彼の作る料理はどれも絶品で……
超大手商社 秘書課勤務
野村 亜矢(のむら あや)
29歳
特技:迷子
×
飲食店勤務(ホスト?)
名も知らぬ男
24歳
特技:家事?
「方向音痴・家事音痴の女」は「チャラいけれど家事は完璧な男」の愛に絡め取られて
もう逃げられない――
昨日、彼を振りました。
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「三峰が、好きだ」
四つ年上の同僚、荒木さんに告白された。
でも、いままでの関係でいたかった私は彼を――振ってしまった。
なのに、翌日。
眼鏡をかけてきた荒木さんに胸がきゅんと音を立てる。
いやいや、相手は昨日、振った相手なんですが――!!
三峰未來
24歳
会社員
恋愛はちょっぴり苦手。
恋愛未満の関係に甘えていたいタイプ
×
荒木尚尊
28歳
会社員
面倒見のいい男
嫌われるくらいなら、恋人になれなくてもいい?
昨日振った人を好きになるとかあるのかな……?
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
Promise Ring
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
浅井夕海、OL。
下請け会社の社長、多賀谷さんを社長室に案内する際、ふたりっきりのエレベーターで突然、うなじにキスされました。
若くして独立し、業績も上々。
しかも独身でイケメン、そんな多賀谷社長が地味で無表情な私なんか相手にするはずなくて。
なのに次きたとき、やっぱりふたりっきりのエレベーターで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる