上 下
7 / 129
第2話 玉の輿じゃないかな?

1.押部朋香になりました

しおりを挟む
朋香たちが会社に戻ると、皆に囲まれた。

「それで、話はどうなったんですか」

「……朋香が結婚した」

明夫の言葉に社員全員、怪訝そうに顔を見合わせる。

「社長。
いま、そんな話をしているわけではなくて」

「朋香が結婚したんだ!
押部社長と!
工場のために!」

悲痛な明夫の叫びに一瞬、室内が静かになり朋香に視線が集中した。

「あー、はい。
そういうことです。
今日から押部朋香になりました……」

ははは、誤魔化すように朋香が笑って報告すると、女性陣が一気に明夫に詰め寄る。

「どういうことですか、社長!」

「朋香さんを犠牲にするなんて!」

「女を道具としか思ってないんですか!」

すごい剣幕の女性陣に怯え、涙すら浮かべかねない様子の明夫に、はぁーっ、朋香は大きなため息をついた。

「あー、みなさん落ち着いて……」

「なんで朋香さんはそんなに落ち着いてるんですか!?」

今度は朋香が睨まれて身が竦む思いがしたが、自分の考えを落ち着いて口にする。

「一応、有森さんは反対してくれたんです」

「ならなんで」

確かに、なら、だろう。
こんなめちゃくちゃな条件、飲む必要はない。

「私が押部社長と結婚さえすれば、契約はそのまま、それどころか新製品の開発要請と融資までついてくるんですよ?
こんなにいいことはないじゃないですか」

「でも、朋香ちゃんが犠牲になることじゃない。
いまからでも遅くない、白紙撤回すれば」

頼りにならない父とは違い、有森が朋香を気遣ってくれる。
工場のみんなだって。
それだけで、朋香は自分の下した決断が間違いじゃないと思っいた。

「ほら、押部社長ってあんな大きな会社の社長ってだけでもすごいのに、押部グループの跡取りでもあるんですよ?
これってすごい、玉の輿じゃないですか。
乗っとかないと損かなーって。
だからみなさん、気にする必要はないですよ」

「朋香ちゃん……」

朋香は明るく笑い飛ばすが、みんなはまるで通夜のように意気消沈している。
そういうのは自分が悪いことをしているようで、落ち込むからやめて欲しい。

「心配事はなくなったし、これからはさらに忙しくなりますよ?
ほら、仕事仕事」

無理矢理笑って解散させるように手を振ると、みんな肩を落としたまま去っていく。

……みんなに笑って欲しかっただけなのに。

社長室に明夫とふたりになると、胸がずきずきと痛んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

憧れのあなたとの再会は私の運命を変えました~ハッピーウェディングは御曹司との偽装恋愛から始まる~

けいこ
恋愛
15歳のまだ子どもだった私を励まし続けてくれた家庭教師の「千隼先生」。 私は密かに先生に「憧れ」ていた。 でもこれは、恋心じゃなくただの「憧れ」。 そう思って生きてきたのに、10年の月日が過ぎ去って25歳になった私は、再び「千隼先生」に出会ってしまった。 久しぶりに会った先生は、男性なのにとんでもなく美しい顔立ちで、ありえない程の大人の魅力と色気をまとってた。 まるで人気モデルのような文句のつけようもないスタイルで、その姿は周りを魅了して止まない。 しかも、高級ホテルなどを世界展開する日本有数の大企業「晴月グループ」の御曹司だったなんて… ウエディングプランナーとして働く私と、一緒に仕事をしている仲間達との関係、そして、家族の絆… 様々な人間関係の中で進んでいく新しい展開は、毎日何が起こってるのかわからないくらい目まぐるしくて。 『僕達の再会は…本当の奇跡だ。里桜ちゃんとの出会いを僕は大切にしたいと思ってる』 「憧れ」のままの存在だったはずの先生との再会。 気づけば「千隼先生」に偽装恋愛の相手を頼まれて… ねえ、この出会いに何か意味はあるの? 本当に…「奇跡」なの? それとも… 晴月グループ LUNA BLUホテル東京ベイ 経営企画部長 晴月 千隼(はづき ちはや) 30歳 × LUNA BLUホテル東京ベイ ウエディングプランナー 優木 里桜(ゆうき りお) 25歳 うららかな春の到来と共に、今、2人の止まった時間がキラキラと鮮やかに動き出す。

逢いたくて逢えない先に...

詩織
恋愛
逢いたくて逢えない。 遠距離恋愛は覚悟してたけど、やっぱり寂しい。 そこ先に待ってたものは…

料理音痴

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
朝目覚めたら。 知らない、部屋だった。 ……あー、これってやっちまったって奴ですか? 部屋の主はすでにベッドにいない。 着替えて寝室を出ると、同期の坂下が食事を作っていた。 ……ここって、坂下の部屋? てか、しゃべれ!! 坂下から朝食を勧められ……。

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

社長から逃げろっ

鳴宮鶉子
恋愛
社長から逃げろっ

【完】あなたから、目が離せない。

ツチノカヲリ
恋愛
入社して3年目、デザイン設計会社で膨大な仕事に追われる金目杏里(かなめあんり)は今日も徹夜で図面を引いていた。共に徹夜で仕事をしていた現場監理の松山一成(まつやまひとなり)は、12歳年上の頼れる男性。直属の上司ではないが金目の入社当時からとても世話になっている。お互い「人として」の好感は持っているものの、あくまで普通の会社の仲間、という間柄だった。ところがある夏、金目の30歳の誕生日をきっかけに、だんだんと二人の距離が縮まってきて、、、。 ・全18話、エピソードによってヒーローとヒロインの視点で書かれています。

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。 嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。 だから、仲の良い同期のままでいたい。 そう思っているのに。 今までと違う甘い視線で見つめられて、 “女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。 全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。 「勘違いじゃないから」 告白したい御曹司と 告白されたくない小ボケ女子 ラブバトル開始

Spider

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
花火大会に誘われた。 相手は、会社に出入りしている、コーヒー会社の人。 彼はいつも、超無表情・事務的で。 私も関心がないから、事務的に接してた。 ……そんな彼から。 突然誘われた花火大会。 これは一体……?

処理中です...