2 / 129
第1話 契約継続条件は社長との結婚!?
2.朋香の事情
しおりを挟む
朋香が父親の工場である、若園製作所で働き始めたのは致し方ない事情からだった。
つい半年ほど前、大学を卒業して四年勤めた会社を辞めたから。
別に会社に不満があったわけじゃない。
いまどきブラック企業でもなく、残業は程々、休日出勤も滅多にない。
給料もまあ不満がない程度には出ていたし、ボーナスだってあった。
会社自体には不満はなかったが、同じ会社で二つ年上の彼氏、吉田亮平が歓迎会の翌日、新入社員の淡島桃子と一緒に出社してきた。
亮平は前日と同じスーツにネクタイで、一目でなにがあったのか察しがつく。
「誤解だ」
終業後、誤解を解きたいとなぜか三人できたコーヒーショップ。
向かい合う朋香の正面に座る亮平に、隣に座る桃子は手を握ってべったりとくっついている。
これで誤解もなにもないだろう。
「俺は淡島を送っていっただけ、で」
「泊まったんだよね」
「終電なくなってたから!
でも、泊まっただけでなにも!」
「へー」
焦ってる亮平が白々しくて、ずずっと冷たいアイスコーヒーを飲むとあたまがさらに冷えた。
「亮平くーん。
今日も桃子のおうちにお泊まりする?」
「ちょっ、桃子、黙ってろ」
張り付く桃子を引き剥がしてみせる亮平だが、あきらかに鼻の下が延びている。
桃子がちらりと勝ち誇った視線を投げてきて、完全に気持ちが醒めた。
こんな、男のことしかあたまにない女に引っかかる亮平も亮平だと思うし、そんな亮平を好きだった自分も莫迦だと思う。
「あー、はいはい。
おふたりでお幸せにねー」
「待て、話はまだ」
亮平はまだなにか云いたげだが、つまらない云い訳をこれ以上聞く気もなくて、無視して店を出る。
翌朝、出社と同時に、上司に退職願を出した。
亮平にも桃子にも、顔を合わせるのが嫌になるほど、嫌気が差していたから。
同僚は亮平が悪いんだから朋香が辞めることはないと止めてくれたが、聞かなかった。
考えなしで辞めたことは後悔しないでもないが、あのままふたりと同じ空気を吸っているのはやはり自分には我慢できなかったので、これでよかったのだと思う。
すぐに就職活動は始めたが、なかなか見つからない。
三ヶ月ほど過ごした頃、父親がとうとう痺れを切らした。
「おまえ、仕事は決まらないのか」
「あー、うん」
少しずつ減っていく貯金に焦りも出始めている。
こんなことならあんなつまらないことで辞めなきゃよかった、そんな後悔があたまを掠める。
「それなら俺の秘書でもしろ」
「は?」
わけがわからなくてまじまじと父親の顔を見ると、苦笑いされた。
「おまえ、秘書検定二級だっけ?
持ってただろ。
小遣い程度には給料も出してやる」
「あー」
きっと、父なりに気を使ってくれてるんだと思う。
亮平とはそろそろ結婚とか考えていて、家族に紹介していた。
さらには仕事が決まらないことへの焦り。
素直に口には出さないが、父の気持ちが嬉しかった。
「わかったー」
それ以来、朋香は父親で若園製作所社長の、明夫の秘書のまねごとをしているのだ。
つい半年ほど前、大学を卒業して四年勤めた会社を辞めたから。
別に会社に不満があったわけじゃない。
いまどきブラック企業でもなく、残業は程々、休日出勤も滅多にない。
給料もまあ不満がない程度には出ていたし、ボーナスだってあった。
会社自体には不満はなかったが、同じ会社で二つ年上の彼氏、吉田亮平が歓迎会の翌日、新入社員の淡島桃子と一緒に出社してきた。
亮平は前日と同じスーツにネクタイで、一目でなにがあったのか察しがつく。
「誤解だ」
終業後、誤解を解きたいとなぜか三人できたコーヒーショップ。
向かい合う朋香の正面に座る亮平に、隣に座る桃子は手を握ってべったりとくっついている。
これで誤解もなにもないだろう。
「俺は淡島を送っていっただけ、で」
「泊まったんだよね」
「終電なくなってたから!
でも、泊まっただけでなにも!」
「へー」
焦ってる亮平が白々しくて、ずずっと冷たいアイスコーヒーを飲むとあたまがさらに冷えた。
「亮平くーん。
今日も桃子のおうちにお泊まりする?」
「ちょっ、桃子、黙ってろ」
張り付く桃子を引き剥がしてみせる亮平だが、あきらかに鼻の下が延びている。
桃子がちらりと勝ち誇った視線を投げてきて、完全に気持ちが醒めた。
こんな、男のことしかあたまにない女に引っかかる亮平も亮平だと思うし、そんな亮平を好きだった自分も莫迦だと思う。
「あー、はいはい。
おふたりでお幸せにねー」
「待て、話はまだ」
亮平はまだなにか云いたげだが、つまらない云い訳をこれ以上聞く気もなくて、無視して店を出る。
翌朝、出社と同時に、上司に退職願を出した。
亮平にも桃子にも、顔を合わせるのが嫌になるほど、嫌気が差していたから。
同僚は亮平が悪いんだから朋香が辞めることはないと止めてくれたが、聞かなかった。
考えなしで辞めたことは後悔しないでもないが、あのままふたりと同じ空気を吸っているのはやはり自分には我慢できなかったので、これでよかったのだと思う。
すぐに就職活動は始めたが、なかなか見つからない。
三ヶ月ほど過ごした頃、父親がとうとう痺れを切らした。
「おまえ、仕事は決まらないのか」
「あー、うん」
少しずつ減っていく貯金に焦りも出始めている。
こんなことならあんなつまらないことで辞めなきゃよかった、そんな後悔があたまを掠める。
「それなら俺の秘書でもしろ」
「は?」
わけがわからなくてまじまじと父親の顔を見ると、苦笑いされた。
「おまえ、秘書検定二級だっけ?
持ってただろ。
小遣い程度には給料も出してやる」
「あー」
きっと、父なりに気を使ってくれてるんだと思う。
亮平とはそろそろ結婚とか考えていて、家族に紹介していた。
さらには仕事が決まらないことへの焦り。
素直に口には出さないが、父の気持ちが嬉しかった。
「わかったー」
それ以来、朋香は父親で若園製作所社長の、明夫の秘書のまねごとをしているのだ。
10
お気に入りに追加
982
あなたにおすすめの小説
戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
水都 ミナト
恋愛
最高峰の魔法の研究施設である魔塔。
そこでは、生活に不可欠な魔導具の生産や開発を行われている。
最愛の父と母を失い、継母に生家を乗っ取られ居場所を失ったシルファは、ついには戸籍ごと魔塔に売り飛ばされてしまった。
そんなシルファが配属されたのは、魔導具の『メンテナンス部』であった。
上層階ほど尊ばれ、難解な技術を必要とする部署が配置される魔塔において、メンテナンス部は最底辺の地下に位置している。
貴族の生まれながらも、魔法を発動することができないシルファは、唯一の取り柄である周囲の魔力を吸収して体内で中和する力を活かし、日々魔導具のメンテナンスに従事していた。
実家の後ろ盾を無くし、一人で粛々と生きていくと誓っていたシルファであったが、
上司に愛人になれと言い寄られて困り果てていたところ、突然魔塔の最高責任者ルーカスに呼びつけられる。
そこで知ったルーカスの秘密。
彼はとある事件で自分自身を守るために退行魔法で少年の姿になっていたのだ。
元の姿に戻るためには、シルファの力が必要だという。
戸惑うシルファに提案されたのは、互いの利のために結ぶ契約結婚であった。
シルファはルーカスに協力するため、そして自らの利のためにその提案に頷いた。
所詮はお飾りの妻。役目を果たすまでの仮の妻。
そう覚悟を決めようとしていたシルファに、ルーカスは「俺は、この先誰でもない、君だけを大切にすると誓う」と言う。
心が追いつかないまま始まったルーカスとの生活は温かく幸せに満ちていて、シルファは少しずつ失ったものを取り戻していく。
けれど、継母や上司の男の手が忍び寄り、シルファがようやく見つけた居場所が脅かされることになる。
シルファは自分の居場所を守り抜き、ルーカスの退行魔法を解除することができるのか――
※他サイトでも公開しています
※10万字程度で完結保証
※1/30〜7:10,12:10,17:10の3回更新予定
【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜
四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」
度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。
事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。
しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。
楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。
その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。
ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。
その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。
敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。
それから、3年が経ったある日。
日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。
「私は若佐先生の事を何も知らない」
このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。
目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。
❄︎
※他サイトにも掲載しています。
出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
玖羽 望月
恋愛
親族に代々議員を輩出するような家に生まれ育った鷹柳実乃莉は、意に沿わぬお見合いをさせられる。
なんとか相手から断ってもらおうとイメージチェンジをし待ち合わせのレストランに向かった。
そこで案内された席にいたのは皆上龍だった。
が、それがすでに間違いの始まりだった。
鷹柳 実乃莉【たかやなぎ みのり】22才
何事も控えめにと育てられてきたお嬢様。
皆上 龍【みなかみ りょう】 33才
自分で一から始めた会社の社長。
作中に登場する職業や内容はまったくの想像です。実際とはかけ離れているかと思います。ご了承ください。
初出はエブリスタにて。
2023.4.24〜2023.8.9
憧れのあなたとの再会は私の運命を変えました~ハッピーウェディングは御曹司との偽装恋愛から始まる~
けいこ
恋愛
15歳のまだ子どもだった私を励まし続けてくれた家庭教師の「千隼先生」。
私は密かに先生に「憧れ」ていた。
でもこれは、恋心じゃなくただの「憧れ」。
そう思って生きてきたのに、10年の月日が過ぎ去って25歳になった私は、再び「千隼先生」に出会ってしまった。
久しぶりに会った先生は、男性なのにとんでもなく美しい顔立ちで、ありえない程の大人の魅力と色気をまとってた。
まるで人気モデルのような文句のつけようもないスタイルで、その姿は周りを魅了して止まない。
しかも、高級ホテルなどを世界展開する日本有数の大企業「晴月グループ」の御曹司だったなんて…
ウエディングプランナーとして働く私と、一緒に仕事をしている仲間達との関係、そして、家族の絆…
様々な人間関係の中で進んでいく新しい展開は、毎日何が起こってるのかわからないくらい目まぐるしくて。
『僕達の再会は…本当の奇跡だ。里桜ちゃんとの出会いを僕は大切にしたいと思ってる』
「憧れ」のままの存在だったはずの先生との再会。
気づけば「千隼先生」に偽装恋愛の相手を頼まれて…
ねえ、この出会いに何か意味はあるの?
本当に…「奇跡」なの?
それとも…
晴月グループ
LUNA BLUホテル東京ベイ 経営企画部長
晴月 千隼(はづき ちはや) 30歳
×
LUNA BLUホテル東京ベイ
ウエディングプランナー
優木 里桜(ゆうき りお) 25歳
うららかな春の到来と共に、今、2人の止まった時間がキラキラと鮮やかに動き出す。
2人のあなたに愛されて ~歪んだ溺愛と密かな溺愛~
けいこ
恋愛
「柚葉ちゃん。僕と付き合ってほしい。ずっと君のことが好きだったんだ」
片思いだった若きイケメン社長からの突然の告白。
嘘みたいに深い愛情を注がれ、毎日ドキドキの日々を過ごしてる。
「僕の奥さんは柚葉しかいない。どんなことがあっても、一生君を幸せにするから。嘘じゃないよ。絶対に君を離さない」
結婚も決まって幸せ過ぎる私の目の前に現れたのは、もう1人のあなた。
大好きな彼の双子の弟。
第一印象は最悪――
なのに、信じられない裏切りによって天国から地獄に突き落とされた私を、あなたは不器用に包み込んでくれる。
愛情、裏切り、偽装恋愛、同居……そして、結婚。
あんなに穏やかだったはずの日常が、突然、嵐に巻き込まれたかのように目まぐるしく動き出す――
月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜
白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳
yayoi
×
月城尊 29歳
takeru
母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司
彼は、母が持っていた指輪を探しているという。
指輪を巡る秘密を探し、
私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。
溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる