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第18話 誰のための復讐?
5.お家騒動
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尚一郎の開いた記者会見以降、テレビや週刊誌はオシベの話題ばかりだった。
【孫と祖父 骨肉の争い!】
【被害者はほかにも?
浮かび上がるオシベの不正】
【目的は復讐?
押部尚一郎の悲しい過去】
その目立つ見た目と相まって、おもしろおかしく尚一郎のことを騒ぎ立てる人たちに腹が立つ。
万理奈や、その父親が経営していたエルピス製薬の話も調べ上げられている。
それでも尚一郎が気になって、会見やインタビューを受ける尚一郎をできるだけテレビで見ていた。
テレビに映る尚一郎はりりしくは見えたが、少しもきらきらと星が飛んでいなくて疲れているのだと窺わせ、朋香を心配にさせた。
「社長、丸尾弁護士がお見えになりました」
「こんにちは」
「いつもお世話になっております」
社長室に丸尾を通すと、待っていた明夫に有森、西井がソファーからそろって腰を上げた。
朋香がお茶を出し、ソファーの後ろに立つと、明夫が口を開いた。
「それで。
オシベからの謝罪を受けるかどうかという話なのですが……」
社内ではオシベへの対応で揉めていた。
オシベにはいままで何度も煮え湯を飲まされてきたのだから、裁判で争って決着をつけるべきだと、強硬な姿勢を西井たちは取っていた。
その反対に明夫や有森は謝罪を受け入れ穏便に済ませたいと思っている。
いくら話し合っても意見は平行線で、今後の対応もあるし丸尾の意見を聞こうということになった。
「そうですね。
若園製作所さん次第だと思います。
徹底的に裁判で争っても今回の件はすでにオシベの方から和解を申し入れてきているだけに、勝てます。
けれど和解金もそれなりに提示されているだけに、受け入れてもいいかと」
「はぁ……」
それではやはりどちらにも決まらずに困るのだ。
結局、今日の話し合いでも結論は出なかった。
ピンポン、休日、鳴ったチャイムに玄関を開けると、侑岐が立ってた。
「ハロー、朋香」
「侑岐さん!?
帰国するなら連絡くれればよかったのに!」
「朋香を驚かせようと思って」
にやりと口角をつり上げて笑う侑岐はいつも通りで、ついつい笑ってしまう。
「朋香、いま暇よね?
ショッピングに付き合いなさいよ」
「えっ、……おとーさーん、ちょっと出かけてくるねー」
強引に引きずられていく先には真っ赤なフェラーリが見えて……いつぞやの恐怖がよみがえった。
相変わらずの急発進と急ブレーキを繰り返す運転にぐったり疲れて着いた先は一度、拉致されたアウトレットモールだった。
「朋香、これ着てみて」
「はーい」
前回と違い、怯えることもなく試着室に入って試着する。
外ではやはり、店員が侑岐に振り回されているようだ。
「朋香、開けるわよ。
……うん、なかなか似合ってる。
それにしても、少し痩せたんじゃないの?」
「そ、そうですか?」
自分ではわからないが、そうなのだろうか。
そういえば尚一郎の屋敷で日課だった、三時の高カロリーケーキはなくなったのでその分、痩せたのかもしれない。
「ウエスト、私の手が入っちゃうわ。
胸だって……」
「ちょっ、侑岐さん!」
やわやわと後ろから胸を揉む侑岐に慌ててしまう。
赤くなった朋香に侑岐はにやりと笑うと手を離した。
「もう少し、肉を付けなさい?
じゃないと……なんでもないわ」
云いかけてやめ、困ったように笑う侑岐がなにを云いそうになったのかはすぐにわかり、苦笑いしてしまう。
「そうですね、侑岐さんに嫌われるのは嫌ですから」
「そうそう。
私は少しくらい、ぽっちゃりの方が好みよ?」
笑う侑岐に笑って返しながら、もうあの人は自分を抱きしめてくれないだと気づき、胸がずきんと痛んだ。
ある程度、買い物が済むと、コーヒーショップで一息つく。
「云おうかどうしようか迷っていたけど。
やっぱり伝えておくわ」
「侑岐さん?」
少し声を潜めた侑岐に、尚一郎が自分を失望させるようなことを云っていたんじゃないかと、嫌な予感しかしない。
「朋香に弁護士を紹介して欲しいって、頼んできたのは尚一郎なの」
「……そう、ですか」
ずずっ、啜った、クリームたっぷりの甘いドリンクがなぜか苦く感じた。
「朋香はやっぱり、尚一郎が嫌いになったわよね」
「それは……」
確かに一度は、裏切られたと絶望もした。
けれど落ち着いてから考えると、あの幸せそうな顔が、あの淋しそうな顔が、演技だとは思えない。
きっと尚一郎にはなにか事情があったのだと思いながらも、話してくれないことが淋しくて悲しかった。
「私は尚一郎さんを信じたい……です」
「よかった」
嬉しそうに笑う侑岐に、自分は尚一郎を信じていていいのだと自信が持てた。
【孫と祖父 骨肉の争い!】
【被害者はほかにも?
浮かび上がるオシベの不正】
【目的は復讐?
押部尚一郎の悲しい過去】
その目立つ見た目と相まって、おもしろおかしく尚一郎のことを騒ぎ立てる人たちに腹が立つ。
万理奈や、その父親が経営していたエルピス製薬の話も調べ上げられている。
それでも尚一郎が気になって、会見やインタビューを受ける尚一郎をできるだけテレビで見ていた。
テレビに映る尚一郎はりりしくは見えたが、少しもきらきらと星が飛んでいなくて疲れているのだと窺わせ、朋香を心配にさせた。
「社長、丸尾弁護士がお見えになりました」
「こんにちは」
「いつもお世話になっております」
社長室に丸尾を通すと、待っていた明夫に有森、西井がソファーからそろって腰を上げた。
朋香がお茶を出し、ソファーの後ろに立つと、明夫が口を開いた。
「それで。
オシベからの謝罪を受けるかどうかという話なのですが……」
社内ではオシベへの対応で揉めていた。
オシベにはいままで何度も煮え湯を飲まされてきたのだから、裁判で争って決着をつけるべきだと、強硬な姿勢を西井たちは取っていた。
その反対に明夫や有森は謝罪を受け入れ穏便に済ませたいと思っている。
いくら話し合っても意見は平行線で、今後の対応もあるし丸尾の意見を聞こうということになった。
「そうですね。
若園製作所さん次第だと思います。
徹底的に裁判で争っても今回の件はすでにオシベの方から和解を申し入れてきているだけに、勝てます。
けれど和解金もそれなりに提示されているだけに、受け入れてもいいかと」
「はぁ……」
それではやはりどちらにも決まらずに困るのだ。
結局、今日の話し合いでも結論は出なかった。
ピンポン、休日、鳴ったチャイムに玄関を開けると、侑岐が立ってた。
「ハロー、朋香」
「侑岐さん!?
帰国するなら連絡くれればよかったのに!」
「朋香を驚かせようと思って」
にやりと口角をつり上げて笑う侑岐はいつも通りで、ついつい笑ってしまう。
「朋香、いま暇よね?
ショッピングに付き合いなさいよ」
「えっ、……おとーさーん、ちょっと出かけてくるねー」
強引に引きずられていく先には真っ赤なフェラーリが見えて……いつぞやの恐怖がよみがえった。
相変わらずの急発進と急ブレーキを繰り返す運転にぐったり疲れて着いた先は一度、拉致されたアウトレットモールだった。
「朋香、これ着てみて」
「はーい」
前回と違い、怯えることもなく試着室に入って試着する。
外ではやはり、店員が侑岐に振り回されているようだ。
「朋香、開けるわよ。
……うん、なかなか似合ってる。
それにしても、少し痩せたんじゃないの?」
「そ、そうですか?」
自分ではわからないが、そうなのだろうか。
そういえば尚一郎の屋敷で日課だった、三時の高カロリーケーキはなくなったのでその分、痩せたのかもしれない。
「ウエスト、私の手が入っちゃうわ。
胸だって……」
「ちょっ、侑岐さん!」
やわやわと後ろから胸を揉む侑岐に慌ててしまう。
赤くなった朋香に侑岐はにやりと笑うと手を離した。
「もう少し、肉を付けなさい?
じゃないと……なんでもないわ」
云いかけてやめ、困ったように笑う侑岐がなにを云いそうになったのかはすぐにわかり、苦笑いしてしまう。
「そうですね、侑岐さんに嫌われるのは嫌ですから」
「そうそう。
私は少しくらい、ぽっちゃりの方が好みよ?」
笑う侑岐に笑って返しながら、もうあの人は自分を抱きしめてくれないだと気づき、胸がずきんと痛んだ。
ある程度、買い物が済むと、コーヒーショップで一息つく。
「云おうかどうしようか迷っていたけど。
やっぱり伝えておくわ」
「侑岐さん?」
少し声を潜めた侑岐に、尚一郎が自分を失望させるようなことを云っていたんじゃないかと、嫌な予感しかしない。
「朋香に弁護士を紹介して欲しいって、頼んできたのは尚一郎なの」
「……そう、ですか」
ずずっ、啜った、クリームたっぷりの甘いドリンクがなぜか苦く感じた。
「朋香はやっぱり、尚一郎が嫌いになったわよね」
「それは……」
確かに一度は、裏切られたと絶望もした。
けれど落ち着いてから考えると、あの幸せそうな顔が、あの淋しそうな顔が、演技だとは思えない。
きっと尚一郎にはなにか事情があったのだと思いながらも、話してくれないことが淋しくて悲しかった。
「私は尚一郎さんを信じたい……です」
「よかった」
嬉しそうに笑う侑岐に、自分は尚一郎を信じていていいのだと自信が持てた。
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