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第18話 誰のための復讐?
4.信じてあげて
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一縷の光明が見えたことで、工場は一気に明るさを取り戻した。
明夫や有森から大口出資者として朋香を役員にしてはどうか、などと冗談も出たが、ならということでまた、明夫の秘書として働かせてもらっている。
「大変です!」
もぎ取らん勢いで社長室のドアを開けた西井に、つい怯えてしまう。
これから長い裁判だとはいえ、ひとまず落ち着いたのだ。
これ以上の騒ぎはごめん被りたい。
「な、なんだ?」
明夫もやはり、何事かと怯えている。
「あっ、テレビ、テレビ!」
西井は応接テーブルに置いてあったリモコンを取るとテレビをつけた。
『このたびはこのような騒ぎになり、誠に申し訳ございませんでした』
テレビの中の金髪の男がお辞儀するのにあわせて、フラッシュが激しく点滅する。
『今回の件はすべて、CEOである達之助氏に責任がある、そうですか!?』
『CEOではなく前CEOです。
押部達之助には昨日付でその職から降りていただきました』
『やはり、達之助氏にすべての責任があると!?』
『前CEOの暴走を許してしまった、我々にも責任があります。
大変ご迷惑をかけた若園製作所様にはこの場を借りて、深くお詫び申し上げます』
再び、お辞儀にあわせてフラッシュが激しく点滅した。
「どういうことだ?」
「どうもこうも。
ついさっき、オシベから記者会見を開くからテレビを見て欲しいって連絡があって。
それで、見てみたらこうだった、ってわけですよ」
明夫も西井も完全に困惑している。
記者会見が終わった頃、社長室の電話が鳴った。
「はい」
『その、オシベの弁護士の羽山様から社長にお電話なんですが……』
電話の向こうで事務の女性は戸惑っているが、それもそうだろう。
いままでオシベの弁護士として電話をしてきていたのは三木だった。
「わかりました。
……社長、オシベの弁護士の羽山様からお電話です」
「三木じゃないのか」
「はい、羽山様です」
「わかった。
……お電話代わりました、若園ですが」
羽山は尚一郎が個人的に雇っている弁護士で、会社は別なのだと以前云っていった。
なのに、オシベの弁護士として電話してくるとはどういうことなのだろうか。
「はい。
……はい。
……それは……はい、わかりました。
ありがとうございます。
……はい、それでは」
「今度はオシベ、なにを云ってきたんですか!?」
電話が終わると同時にぐいっと顔を近づけた西井に、明夫の背中が少しのけぞった。
「一連の説明と謝罪にお伺いしたい、とのことだ……」
「はぁっ!?」
西井は怒っているが、当たり前だ。
あれほど被害者面していたのに、手のひらを返したように謝罪などと。
「オシベ、なに考えてるんですかね!?
また、うちをはめようとしてるんじゃ!?」
「あの」
おずおずと手を挙げると、西井にじろっと睨まれて身が竦んだ。
けれど、西井の疑いは解いておきたい。
――尚一郎のためとかじゃなく。
「オシベ、CEO派とCOO派で対立してて。
それで、いろいろ横暴なことをやってたのはCEOなんです」
「知ってるよ、それくらい。
有名な話だ」
「でも、たぶん、今回の件は私に対する嫌がらせだから……」
「は?」
西井も明夫も面食らって顔を見合わせている。
確かに、朋香への嫌がらせで会社が倒産の危機に立たされるなどと思わないだろう。
「お祖父さんは尚一郎さんのことを嫌ってて、尚一郎さんを苦しめるためだったらなんだってするの。
だから、私に嫌がらせしたら、尚一郎さんへの嫌がらせになるから……」
「そんな理由で?」
頷くと、ふたりはそろって信じられないという顔をした。
しかし実際、達之助はないことをでっち上げて犬飼の父親の会社を潰している。
「ごめんなさい……。
いつ云おうか迷ってた……」
話してしまうと胸のつっかえがとれ涙が出てきて、慌てて顔を拭う。
「だから、尚一郎さんは本当に謝罪したいだけだと思うの。
信じてあげて欲しい」
偽装するような工場の娘は妻にしておけないなどと云っていたが、きっと、あれは尚一郎の本心じゃない。
そうでなければ、工場を救ってくれたりするはずがないのだ。
あの日は態度を急変させた尚一郎に裏切られたと思ったが、自分はなにか見落としているんじゃないか。
尚一郎は自分といるとき、あんなにも幸せそうで嬉しそうだったじゃないか。
「尚一郎さんを信じてあげて」
それは、朋香自身に向けた言葉だった。
明夫や有森から大口出資者として朋香を役員にしてはどうか、などと冗談も出たが、ならということでまた、明夫の秘書として働かせてもらっている。
「大変です!」
もぎ取らん勢いで社長室のドアを開けた西井に、つい怯えてしまう。
これから長い裁判だとはいえ、ひとまず落ち着いたのだ。
これ以上の騒ぎはごめん被りたい。
「な、なんだ?」
明夫もやはり、何事かと怯えている。
「あっ、テレビ、テレビ!」
西井は応接テーブルに置いてあったリモコンを取るとテレビをつけた。
『このたびはこのような騒ぎになり、誠に申し訳ございませんでした』
テレビの中の金髪の男がお辞儀するのにあわせて、フラッシュが激しく点滅する。
『今回の件はすべて、CEOである達之助氏に責任がある、そうですか!?』
『CEOではなく前CEOです。
押部達之助には昨日付でその職から降りていただきました』
『やはり、達之助氏にすべての責任があると!?』
『前CEOの暴走を許してしまった、我々にも責任があります。
大変ご迷惑をかけた若園製作所様にはこの場を借りて、深くお詫び申し上げます』
再び、お辞儀にあわせてフラッシュが激しく点滅した。
「どういうことだ?」
「どうもこうも。
ついさっき、オシベから記者会見を開くからテレビを見て欲しいって連絡があって。
それで、見てみたらこうだった、ってわけですよ」
明夫も西井も完全に困惑している。
記者会見が終わった頃、社長室の電話が鳴った。
「はい」
『その、オシベの弁護士の羽山様から社長にお電話なんですが……』
電話の向こうで事務の女性は戸惑っているが、それもそうだろう。
いままでオシベの弁護士として電話をしてきていたのは三木だった。
「わかりました。
……社長、オシベの弁護士の羽山様からお電話です」
「三木じゃないのか」
「はい、羽山様です」
「わかった。
……お電話代わりました、若園ですが」
羽山は尚一郎が個人的に雇っている弁護士で、会社は別なのだと以前云っていった。
なのに、オシベの弁護士として電話してくるとはどういうことなのだろうか。
「はい。
……はい。
……それは……はい、わかりました。
ありがとうございます。
……はい、それでは」
「今度はオシベ、なにを云ってきたんですか!?」
電話が終わると同時にぐいっと顔を近づけた西井に、明夫の背中が少しのけぞった。
「一連の説明と謝罪にお伺いしたい、とのことだ……」
「はぁっ!?」
西井は怒っているが、当たり前だ。
あれほど被害者面していたのに、手のひらを返したように謝罪などと。
「オシベ、なに考えてるんですかね!?
また、うちをはめようとしてるんじゃ!?」
「あの」
おずおずと手を挙げると、西井にじろっと睨まれて身が竦んだ。
けれど、西井の疑いは解いておきたい。
――尚一郎のためとかじゃなく。
「オシベ、CEO派とCOO派で対立してて。
それで、いろいろ横暴なことをやってたのはCEOなんです」
「知ってるよ、それくらい。
有名な話だ」
「でも、たぶん、今回の件は私に対する嫌がらせだから……」
「は?」
西井も明夫も面食らって顔を見合わせている。
確かに、朋香への嫌がらせで会社が倒産の危機に立たされるなどと思わないだろう。
「お祖父さんは尚一郎さんのことを嫌ってて、尚一郎さんを苦しめるためだったらなんだってするの。
だから、私に嫌がらせしたら、尚一郎さんへの嫌がらせになるから……」
「そんな理由で?」
頷くと、ふたりはそろって信じられないという顔をした。
しかし実際、達之助はないことをでっち上げて犬飼の父親の会社を潰している。
「ごめんなさい……。
いつ云おうか迷ってた……」
話してしまうと胸のつっかえがとれ涙が出てきて、慌てて顔を拭う。
「だから、尚一郎さんは本当に謝罪したいだけだと思うの。
信じてあげて欲しい」
偽装するような工場の娘は妻にしておけないなどと云っていたが、きっと、あれは尚一郎の本心じゃない。
そうでなければ、工場を救ってくれたりするはずがないのだ。
あの日は態度を急変させた尚一郎に裏切られたと思ったが、自分はなにか見落としているんじゃないか。
尚一郎は自分といるとき、あんなにも幸せそうで嬉しそうだったじゃないか。
「尚一郎さんを信じてあげて」
それは、朋香自身に向けた言葉だった。
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