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第18話 誰のための復讐?
2.慰謝料
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次の日、明夫に弁護士の件を相談した。
会社で検討したいとのことで、預ける。
携帯を解約に行く前に銀行に寄った。
実家に帰る交通費をのぞいて尚一郎の屋敷に置いてきたので、ほぼ一文無しだ。
また就職活動をしなければいけないし、あまりお金は使いたくないが、多少は手元にないと困る。
「え……?」
お金をおろし、残高を見てなにかの間違いだと思った。
額が思っていたよりも多い。
――多すぎる。
「ちょっと待って……一、十、百……億ってなに!?」
意味がわからなくて入金先を確認すると、羽山の事務所の名前になっていた。
気持ち悪くて速攻で羽山に電話をかける。
『はい、羽山法律事務所です』
「あの、押部……じゃない、若園ですけど、そちらから多額の振り込みがされてて、なにかの間違いじゃないかと思うんですけど」
『少々お待ちください』
保留音のあいだ、別に悪いことをしているわけじゃないのに、手のひらはじっとりと汗をかいていた。
『お電話代わりました、羽山です。
昨日、交わした契約を元に、押部様からの離婚の慰謝料を所定の金額、振り込ませていただきましたが』
「慰謝料、ですか?」
昨日、尚一郎は慰謝料を請求されると困るから、この書類にサインしろと云ったのだ。
なのにどういうことだろう。
『はい。
今回と同じ金額をあと二回、振り込むことになっております。
それで、完了になります』
「その、……どういうこと、ですか」
説明も聞かずにサインしたことを後悔した。
そうすればこんな気持ち悪い展開にはならなかった。
『所定の金額、慰謝料を渡す代わりに、今後一切、押部尚一郎様と関わらない、そういう契約になっております』
「これ、返すことは……」
『できませんね』
どうしてそこまでして尚一郎が自分と手を切りたいのかわからない。
慰謝料としてもらったお金は手を着けずにおこうと朋香は決めた。
夜、帰ってきた明夫から、弁護士の件について結論を聞いた。
「頼みたいのは山々なんだが、金がな……」
オシベへの融資の返済に賠償金だけじゃない。
ほとんどの企業から契約も切られ、売掛金回収の催促を受けていた。
工場を畳んで売り払ったとしても、多額の負債が残る。
……お金があれば。
ふと思い出すのは、昼間見た、自分の通帳。
あれだけのお金があればなんとかなるんじゃないか。
それに足りなくてもあと二回、同額の振り込みがあると羽山は云っていた。
それだけあれば、間違いなく足りるはず。
けれどあれば尚一郎が手切れ金としてよこした慰謝料で、手を着けないと決めたのだ。
でも、このままでは工場は潰れてしまう。
しかし……。
しばらく悩んだあと、朋香は自分の通帳をテーブルの上に乗せた。
「お父さん。
このお金、使って欲しい」
「娘に頼るわけにはいかない。
それに悪いが、おまえの貯蓄程度でどうにかできる額じゃない」
「いいから、見て」
無理矢理、押しつけられた通帳を開いた明夫は、目玉がこぼれんばかりに大きく見開き、何度も視線を通帳と朋香の顔のあいだに往復させた。
「尚一郎さんからの慰謝料だって。
受け取るつもりはなかったの。
でも、返せないらしいから工場のために使って」
「……いいのか」
「うん。
それに、うちに嫌がらせしてきたオシベに、尚一郎さんのお金でやり返すって痛快じゃない?」
思いっきり皮肉って笑うと、明夫も苦笑いを浮かべる。
「恩に着る。
おまえには二度も、工場を救われた」
「まだなにもかもこれで元通りってわけじゃないんだから!
弁護士さんの件、侑岐さんにお願いしとくね」
「よろしく頼む」
少しだけ、ほっとした表情を見せた明夫に朋香も安心した。
これできっとなんとかなるはずだ、達之助や……あんな、尚一郎に工場を潰させたりはしない。
会社で検討したいとのことで、預ける。
携帯を解約に行く前に銀行に寄った。
実家に帰る交通費をのぞいて尚一郎の屋敷に置いてきたので、ほぼ一文無しだ。
また就職活動をしなければいけないし、あまりお金は使いたくないが、多少は手元にないと困る。
「え……?」
お金をおろし、残高を見てなにかの間違いだと思った。
額が思っていたよりも多い。
――多すぎる。
「ちょっと待って……一、十、百……億ってなに!?」
意味がわからなくて入金先を確認すると、羽山の事務所の名前になっていた。
気持ち悪くて速攻で羽山に電話をかける。
『はい、羽山法律事務所です』
「あの、押部……じゃない、若園ですけど、そちらから多額の振り込みがされてて、なにかの間違いじゃないかと思うんですけど」
『少々お待ちください』
保留音のあいだ、別に悪いことをしているわけじゃないのに、手のひらはじっとりと汗をかいていた。
『お電話代わりました、羽山です。
昨日、交わした契約を元に、押部様からの離婚の慰謝料を所定の金額、振り込ませていただきましたが』
「慰謝料、ですか?」
昨日、尚一郎は慰謝料を請求されると困るから、この書類にサインしろと云ったのだ。
なのにどういうことだろう。
『はい。
今回と同じ金額をあと二回、振り込むことになっております。
それで、完了になります』
「その、……どういうこと、ですか」
説明も聞かずにサインしたことを後悔した。
そうすればこんな気持ち悪い展開にはならなかった。
『所定の金額、慰謝料を渡す代わりに、今後一切、押部尚一郎様と関わらない、そういう契約になっております』
「これ、返すことは……」
『できませんね』
どうしてそこまでして尚一郎が自分と手を切りたいのかわからない。
慰謝料としてもらったお金は手を着けずにおこうと朋香は決めた。
夜、帰ってきた明夫から、弁護士の件について結論を聞いた。
「頼みたいのは山々なんだが、金がな……」
オシベへの融資の返済に賠償金だけじゃない。
ほとんどの企業から契約も切られ、売掛金回収の催促を受けていた。
工場を畳んで売り払ったとしても、多額の負債が残る。
……お金があれば。
ふと思い出すのは、昼間見た、自分の通帳。
あれだけのお金があればなんとかなるんじゃないか。
それに足りなくてもあと二回、同額の振り込みがあると羽山は云っていた。
それだけあれば、間違いなく足りるはず。
けれどあれば尚一郎が手切れ金としてよこした慰謝料で、手を着けないと決めたのだ。
でも、このままでは工場は潰れてしまう。
しかし……。
しばらく悩んだあと、朋香は自分の通帳をテーブルの上に乗せた。
「お父さん。
このお金、使って欲しい」
「娘に頼るわけにはいかない。
それに悪いが、おまえの貯蓄程度でどうにかできる額じゃない」
「いいから、見て」
無理矢理、押しつけられた通帳を開いた明夫は、目玉がこぼれんばかりに大きく見開き、何度も視線を通帳と朋香の顔のあいだに往復させた。
「尚一郎さんからの慰謝料だって。
受け取るつもりはなかったの。
でも、返せないらしいから工場のために使って」
「……いいのか」
「うん。
それに、うちに嫌がらせしてきたオシベに、尚一郎さんのお金でやり返すって痛快じゃない?」
思いっきり皮肉って笑うと、明夫も苦笑いを浮かべる。
「恩に着る。
おまえには二度も、工場を救われた」
「まだなにもかもこれで元通りってわけじゃないんだから!
弁護士さんの件、侑岐さんにお願いしとくね」
「よろしく頼む」
少しだけ、ほっとした表情を見せた明夫に朋香も安心した。
これできっとなんとかなるはずだ、達之助や……あんな、尚一郎に工場を潰させたりはしない。
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