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第16話 新婚旅行へゴー!
3.母と息子
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尚一郎を部屋に押し込むと強引に、カーテから散歩に連れ出された。
「朋香はまだ、ドイツ語が十分じゃないんですよ!
僕がいないと困るでしょう!」
「女同士の話があるのよ。
ダイジョウブネ、モンダイナイ」
「あなたと一緒だと、さらに問題があるんですよ!」
盛んに尚一郎は意見しているが、カーテは全く聞いてない。
「携帯持ってますから。
翻訳アプリがあるからたぶん大丈夫ですよ」
「僕も行きますよ!」
ドアの前までついてきた尚一郎だったが、一緒に出ようとしてドンと胸を強く押され、よろよろと部屋の中へと戻ってしまう。
「Tschuss(バイバイ),尚一郎」
いたずらっぽくカーテが手を振ると同時にバタンとドアが閉まった。
カーテは鍵をかけると近くにいた従業員に命じてソファーを運ばせ、その前に置いてしまう。
中からは尚一郎がドアをどんどんと叩く音が聞こえてくるが、少しも開く様子はない。
「これで邪魔者はいなくなったし。
行きましょう、朋香」
ぱちんとウィンクするカーテに、いいのかなーと思いながら朋香は引きずられていった。
「ここはワインが有名な街なのよ」
カーテに案内される街はいかにもヨーロッパという感じで、朋香をわくわくさせた。
さんざん歩いて、川沿いのホテルのカフェでお茶にする。
目の前にはライン川が広がっており、気持ちがいい。
「ありがとう、朋香。
尚一郎を連れてきてくれて」
突然、カーテに手を両手で握られて驚いた。
「私は別になにもしてないです」
確かにカーテに会いに行くのは渋っていたが、招待を受けて決めたのは尚一郎だったし、朋香は事後承諾に近かった。
「ううん。
朋香に出会ったから尚一郎の気持ちが変わって、会いに来てくれたんだと思う。
トモカ、アリガトウ」
「カーテさん……」
うっすらと涙を浮かべているカーテに、なんと言葉をかけていいのかわからない。
そもそも、どうして尚一郎はカーテにずっと、会わなかったのだろう。
尚恭は頻繁に会いに行っているようだが。
「私は尚一郎が日本に行けば、酷い目に遭うことがわかっていながら送り出したの。
愛する尚恭の頼みだったし、それに大親友の麻祐子がした最初で最後の頼みだから断れなかった。
きっと、尚一郎は私を恨んでいるわ」
「それは……」
ない、と云い切ろうとして言葉に詰まる。
自分ならきっと、送り出した親を恨んでいるだろう。
それに尚一郎からほとんど、カーテの話は聞いたことがない……が。
「そういえば尚一郎さん、カーテさんに就職祝いにもらったんだって車を大事にしてました。
なんだかそれが、嬉しそうでしたよ」
ただ恨んでいるだけなら、カーテに送られた車などとうに処分してしまっていただろう。
けれどあの少し年式の古いポルシェは、新車のようにぴかぴかに磨いてあった。
尚一郎の気持ちはわからないがきっと、恨みだけではないはずだ。
「ありがとう、朋香。
それが聞けただけで十分よ」
嬉しそうに笑うカーテに、胸が熱くなる。
なんだか自分まで泣きそうになって誤魔化すようにカップを口に運んだ……瞬間。
「母さん!
朋香を勝手に引っ張り回さないでくれますか!?」
「えっ」
後ろから抱きつかれ、落としそうになったカップを慌てて掴み直す。
「どうやって出てきたの?
あのソファーが動くはずないんだけど」
首を傾げるカーテに、朋香も同時に首を傾げる。
ドアの前に置いたソファーは、ふたりがかりで動かしていた。
「ドアから出られないなら、窓から出ましたが?」
「あそこ三階……」
「シーツや近くの植木を伝って出られましたよ」
なんでもないような顔を尚一郎はしているが、そういう問題じゃない気がする。
「Oh、Ninja!!」
「は?」
「はい?」
目をきらきらと輝かせ、両手を胸の前で堅く握り合わせたカーテが勢いよく立ち上がり、思わず尚一郎と顔を見合わせてしまう。
「尚一郎は日本で、忍者になったのね!
ファンタスティシェ!」
「忍者……」
つい、忍び装束で手裏剣を投げている尚一郎を想像してしまい、笑ってはいけないと思いつつも肩が震えてしまう。
「凄いわ、尚一郎!
どんな修行をしたの!?
詳しく聞かせて!」
「母さん……」
「……ぷっ」
大興奮のカーテに困り果てている尚一郎に、とうとう朋香は吹きだしてしまった。
「朋香はまだ、ドイツ語が十分じゃないんですよ!
僕がいないと困るでしょう!」
「女同士の話があるのよ。
ダイジョウブネ、モンダイナイ」
「あなたと一緒だと、さらに問題があるんですよ!」
盛んに尚一郎は意見しているが、カーテは全く聞いてない。
「携帯持ってますから。
翻訳アプリがあるからたぶん大丈夫ですよ」
「僕も行きますよ!」
ドアの前までついてきた尚一郎だったが、一緒に出ようとしてドンと胸を強く押され、よろよろと部屋の中へと戻ってしまう。
「Tschuss(バイバイ),尚一郎」
いたずらっぽくカーテが手を振ると同時にバタンとドアが閉まった。
カーテは鍵をかけると近くにいた従業員に命じてソファーを運ばせ、その前に置いてしまう。
中からは尚一郎がドアをどんどんと叩く音が聞こえてくるが、少しも開く様子はない。
「これで邪魔者はいなくなったし。
行きましょう、朋香」
ぱちんとウィンクするカーテに、いいのかなーと思いながら朋香は引きずられていった。
「ここはワインが有名な街なのよ」
カーテに案内される街はいかにもヨーロッパという感じで、朋香をわくわくさせた。
さんざん歩いて、川沿いのホテルのカフェでお茶にする。
目の前にはライン川が広がっており、気持ちがいい。
「ありがとう、朋香。
尚一郎を連れてきてくれて」
突然、カーテに手を両手で握られて驚いた。
「私は別になにもしてないです」
確かにカーテに会いに行くのは渋っていたが、招待を受けて決めたのは尚一郎だったし、朋香は事後承諾に近かった。
「ううん。
朋香に出会ったから尚一郎の気持ちが変わって、会いに来てくれたんだと思う。
トモカ、アリガトウ」
「カーテさん……」
うっすらと涙を浮かべているカーテに、なんと言葉をかけていいのかわからない。
そもそも、どうして尚一郎はカーテにずっと、会わなかったのだろう。
尚恭は頻繁に会いに行っているようだが。
「私は尚一郎が日本に行けば、酷い目に遭うことがわかっていながら送り出したの。
愛する尚恭の頼みだったし、それに大親友の麻祐子がした最初で最後の頼みだから断れなかった。
きっと、尚一郎は私を恨んでいるわ」
「それは……」
ない、と云い切ろうとして言葉に詰まる。
自分ならきっと、送り出した親を恨んでいるだろう。
それに尚一郎からほとんど、カーテの話は聞いたことがない……が。
「そういえば尚一郎さん、カーテさんに就職祝いにもらったんだって車を大事にしてました。
なんだかそれが、嬉しそうでしたよ」
ただ恨んでいるだけなら、カーテに送られた車などとうに処分してしまっていただろう。
けれどあの少し年式の古いポルシェは、新車のようにぴかぴかに磨いてあった。
尚一郎の気持ちはわからないがきっと、恨みだけではないはずだ。
「ありがとう、朋香。
それが聞けただけで十分よ」
嬉しそうに笑うカーテに、胸が熱くなる。
なんだか自分まで泣きそうになって誤魔化すようにカップを口に運んだ……瞬間。
「母さん!
朋香を勝手に引っ張り回さないでくれますか!?」
「えっ」
後ろから抱きつかれ、落としそうになったカップを慌てて掴み直す。
「どうやって出てきたの?
あのソファーが動くはずないんだけど」
首を傾げるカーテに、朋香も同時に首を傾げる。
ドアの前に置いたソファーは、ふたりがかりで動かしていた。
「ドアから出られないなら、窓から出ましたが?」
「あそこ三階……」
「シーツや近くの植木を伝って出られましたよ」
なんでもないような顔を尚一郎はしているが、そういう問題じゃない気がする。
「Oh、Ninja!!」
「は?」
「はい?」
目をきらきらと輝かせ、両手を胸の前で堅く握り合わせたカーテが勢いよく立ち上がり、思わず尚一郎と顔を見合わせてしまう。
「尚一郎は日本で、忍者になったのね!
ファンタスティシェ!」
「忍者……」
つい、忍び装束で手裏剣を投げている尚一郎を想像してしまい、笑ってはいけないと思いつつも肩が震えてしまう。
「凄いわ、尚一郎!
どんな修行をしたの!?
詳しく聞かせて!」
「母さん……」
「……ぷっ」
大興奮のカーテに困り果てている尚一郎に、とうとう朋香は吹きだしてしまった。
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