100 / 129
第15話 社長秘書
5.ずっとずっと会いたかった
しおりを挟む
尚恭たちが去ったあと、ひとりで待っているという朋香に尚一郎が反対した。
「朋香分が不足しているって云っただろう?
まだ補充できてない」
「……なんですか、朋香分って」
尚一郎は離す気がないのか、膝の上に朋香を抱えたまま、犬飼やほかの社員に指示を出している。
みんなくすくす笑っているものだから、前が見れなくて必然、尚一郎に抱きついて背中に顔を隠すことになった。
おかげで、ますますくすくすと笑われて、恥ずかしくてしかない。
「さて。
一段落したから今日は帰ろう」
「え?
もう帰るんですか?」
時計はまだ午後四時。
いくらなんでも早い気がする。
「Mein Schatzはそろそろおねむの時間だろう?」
「まだ眠くないです!」
ちゅっ、あやすように口付けしてくる尚一郎に腹が立つ。
日本時間ではすでに真夜中だし、長旅の疲れもあってさっきからうとうととはしていた。
気遣ってくれたのは嬉しいが、子供扱いされるのはムカつく。
「無理しなくていいよ。
それに、ここのところみんなにはほぼ不眠不休で働いてもらっていたからね。
たまには休んでもらわないと」
「……はい」
さらにいい子いい子とあたまを撫でられるとやはりむっとはしたが、疲れている様子の尚一郎に早く休んで欲しいのもある。
いまは、おとなしくしておくことにした。
こちらでもやはり、運転手付きの車での移動だった。
まだレストランは開いてない時間だということで、適当な店で食事をして帰る。
「ここに滞在してるんだよ」
そう云って連れてこられたのは、ホテル。
しかも、いかにも高級な。
さらには長期の仕事なのにスイート滞在と朋香の理解を完全に越えていたが、そんなものなのだと納得しておくことにした。
「先に風呂に入っておいで」
「はい」
尚恭の用意した荷物がすでに運び込まれていた。
その中から着替えを出してバスルームに向かう。
広い浴槽で手足を伸ばして旅の疲れを落としてあがると、尚一郎の姿を探す。
「尚一郎さん……?」
リビングに行くとタブレットを手に握ったまま、ソファーに座った尚一郎は眠っていた。
「やっぱり、お疲れなんだ……」
ソファーの前にしゃがんみ膝の上に両手で頬杖を突いて見上げると、うつらうつらとしている尚一郎が見えた。
ずり落ちた眼鏡。
乱れた髪。
なんだかそれだけで、どきどきしてくる。
気持ちよさそうに眠っている尚一郎に、起こすべきか悩んだ。
それに、このままずっと、見ていたい気さえする。
「ん……」
「危ない!」
身動ぎした尚一郎の身体がソファーの背からずれ、落ちそうになって慌てて支える。
……起きちゃったかな。
視線を尚一郎の顔に向けると、ゆっくりと瞼が開いた。
「あれ?
もしかして僕は、寝てたのかい?」
ソファーに座り直した尚一郎が、ぱちくりと一回、瞬きをした。
「もしかして、あまり寝てないんですか?
そういえば、不眠不休だったって」
「ん?
ああ。
早く朋香に会いたくて、睡眠時間削って仕事してたからね。
それに」
尚一郎の手が朋香を抱き寄せ、あっという間に膝の上に載せられた。
いつもながらの早業に、いまだに自分がどうされているのかわからない。
「朋香が隣にいないから、ぐっすり眠れなかった」
「尚一郎さん……」
困ったように笑う尚一郎にぎゅーっと抱きつくと、ちゅっと口付けを落とされた。
眼鏡の奥の目が眩しそうに細くなり、再び唇が重なる。
「ずっと朋香に会いたかった。
もう僕は、朋香なしには生きられないみたいだ」
じっと見つめる、碧い瞳をレンズ越しに見つめ返すと、今度は朋香の方から唇を重ねた。
「私もずっと、尚一郎さんに会いたかったです。
会いたくて会いたくて、仕方なかった……」
尚一郎がいないあいだ、一度も口にしなかった弱音を吐くと、涙がぽろりと落ちた。
言葉にすると崩れてしまいそうな自分が怖くて、一度も云えなかった。
「ずっとずっと、会いたかった……」
涙はぽろぽろと落ちていく。
いくら抱きしめても抱きしめ返してくれない枕は淋しかった。
毎日電話で話していても、切ったあとに押し寄せる淋しさが余計につらかった。
夜、よく眠れなかったのは朋香も同じだ。
「ごめんね、朋香。
やっぱり無理矢理にでも、連れてくればよかった」
ふるふると首を振ると、尚一郎の唇が朋香の涙を拭った。
それがくすぐったくて、嬉しい。
「もう絶対に、ひとりにしないから。
約束する」
「はい」
ちゅっ、ちゅっ、つむじに、額に、瞼に、落ち続ける口付けが心地いい。
そのまま朋香はとうとう、眠ってしまった。
「朋香分が不足しているって云っただろう?
まだ補充できてない」
「……なんですか、朋香分って」
尚一郎は離す気がないのか、膝の上に朋香を抱えたまま、犬飼やほかの社員に指示を出している。
みんなくすくす笑っているものだから、前が見れなくて必然、尚一郎に抱きついて背中に顔を隠すことになった。
おかげで、ますますくすくすと笑われて、恥ずかしくてしかない。
「さて。
一段落したから今日は帰ろう」
「え?
もう帰るんですか?」
時計はまだ午後四時。
いくらなんでも早い気がする。
「Mein Schatzはそろそろおねむの時間だろう?」
「まだ眠くないです!」
ちゅっ、あやすように口付けしてくる尚一郎に腹が立つ。
日本時間ではすでに真夜中だし、長旅の疲れもあってさっきからうとうととはしていた。
気遣ってくれたのは嬉しいが、子供扱いされるのはムカつく。
「無理しなくていいよ。
それに、ここのところみんなにはほぼ不眠不休で働いてもらっていたからね。
たまには休んでもらわないと」
「……はい」
さらにいい子いい子とあたまを撫でられるとやはりむっとはしたが、疲れている様子の尚一郎に早く休んで欲しいのもある。
いまは、おとなしくしておくことにした。
こちらでもやはり、運転手付きの車での移動だった。
まだレストランは開いてない時間だということで、適当な店で食事をして帰る。
「ここに滞在してるんだよ」
そう云って連れてこられたのは、ホテル。
しかも、いかにも高級な。
さらには長期の仕事なのにスイート滞在と朋香の理解を完全に越えていたが、そんなものなのだと納得しておくことにした。
「先に風呂に入っておいで」
「はい」
尚恭の用意した荷物がすでに運び込まれていた。
その中から着替えを出してバスルームに向かう。
広い浴槽で手足を伸ばして旅の疲れを落としてあがると、尚一郎の姿を探す。
「尚一郎さん……?」
リビングに行くとタブレットを手に握ったまま、ソファーに座った尚一郎は眠っていた。
「やっぱり、お疲れなんだ……」
ソファーの前にしゃがんみ膝の上に両手で頬杖を突いて見上げると、うつらうつらとしている尚一郎が見えた。
ずり落ちた眼鏡。
乱れた髪。
なんだかそれだけで、どきどきしてくる。
気持ちよさそうに眠っている尚一郎に、起こすべきか悩んだ。
それに、このままずっと、見ていたい気さえする。
「ん……」
「危ない!」
身動ぎした尚一郎の身体がソファーの背からずれ、落ちそうになって慌てて支える。
……起きちゃったかな。
視線を尚一郎の顔に向けると、ゆっくりと瞼が開いた。
「あれ?
もしかして僕は、寝てたのかい?」
ソファーに座り直した尚一郎が、ぱちくりと一回、瞬きをした。
「もしかして、あまり寝てないんですか?
そういえば、不眠不休だったって」
「ん?
ああ。
早く朋香に会いたくて、睡眠時間削って仕事してたからね。
それに」
尚一郎の手が朋香を抱き寄せ、あっという間に膝の上に載せられた。
いつもながらの早業に、いまだに自分がどうされているのかわからない。
「朋香が隣にいないから、ぐっすり眠れなかった」
「尚一郎さん……」
困ったように笑う尚一郎にぎゅーっと抱きつくと、ちゅっと口付けを落とされた。
眼鏡の奥の目が眩しそうに細くなり、再び唇が重なる。
「ずっと朋香に会いたかった。
もう僕は、朋香なしには生きられないみたいだ」
じっと見つめる、碧い瞳をレンズ越しに見つめ返すと、今度は朋香の方から唇を重ねた。
「私もずっと、尚一郎さんに会いたかったです。
会いたくて会いたくて、仕方なかった……」
尚一郎がいないあいだ、一度も口にしなかった弱音を吐くと、涙がぽろりと落ちた。
言葉にすると崩れてしまいそうな自分が怖くて、一度も云えなかった。
「ずっとずっと、会いたかった……」
涙はぽろぽろと落ちていく。
いくら抱きしめても抱きしめ返してくれない枕は淋しかった。
毎日電話で話していても、切ったあとに押し寄せる淋しさが余計につらかった。
夜、よく眠れなかったのは朋香も同じだ。
「ごめんね、朋香。
やっぱり無理矢理にでも、連れてくればよかった」
ふるふると首を振ると、尚一郎の唇が朋香の涙を拭った。
それがくすぐったくて、嬉しい。
「もう絶対に、ひとりにしないから。
約束する」
「はい」
ちゅっ、ちゅっ、つむじに、額に、瞼に、落ち続ける口付けが心地いい。
そのまま朋香はとうとう、眠ってしまった。
0
お気に入りに追加
980
あなたにおすすめの小説
お前を誰にも渡さない〜俺様御曹司の独占欲
ラヴ KAZU
恋愛
「ごめんねチビちゃん、ママを許してあなたにパパはいないの」
現在妊娠三ヶ月、一夜の過ちで妊娠してしまった
雨宮 雫(あめみや しずく)四十二歳 独身
「俺の婚約者になってくれ今日からその子は俺の子供な」
私の目の前に現れた彼の突然の申し出
冴木 峻(さえき しゅん)三十歳 独身
突然始まった契約生活、愛の無い婚約者のはずが
彼の独占欲はエスカレートしていく
冴木コーポレーション御曹司の彼には秘密があり
そしてどうしても手に入らないものがあった、それは・・・
雨宮雫はある男性と一夜を共にし、その場を逃げ出した、暫くして妊娠に気づく。
そんなある日雫の前に冴木コーポレーション御曹司、冴木峻が現れ、「俺の婚約者になってくれ、今日からその子は俺の子供な」突然の申し出に困惑する雫。
だが仕事も無い妊婦の雫にとってありがたい申し出に契約婚約者を引き受ける事になった。
愛の無い生活のはずが峻の独占欲はエスカレートしていく。そんな彼には実は秘密があった。
極道に大切に飼われた、お姫様
真木
恋愛
珈涼は父の組のため、生粋の極道、月岡に大切に飼われるようにして暮らすことになる。憧れていた月岡に甲斐甲斐しく世話を焼かれるのも、教え込まれるように夜ごと結ばれるのも、珈涼はただ恐ろしくて殻にこもっていく。繊細で怖がりな少女と、愛情の伝え方が下手な極道の、すれ違いラブストーリー。
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
Spider
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
花火大会に誘われた。
相手は、会社に出入りしている、コーヒー会社の人。
彼はいつも、超無表情・事務的で。
私も関心がないから、事務的に接してた。
……そんな彼から。
突然誘われた花火大会。
これは一体……?
今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。
昨日、彼を振りました。
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「三峰が、好きだ」
四つ年上の同僚、荒木さんに告白された。
でも、いままでの関係でいたかった私は彼を――振ってしまった。
なのに、翌日。
眼鏡をかけてきた荒木さんに胸がきゅんと音を立てる。
いやいや、相手は昨日、振った相手なんですが――!!
三峰未來
24歳
会社員
恋愛はちょっぴり苦手。
恋愛未満の関係に甘えていたいタイプ
×
荒木尚尊
28歳
会社員
面倒見のいい男
嫌われるくらいなら、恋人になれなくてもいい?
昨日振った人を好きになるとかあるのかな……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる