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第15話 社長秘書

3.尚恭の海外出張

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結局、二週間ほど尚恭の元で働いた……といえるかどうかは怪しいが。

そろそろ、尚一郎が約束したひと月が過ぎようとしている。

尚恭の話だと、ヨーロッパ本社の業績も徐々にだが上向きはじめ、そう遠くないうちに尚一郎の役目も終わるんじゃないかという。

さらに。

「いってらっしゃいませ」

「なにを云っているんですか?
朋香さんも一緒に行くんですよ」

「はい?」

ヨーロッパ視察に行く尚恭を見送りにきた朋香だったが、専用ロビーから出国手続きに向かう尚恭がさも当たり前のように云うものだから、思わず大きくぱちくりと瞬きをしてしまう。

「でも、なにも準備してないですし。
パスポートとか」

そもそも、尚恭の見送りだけだと思っていたので、携帯くらいしか持っていない。

「ああ、パスポートは優希が預かっています。
準備もすべて、昌子さんと優希が」

傍に控えていた優希が内ポケットからなにかを取り出すと尚恭に渡した。
さらに尚恭から朋香に渡されたそれはパスポートで、開いてみると間違いなく自分のものだった。

「え、ええっと……」

「ほら、行きますよ」

尚恭に強引に手を引っ張られ、困惑したまま出国手続きへと向かう。

「じゃあ、あとは頼んだよ、優希」

「いってらっしゃいませ」

こうして朋香は突然、ヨーロッパへと旅だった。



飛行機はさすがというかプライベートジェットだった。
ただし個人所有ではなく、会社で所有しているのだという。
おかげでフランスまで十二時間ほどの旅も快適に過ごせた。
さらには、尚一郎に会えるんじゃないかという期待がある。

「向こうには何時に着きますか?」

「そんなに尚一郎に会えるのが嬉しいですか?
妬けてきますね」

おかしそうにくすくすと尚恭に笑われ、一気に顔が熱くなった。

「それは、その」

「申し訳ないです。
もっと早く、尚一郎の元に送り届けて差し上げたかったのですが、私の都合がつかずに長々と秘書として働いていただく羽目になって」

「いえ……」

すまなそうな尚恭に、朋香の方が申し訳ない気持ちになった。

家に帰さなかったのも、秘書として四六時中、傍に置いておいたのもすべて朋香のためだとすでに理解していた。
朋香がひとりでいれば、達之助がどんな強引な手を使って拐かしにきていたのかわからない。

「時差があるので現地時間で昼過ぎには着きます。
あと少しの辛抱ですよ。
ああ、尚一郎を驚かせたいので、くれぐれも秘密にしておいてくださいね」

いたずらっぽく尚恭にぱちんとウィンクされ、朋香はその場にへなへなと崩れそうになった。
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