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第15話 社長秘書

1.秘書のお仕事

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「失礼します」

社長室に入ると、すでに尚恭は客と談笑をしていた。
会釈してその前にコーヒーを置いていく。

「失礼いたしました」

部屋を出てぱたんとドアを閉めると同時に、……はぁーっ、ため息が落ちる。
お盆を給湯室に置き、秘書室に戻ると秘書の寺本と目があった。

「ありがとう」

「いえ。
あとはなにをすれば?」

「そうねぇ……。
これでも読んでてくれる?」

「……はい」

尚恭は朋香に秘書の仕事をしてもらうと云っていたが、お茶出し以外はこうやって、日がな一日雑誌を読んでいるだけ。
高度な仕事を頼まれても困るのだが、これはこれでなんとなく、居心地が悪い。

電話すら置かれていない、一番端の席で渡された雑誌を開く。
表紙に書かれているのは、最先端医療機器の特集。

毎回渡されるのは医療ジャーナルや介護雑誌、薬剤関係など一般ではほとんど目にすることのない、専門的なものばかり。
内容はほとんど理解できないがきっと、これがオシベグループの事業内容なのだろう。
どの雑誌にも必ずといっていいほど、オシベのグループ会社の広告が入っているくらいだから。

「あ。
尚一郎さん」

近頃出た医療機器のミニ特集で取材を受けた尚一郎が、ページの中で笑っている。

「写真写り、いいな……」

さわれないことはわかっていながら紙の上からつい、尚一郎にふれてしまう。

「元気なのかな……」

尚恭の屋敷に移ってからは一日二回、電話では話している。
朋香が眠る時間、朋香が起きて尚一郎が眠る時間。
けれど、声だけでは尚一郎が元気かどうかなんてわからない。

「いつになったら会えるのかな……」

淋しくないといえば嘘になる。
朋香の安否がわからなくて無理に滞在期間を伸ばしていた侑岐も、つい先日アメリカに帰ってしまった。

……それにしても。

「この尚一郎さん、格好いいな……」

「朋香さん」

「は、はい!」

写真相手ににやついていたところを秘書室次席の加賀から声をかけられ、つい慌てしまう。

「ああ、尚一郎社長は写真写りがいいですよね」

「……はい」

朋香が開いていたページに気付き、くすりと笑う加賀に、頬に熱が上がっていく。

「尚恭社長が昼食にしようとお待ちです」

「わかりました」

頷くと、加賀も頷き返して部屋を出ていった。

読んでいた雑誌を閉じて机の上を軽く整理し、寺本に声をかける。

「お昼、行ってきます」

「いってらっしゃい」

寺本の声に送られて廊下に出ると、すでに尚恭と加賀が待っていた。

「すみません、お待たせして」

「いえ。
今日はなにを食べましょうか?
朋香さんはなにがいいですか」

うきうきと楽しそうに笑いながら尚恭は、エレベーターに向かって歩き出した。
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