92 / 129
第14話 お姉ちゃん?
3.お姉ちゃん
しおりを挟む
食後はふたりきりで話がしたいという侑岐の希望で、与えられている客間に移動する。
「昨日の話は尚恭おじさまから全部聞いたわ。
……つらかったわね、朋香」
「侑岐さん……」
ぎゅっと侑岐に抱きしめられると、ぽろりと涙が落ちる。
尚一郎との電話で、もう気持ちはすっかり落ち着いたと思っていた。
けれど、改めて侑岐に抱きしめられると、かたかたと細かく手が震えていた。
「我慢しなくていいわ。
思いっきり泣いちゃいなさい」
「……はい」
泣きじゃくる朋香を、侑岐はなにも云わずにぎゅっと抱きしめていてくれた。
それだけで少し、気持ちが楽になった気がする。
「ありがとうございます、侑岐さん」
涙が落ち着いて離れると、そっと侑岐に目尻を拭われてくすぐったい。
「それもこれも、尚一郎の甲斐性なしがいけないのよ。
ねえ朋香。
本気で尚一郎と別れて、私のところのこない?」
心配そうに侑岐の眉根が寄り、両手をぎゅっと握られた。
そんな侑岐の気持ちは嬉しかったが。
「ありがとうございます。
でも、その、私は……尚一郎さんを愛しているので」
口に出すと、とたんに頬に熱が上がっていく。
俯いてしまった朋香に、はぁっと侑岐が呆れたようにため息を落とした。
「相変わらずラブラブなのね。
ほんとに妬けちゃうわ」
「え、えーっと……」
侑岐にぷにぷにと頬をつつかれると、ただ苦笑いしかできなかった。
鏡台の前に座り、泣いてすっかり崩れてしまった化粧を侑岐に直してもらう。
「肌、がさがさ。
髪もぱさぱさ。
顔色だってよくないし。
ちゃんとお肌の手入れ、してたの?
食事は?
睡眠だって」
確かに、鏡の中の自分は酷い顔をしていると思う。
こんな顔を見せたら、尚一郎など卒倒して医者を呼びそうだ。
「荷物、化粧品も全部、没収されちゃったので。
いつも洗いっぱなしにしてました。
石鹸も洗顔用とかないから、身体と一緒に……」
「朋香!
ほんとに酷い扱いを受けてたのね……。
そうだ、明日は一緒に、エステに行きましょう?
思いっきりリラックスして、夜はがっつり肉を食べるの!
栄養つけなきゃ」
侑岐にいい子いい子とあたまを撫でられると、なんだか嬉しい。
まるで……。
「お姉ちゃんができたみたい」
「へ?」
間抜けな顔の侑岐が、鏡の中からこちらを見ている。
「あ、えっと。
……すみません。
でも、なんだかそんな気がしたから」
「朋香のお姉ちゃんかー。
恋愛関係はいつか終わりが来るけど、それならずーっと付き合いは続くからいいかも」
……恋愛関係はいつか終わりがくる。
侑岐の言葉がなぜか、胸に刺さった。
尚一郎との関係も、いつか終わりが来るのだろうか。
「朋香?」
心配そうに侑岐に顔をのぞき込まれ、慌てて浮かんだ考えを打ち消す。
「なんでもないです。
私、弟しかいないから、お姉ちゃんができたとか嬉しいです」
「あら奇遇ね。
私も姉弟、弟だけなのよ。
これがほんと、頼りにならない弟でねー」
笑って侑岐の愚痴を聞きながら、どうしてか心の中はもやもやしていた。
けれど、自分は尚一郎とずっと一緒にいると誓ったのだ。
そんなことはないはずだと、必死で否定した。
「昨日の話は尚恭おじさまから全部聞いたわ。
……つらかったわね、朋香」
「侑岐さん……」
ぎゅっと侑岐に抱きしめられると、ぽろりと涙が落ちる。
尚一郎との電話で、もう気持ちはすっかり落ち着いたと思っていた。
けれど、改めて侑岐に抱きしめられると、かたかたと細かく手が震えていた。
「我慢しなくていいわ。
思いっきり泣いちゃいなさい」
「……はい」
泣きじゃくる朋香を、侑岐はなにも云わずにぎゅっと抱きしめていてくれた。
それだけで少し、気持ちが楽になった気がする。
「ありがとうございます、侑岐さん」
涙が落ち着いて離れると、そっと侑岐に目尻を拭われてくすぐったい。
「それもこれも、尚一郎の甲斐性なしがいけないのよ。
ねえ朋香。
本気で尚一郎と別れて、私のところのこない?」
心配そうに侑岐の眉根が寄り、両手をぎゅっと握られた。
そんな侑岐の気持ちは嬉しかったが。
「ありがとうございます。
でも、その、私は……尚一郎さんを愛しているので」
口に出すと、とたんに頬に熱が上がっていく。
俯いてしまった朋香に、はぁっと侑岐が呆れたようにため息を落とした。
「相変わらずラブラブなのね。
ほんとに妬けちゃうわ」
「え、えーっと……」
侑岐にぷにぷにと頬をつつかれると、ただ苦笑いしかできなかった。
鏡台の前に座り、泣いてすっかり崩れてしまった化粧を侑岐に直してもらう。
「肌、がさがさ。
髪もぱさぱさ。
顔色だってよくないし。
ちゃんとお肌の手入れ、してたの?
食事は?
睡眠だって」
確かに、鏡の中の自分は酷い顔をしていると思う。
こんな顔を見せたら、尚一郎など卒倒して医者を呼びそうだ。
「荷物、化粧品も全部、没収されちゃったので。
いつも洗いっぱなしにしてました。
石鹸も洗顔用とかないから、身体と一緒に……」
「朋香!
ほんとに酷い扱いを受けてたのね……。
そうだ、明日は一緒に、エステに行きましょう?
思いっきりリラックスして、夜はがっつり肉を食べるの!
栄養つけなきゃ」
侑岐にいい子いい子とあたまを撫でられると、なんだか嬉しい。
まるで……。
「お姉ちゃんができたみたい」
「へ?」
間抜けな顔の侑岐が、鏡の中からこちらを見ている。
「あ、えっと。
……すみません。
でも、なんだかそんな気がしたから」
「朋香のお姉ちゃんかー。
恋愛関係はいつか終わりが来るけど、それならずーっと付き合いは続くからいいかも」
……恋愛関係はいつか終わりがくる。
侑岐の言葉がなぜか、胸に刺さった。
尚一郎との関係も、いつか終わりが来るのだろうか。
「朋香?」
心配そうに侑岐に顔をのぞき込まれ、慌てて浮かんだ考えを打ち消す。
「なんでもないです。
私、弟しかいないから、お姉ちゃんができたとか嬉しいです」
「あら奇遇ね。
私も姉弟、弟だけなのよ。
これがほんと、頼りにならない弟でねー」
笑って侑岐の愚痴を聞きながら、どうしてか心の中はもやもやしていた。
けれど、自分は尚一郎とずっと一緒にいると誓ったのだ。
そんなことはないはずだと、必死で否定した。
0
お気に入りに追加
983
あなたにおすすめの小説
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜
白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳
yayoi
×
月城尊 29歳
takeru
母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司
彼は、母が持っていた指輪を探しているという。
指輪を巡る秘密を探し、
私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
クリスマスに咲くバラ
篠原怜
恋愛
亜美は29歳。クリスマスを目前にしてファッションモデルの仕事を引退した。亜美には貴大という婚約者がいるのだが今のところ結婚はの予定はない。彼は実業家の御曹司で、年下だけど頼りになる人。だけど亜美には結婚に踏み切れない複雑な事情があって……。■2012年に著者のサイトで公開したものの再掲です。
恋とキスは背伸びして
葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員
成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長
年齢差 9歳
身長差 22㎝
役職 雲泥の差
この違い、恋愛には大きな壁?
そして同期の卓の存在
異性の親友は成立する?
数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの
二人の恋の物語
誘惑の延長線上、君を囲う。
桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には
"恋"も"愛"も存在しない。
高校の同級生が上司となって
私の前に現れただけの話。
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
Иatural+ 企画開発部部長
日下部 郁弥(30)
×
転職したてのエリアマネージャー
佐藤 琴葉(30)
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の
貴方を見つけて…
高校時代の面影がない私は…
弱っていそうな貴方を誘惑した。
:
:
♡o。+..:*
:
「本当は大好きだった……」
───そんな気持ちを隠したままに
欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。
【誘惑の延長線上、君を囲う。】
貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳
大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。
でも、これはただのお見合いではないらしい。
初出はエブリスタ様にて。
また番外編を追加する予定です。
シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。
表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる