90 / 129
第14話 お姉ちゃん?
1.淋しい、早く会いたい
しおりを挟む
チロリロリン。
携帯の、通知音で目が覚めた。
「ん……」
画面を確認すると、尚一郎から。
急いで起きてタップする。
“Guten Morgen(おはよう)、朋香。
もしかしてまだ寝てるのかい?
僕はいま起きたところ。
じゃあ、またあとで”
ほかにも、眠る前の挨拶やいくつかメッセージが入っていた。
何度か鳴ったはずの通知音に気付かないなんて、どれだけ眠りこけてたんだろう。
携帯の時刻はすでに昼を過ぎている。
慌てて起きて顔を洗い、部屋のドアを開けると執事の男が立っていた。
「お目覚めですか、朋香様」
「……おはようございます」
冷ややかな男の視線に、居心地が悪い。
人の家、しかも義父の家でぐーぐー昼過ぎまで寝ていたなどと。
顔から火が出そうなほど恥ずかしい朋香に、男が中に戻るように促すので、素直に従った。
すぐにドアがノックされ、衣装盆を捧げ持った朋香と同じ年くらいのメイドが入ってくる。
メイドに、半ば無理矢理、鏡の前に座らされた。
そのまま無言で髪にブラシを当てられる。
「旦那様はすでにお出かけになりました。
朋香様には本日、ゆっくりしていただくようにとのことです」
男が話しているあいだも、メイドは朋香の髪を整え、肌も化粧水や乳液をつけて整えていく。
「身支度がお済みになりましたら、食堂へ。
お食事の準備をしておきます」
「……はい」
男は眉一つ動かさないまま、部屋を出て行った。
男がいなくなると、化粧をすませたメイドが朋香の服を脱がせてくる。
「ひとりでできますので!」
「でも、これが私の仕事ですから」
勝手に服を脱がされて、瞬く間に準備してあった服に着替えさせられる。
クラシカルな、白襟が付いたスモーキーピンクのワンピース。
尚恭の趣味なのだろうか。
準備が終わり、メイドに伴われて部屋を出ようとすると、ピコピコピコ、鳴り出した携帯にメイドの顔を窺ってしまう。
「どうぞ」
「ありがとう」
長く続く着信音が途切れないうちに、携帯を耳に当てる。
「おはようございます、尚一郎さん」
『Guten Morgen、Mein Schatz.
よく眠れたかい?』
「……はい」
くすり、小さな笑い声に顔が熱くなる。
メッセージが既読になったのは先ほどだろうから、誤魔化しようがない。
『それはよかった。
しばらく、のんびりしとくいいよ。
僕からCOOにお願いしとくから』
「でも……」
いいのだろうか。
達之助を怒らせて本邸を出てきてしまった。
いまさらながら、どんな制裁があるのか恐怖した。
『大丈夫だよ、朋香はなにも心配しなくて。
だいたいCOOが、朋香には指一本ふれさせないって云うから、本邸に行くことを許可したっていうのにあんな……。
あ、なんでもないよ』
「はあ」
慌てて誤魔化してこられても困る。
もしかして、尚一郎と尚恭はなにか、約束でもしたのだろうか。
『とにかく、二度とあんなことはないようにするから、安心していい』
「……はい」
『Meine susse susse 朋香(僕の可愛い可愛い朋香)。
Du fehist mir(君がいなくて淋しい).
Ich will dhich sehen und sofort umarmen(会いたい、今すぐ抱きしめたい) 』
「……はい」
向こうにいるからか、いつもよりドイツ語の多い尚一郎がなにを云っているのか半分もわからない。
それでも、淋しがっていることだけはわかった。
じわじわと浮いてくる涙を、慌てて拭う。
「早く帰ってきてくださいね、尚一郎さん。
待ってます」
『早く帰るよ、MeinSchatz。
……Ich liebe dich』
「私も尚一郎さんを……愛してます」
『うん、じゃあ、また』
「はい、また」
切りたくない、けれどいつまでも話しているわけにはいかない。
後ろ髪を引かれる思いで電話を切る。
また浮いてきた涙は拭って顔を上げた。
携帯の、通知音で目が覚めた。
「ん……」
画面を確認すると、尚一郎から。
急いで起きてタップする。
“Guten Morgen(おはよう)、朋香。
もしかしてまだ寝てるのかい?
僕はいま起きたところ。
じゃあ、またあとで”
ほかにも、眠る前の挨拶やいくつかメッセージが入っていた。
何度か鳴ったはずの通知音に気付かないなんて、どれだけ眠りこけてたんだろう。
携帯の時刻はすでに昼を過ぎている。
慌てて起きて顔を洗い、部屋のドアを開けると執事の男が立っていた。
「お目覚めですか、朋香様」
「……おはようございます」
冷ややかな男の視線に、居心地が悪い。
人の家、しかも義父の家でぐーぐー昼過ぎまで寝ていたなどと。
顔から火が出そうなほど恥ずかしい朋香に、男が中に戻るように促すので、素直に従った。
すぐにドアがノックされ、衣装盆を捧げ持った朋香と同じ年くらいのメイドが入ってくる。
メイドに、半ば無理矢理、鏡の前に座らされた。
そのまま無言で髪にブラシを当てられる。
「旦那様はすでにお出かけになりました。
朋香様には本日、ゆっくりしていただくようにとのことです」
男が話しているあいだも、メイドは朋香の髪を整え、肌も化粧水や乳液をつけて整えていく。
「身支度がお済みになりましたら、食堂へ。
お食事の準備をしておきます」
「……はい」
男は眉一つ動かさないまま、部屋を出て行った。
男がいなくなると、化粧をすませたメイドが朋香の服を脱がせてくる。
「ひとりでできますので!」
「でも、これが私の仕事ですから」
勝手に服を脱がされて、瞬く間に準備してあった服に着替えさせられる。
クラシカルな、白襟が付いたスモーキーピンクのワンピース。
尚恭の趣味なのだろうか。
準備が終わり、メイドに伴われて部屋を出ようとすると、ピコピコピコ、鳴り出した携帯にメイドの顔を窺ってしまう。
「どうぞ」
「ありがとう」
長く続く着信音が途切れないうちに、携帯を耳に当てる。
「おはようございます、尚一郎さん」
『Guten Morgen、Mein Schatz.
よく眠れたかい?』
「……はい」
くすり、小さな笑い声に顔が熱くなる。
メッセージが既読になったのは先ほどだろうから、誤魔化しようがない。
『それはよかった。
しばらく、のんびりしとくいいよ。
僕からCOOにお願いしとくから』
「でも……」
いいのだろうか。
達之助を怒らせて本邸を出てきてしまった。
いまさらながら、どんな制裁があるのか恐怖した。
『大丈夫だよ、朋香はなにも心配しなくて。
だいたいCOOが、朋香には指一本ふれさせないって云うから、本邸に行くことを許可したっていうのにあんな……。
あ、なんでもないよ』
「はあ」
慌てて誤魔化してこられても困る。
もしかして、尚一郎と尚恭はなにか、約束でもしたのだろうか。
『とにかく、二度とあんなことはないようにするから、安心していい』
「……はい」
『Meine susse susse 朋香(僕の可愛い可愛い朋香)。
Du fehist mir(君がいなくて淋しい).
Ich will dhich sehen und sofort umarmen(会いたい、今すぐ抱きしめたい) 』
「……はい」
向こうにいるからか、いつもよりドイツ語の多い尚一郎がなにを云っているのか半分もわからない。
それでも、淋しがっていることだけはわかった。
じわじわと浮いてくる涙を、慌てて拭う。
「早く帰ってきてくださいね、尚一郎さん。
待ってます」
『早く帰るよ、MeinSchatz。
……Ich liebe dich』
「私も尚一郎さんを……愛してます」
『うん、じゃあ、また』
「はい、また」
切りたくない、けれどいつまでも話しているわけにはいかない。
後ろ髪を引かれる思いで電話を切る。
また浮いてきた涙は拭って顔を上げた。
0
お気に入りに追加
981
あなたにおすすめの小説
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
○と□~丸い課長と四角い私~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
佐々鳴海。
会社員。
職場の上司、蔵田課長とは犬猿の仲。
水と油。
まあ、そんな感じ。
けれどそんな私たちには秘密があるのです……。
******
6話完結。
毎日21時更新。
Spider
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
花火大会に誘われた。
相手は、会社に出入りしている、コーヒー会社の人。
彼はいつも、超無表情・事務的で。
私も関心がないから、事務的に接してた。
……そんな彼から。
突然誘われた花火大会。
これは一体……?
Good day ! 3
葉月 まい
恋愛
『Good day !』Vol.3
人一倍真面目で努力家のコーパイ 恵真と
イケメンのエリートキャプテン 大和
晴れて入籍した二人が
結婚式の準備を進める中
恵真の妊娠が判明!
そしてそれは
恵真の乗務停止の始まりでもあった…
꙳⋆ ˖𓂃܀✈* 登場人物 *☆܀𓂃˖ ⋆꙳
日本ウイング航空(Japan Wing Airline)
副操縦士
佐倉(藤崎) 恵真(28歳)
機長
佐倉 大和(36歳)
隠れ御曹司の愛に絡めとられて
海棠桔梗
恋愛
目が覚めたら、名前が何だったかさっぱり覚えていない男とベッドを共にしていた――
彼氏に浮気されて更になぜか自分の方が振られて「もう男なんていらない!」って思ってた矢先、強引に参加させられた合コンで出会った、やたら綺麗な顔の男。
古い雑居ビルの一室に住んでるくせに、持ってる腕時計は超高級品。
仕事は飲食店勤務――って、もしかしてホスト!?
チャラい男はお断り!
けれども彼の作る料理はどれも絶品で……
超大手商社 秘書課勤務
野村 亜矢(のむら あや)
29歳
特技:迷子
×
飲食店勤務(ホスト?)
名も知らぬ男
24歳
特技:家事?
「方向音痴・家事音痴の女」は「チャラいけれど家事は完璧な男」の愛に絡め取られて
もう逃げられない――
昨日、彼を振りました。
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「三峰が、好きだ」
四つ年上の同僚、荒木さんに告白された。
でも、いままでの関係でいたかった私は彼を――振ってしまった。
なのに、翌日。
眼鏡をかけてきた荒木さんに胸がきゅんと音を立てる。
いやいや、相手は昨日、振った相手なんですが――!!
三峰未來
24歳
会社員
恋愛はちょっぴり苦手。
恋愛未満の関係に甘えていたいタイプ
×
荒木尚尊
28歳
会社員
面倒見のいい男
嫌われるくらいなら、恋人になれなくてもいい?
昨日振った人を好きになるとかあるのかな……?
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
通りすがりの王子
清水春乃(水たまり)
恋愛
2013年7月アルファポリス様にて、書籍化されました。応援いただきましてありがとうございました。
書籍化に伴い本編と外伝・番外編一部を削除させていただきましたm( )m。
18歳の時、とある場所、とある状況で出会った自称「白馬の王子」とは、「次に会ったときにお互い覚えていたら名乗る」と約束した。
入社式で再会したものの、王子は気付かない。まあ、私、変装しているしね。5年も経てば、時効でしょ?お互い、「はじめまして」でノープロブレム・・・のハズ。
やたら自立志向のオトコ前お嬢を 王子になり損ねた御曹司が 最後には白馬に乗ってお迎えにいくまで・・・。
書籍化に伴い削除したものの、割愛されてしまった部分を「その一年のエピソード」として章立てして再掲載します。若干手を入れてあります。
2014年5月、「通りすがりの王子2」刊行しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる