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最終章 三日月は満ちて満月になる
5-3
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「でも、私が悠将さんを好きになれないままいやいや出産して、悠将さんのご両親のように邪魔者扱いするとか考えなかったんですか?」
並んで座る悠将さんに、甘えるように寄りかかる。
隣り合う手は指を絡めて握られた
「まったく考えなかったな。
李依ならどんな経緯でできた子供でも絶対に愛するだろうと思ったし、それに」
言葉を切った彼が私の顔をのぞき込み、ふふっと笑う。
「僕は必ず、李依を落とす自信があったからな」
「あー、そーですかー」
私の答えは完全に棒読みだったが仕方ない。
悠将さんは自信満々だが、そうじゃなかったらどうするつもりだったんだろう?
それに。
「私は悠将さんが思っているほど、いい人ではありません」
「そうか?
僕から見たら、李依はいい人すぎて危なっかしい」
眼鏡の下で悠将さんの眉根が寄る。
そんなに心配されるほどだなんて、まったく自覚がない。
「いい人すぎるからハワイでホテルを追い出されて、路頭に迷っていたんだろうが」
「あいたっ」
軽く弾かれ、痛む額を押さえる。
「僕が見つけて声をかけたからよかったものの。
変なヤツに騙されたり、危ないヤツに拉致されたりしたらどうする気だったんだ?」
「あー……」
それは彼の言うとおりだ。
しかしあのとき、不思議と悠将さんに声をかけられるまで、誰からもかけられなかったのだ。
それって、もしかして。
「きっと、神様が見守っていてくれたので大丈夫だと思います」
「……は?」
間抜けにひと言落とし、悠将さんは眼鏡の奥でぱちぱちと何度がまばたきをした。
「りーえー。
李依のそういうところ、凄く可愛いが、凄く心配だ……」
悠将さんは頭を抱えているが、あれはそういうことなんだと思う。
飛行機で知り合った女性に速攻で乗り換えるような人だ、あの人とあのまま結婚していればきっと不幸になっていた。
あの人は私の運命の相手ではなかったのだ。
だから神様はあの人と別れさせて、本当の運命の相手である悠将さんに会わせてくれた。
なら、変な人に引っかかったりとかしなかったはず。
「でも、あんなところでたまたま悠将さんと会えたのは、神様の思し召しだとしか思えません」
「まあ……それもそうか。
あの日なんか、急にビーチを散歩したくなったんだよな。
それで李依を見つけた。
あれも神のせいかもな。
なら、神に感謝しなくてはな」
ちゅっと軽く、彼の唇が私の頬に触れる。
「そうですね、今度お礼を言いに行きましょう」
ハワイへ旅立つ前の日、たまたま目についた神社にお参りをした。
たぶん、あの神様のおかげなんだろう。
五円のお賽銭でここまでしてくれるなんて、申し訳ないくらいだ。
近いうちにお礼参りに行かなければ。
「……そういえばジャニスさんとはどういう関係なんですか……?」
昔はそういう関係だったとしても、今はまったくそういう感情はないのはわかっているからいい。
それでも、〝結婚するはずだった〟とか〝慰謝料〟とか言っていたのは気になる。
「どこかのパーティで知り合って、同じホテル経営者と知って少し話をしたら、なんか絡まれるようになったんだよな」
悠将さんはなんでかわからないといった顔をしているが、一度、鏡を見てみましょうか。
「僕と結婚するとか公言して憚らなかったから、迷惑してたんだ。
いくら拒否して突き放して諦めないし。
その根性、他のところで使ってほしい……」
はぁーっと彼の口から苦悩の濃いため息が落ちていく。
あの日の様子からして、よほど苦労させられているらしい。
「……その。
少しくらいジャニスさんが好きだとかは……?」
「なんだ李依、ヤキモチを妬いているのか?」
急に悠将さんの顔が、嬉しそうにぱーっと輝いた。
「あ、いえ。
ヤキモチなんて、そんな」
否定してみせたものの、視線は定まらずにきょときょとしていたらバレバレだよね。
そんな気持ちがあったとしても、もう終わっている話なのだから気にしなくていいのはわかるが、それでも感情はもやっとした。
「李依、可愛い」
ちゅっと悠将さんの唇が頬に触れる。
「好きだとかそんな感情は微塵もないな。
アイツのホテルの従業員は、自分が一番その他は敵だっただろ?」
「ええ、まあ……」
一度行った彼女のホテルで、支配人は悠将さんを敵視していた。
他のスタッフも端々からそういう雰囲気を感じ取っていた。
「ジャニス自身がそうなんだ、自分が一番、その他は敵。
そういうのは僕とは相容れないから無理だ」
その言葉に安心している私は性格が悪いだろうか。
でも、悠将さんをほんの少しでも誰にも渡したくないなんて考えている自分に気づいて、私はこんなに独占欲が強かったのだと驚いた。
並んで座る悠将さんに、甘えるように寄りかかる。
隣り合う手は指を絡めて握られた
「まったく考えなかったな。
李依ならどんな経緯でできた子供でも絶対に愛するだろうと思ったし、それに」
言葉を切った彼が私の顔をのぞき込み、ふふっと笑う。
「僕は必ず、李依を落とす自信があったからな」
「あー、そーですかー」
私の答えは完全に棒読みだったが仕方ない。
悠将さんは自信満々だが、そうじゃなかったらどうするつもりだったんだろう?
それに。
「私は悠将さんが思っているほど、いい人ではありません」
「そうか?
僕から見たら、李依はいい人すぎて危なっかしい」
眼鏡の下で悠将さんの眉根が寄る。
そんなに心配されるほどだなんて、まったく自覚がない。
「いい人すぎるからハワイでホテルを追い出されて、路頭に迷っていたんだろうが」
「あいたっ」
軽く弾かれ、痛む額を押さえる。
「僕が見つけて声をかけたからよかったものの。
変なヤツに騙されたり、危ないヤツに拉致されたりしたらどうする気だったんだ?」
「あー……」
それは彼の言うとおりだ。
しかしあのとき、不思議と悠将さんに声をかけられるまで、誰からもかけられなかったのだ。
それって、もしかして。
「きっと、神様が見守っていてくれたので大丈夫だと思います」
「……は?」
間抜けにひと言落とし、悠将さんは眼鏡の奥でぱちぱちと何度がまばたきをした。
「りーえー。
李依のそういうところ、凄く可愛いが、凄く心配だ……」
悠将さんは頭を抱えているが、あれはそういうことなんだと思う。
飛行機で知り合った女性に速攻で乗り換えるような人だ、あの人とあのまま結婚していればきっと不幸になっていた。
あの人は私の運命の相手ではなかったのだ。
だから神様はあの人と別れさせて、本当の運命の相手である悠将さんに会わせてくれた。
なら、変な人に引っかかったりとかしなかったはず。
「でも、あんなところでたまたま悠将さんと会えたのは、神様の思し召しだとしか思えません」
「まあ……それもそうか。
あの日なんか、急にビーチを散歩したくなったんだよな。
それで李依を見つけた。
あれも神のせいかもな。
なら、神に感謝しなくてはな」
ちゅっと軽く、彼の唇が私の頬に触れる。
「そうですね、今度お礼を言いに行きましょう」
ハワイへ旅立つ前の日、たまたま目についた神社にお参りをした。
たぶん、あの神様のおかげなんだろう。
五円のお賽銭でここまでしてくれるなんて、申し訳ないくらいだ。
近いうちにお礼参りに行かなければ。
「……そういえばジャニスさんとはどういう関係なんですか……?」
昔はそういう関係だったとしても、今はまったくそういう感情はないのはわかっているからいい。
それでも、〝結婚するはずだった〟とか〝慰謝料〟とか言っていたのは気になる。
「どこかのパーティで知り合って、同じホテル経営者と知って少し話をしたら、なんか絡まれるようになったんだよな」
悠将さんはなんでかわからないといった顔をしているが、一度、鏡を見てみましょうか。
「僕と結婚するとか公言して憚らなかったから、迷惑してたんだ。
いくら拒否して突き放して諦めないし。
その根性、他のところで使ってほしい……」
はぁーっと彼の口から苦悩の濃いため息が落ちていく。
あの日の様子からして、よほど苦労させられているらしい。
「……その。
少しくらいジャニスさんが好きだとかは……?」
「なんだ李依、ヤキモチを妬いているのか?」
急に悠将さんの顔が、嬉しそうにぱーっと輝いた。
「あ、いえ。
ヤキモチなんて、そんな」
否定してみせたものの、視線は定まらずにきょときょとしていたらバレバレだよね。
そんな気持ちがあったとしても、もう終わっている話なのだから気にしなくていいのはわかるが、それでも感情はもやっとした。
「李依、可愛い」
ちゅっと悠将さんの唇が頬に触れる。
「好きだとかそんな感情は微塵もないな。
アイツのホテルの従業員は、自分が一番その他は敵だっただろ?」
「ええ、まあ……」
一度行った彼女のホテルで、支配人は悠将さんを敵視していた。
他のスタッフも端々からそういう雰囲気を感じ取っていた。
「ジャニス自身がそうなんだ、自分が一番、その他は敵。
そういうのは僕とは相容れないから無理だ」
その言葉に安心している私は性格が悪いだろうか。
でも、悠将さんをほんの少しでも誰にも渡したくないなんて考えている自分に気づいて、私はこんなに独占欲が強かったのだと驚いた。
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