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第三章 幸せにすると誓います
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入籍は月曜に母が戸籍を取りに行って送ってくれるというので、それが届き次第することになった。
配慮が必要な身体なんだから、妊娠を早く会社に報告すること。
それに産休の予定を会社も立てないといけないから、必要なのはわかるね?
……と和家さんに半ば説得され、仕事の合間に上司の元へ行く。
「その。
先日、結婚の報告はしたんですが、実は妊娠もしてまして」
「ああ、妊娠。
それはおめでとうございます。
……え、妊娠?」
にこやかにお祝いを言ってくれた課長だが、時間差で聞かされた内容に気づいたらしく、聞き返してきた。
「はい。
和家CEOの子供を身籠もりましたので、結婚することになりました」
「あ、そう、なん、だ。
おめでとう。
今後のことについては近いうちにあらためて相談……で、いい、かな?」
課長はうまく状況が把握できていないらしく、視線は定まらないし、言葉も切れ切れになっているが、仕方ないよね。
「はい、それで大丈夫です。
よろしくお願いします」
頭を下げて自分の席へ戻る。
あとは会社の出方を待つだけだ。
和家さんと私が親しい関係みたいだ、っていうだけで気にするくらいだ。
プライベートな問題に突っ込むのはよくないとあれから思ったのか、結婚報告したときはとりあえずなにも言われなかったが、この先はわからない。
「……ねえ」
「……あれ」
時間が経つにつれ、また私の噂が広がっていく。
今度は、浮気して他の男と子供を作ったのがバレて、ハワイで離婚した女と最悪度がランクアップした。
さらに、そんな悪女に騙されて結婚させられる和家CEOは可哀想、というのまでついている。
「……いちいち説明するの、面倒くさい」
いっそ、サンドイッチマンみたいに、旦那になるはずだった人と別れたのが先で、和家さんと知り合ったのはそのあとです、とか書いた看板を背負っておきたいくらいだ。
もっとも、説明したところで周りは面白がっていて、信じる気はまったくないみたいだが。
終業時間が近づいてきた頃、社内が騒がしくなった。
少しして、今日はもういいので片付けて社長室へ行くように言われた。
わけがわからぬまま、命じられたままに社長室へ行く。
「李依ー」
「へ?」
ドアを開けた途端ににこにこ笑って手を振る和家さんが見えて、変な声が漏れた。
「あの、社長がお呼びだと聞いたのですが」
「呼んだのは僕」
ここに座れと和家さんが隣をぺしぺし叩く。
どうしていいかわからずに社長を見ると黙って頷かれたので、そこへ腰を下ろした。
「御社の社員と結婚させていただきますので、よろしくお願いしますって挨拶に来たんだ」
和家さんは楽しそうだが、社長の笑顔は引き攣っている。
遥か年下とはいえ、相手は足下にも及ばない大会社のCEOと、社長も反応に困っているのだろう。
「きちんと、僕と李依の関係を説明しておいたから。
ですよね、社長?」
「ええ、はい」
笑いかける和家さんへ、曖昧に笑って社長が答える。
これってもしかして、釘を刺しに来たのかな……?
社内で事実に反する噂を立てるのなら、ただじゃおかないぞって。
そんなの……。
「なにかとご迷惑をおかけするかと思いますが、これからも僕の妻をよろしくお願いいたします」
「よろしくお願いします!」
真摯に彼が社長に向かって頭を下げ、私も慌ててそれに倣った。
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
それに普通に頭を下げ返した社長は、さすがだ。
話も終わり、終業時間間際だったのでそのまま和家さんに連れられて帰る。
「……わざわざ説明になんてこなくても、私ひとりで大丈夫だったのに」
車の中でつい、口をついて不満が出ていた。
「んー?
たまたま近くに来たから寄っただけだ。
わざわざ来たわけじゃない」
しれっと和家さんは言っているが、そんなはずはないと思う。
「こういうのは二度と、しないでくださいね!」
「こわい、こわい」
私は怒っているというのに和家さんはおかしそうにくすくす笑っていて、さらに腹が立ってきた。
「……別に李依が頼りないとか思っているわけじゃない」
ひとしきり笑い終わったのか、和家さんが真顔になった。
「でも、僕にできることはしたいんだ。
それもダメか」
和家さんが眼鏡の奥から真っ直ぐに私を見ている。
この人はただ、私を心配してくれているだけ。
それにその気遣いが嬉しくないかと言えば嘘だ。
「……いえ。
その。
……ありがとう、ございました」
急に怒っていた自分が恥ずかしくなった。
和家さんは私を思ってくれているのに、文句とか言って何様だ、私は。
「うん。
僕も李依に相談してからすればよかったな。
すまない」
「あ、いえ。
そんな」
赤くなっているであろう頬に気づかれたくなくて、俯いた。
まさか、こんなことで詫びてくれるなんて思わない。
「嬉しかった、ので」
いいのかな、彼にとって私は子供ができてしまったから結婚するだけの相手なのに、こんなに想われていて。
嬉しいけれど、いつか本当に好きな人ができて捨てられるんじゃないかって、怖い……。
配慮が必要な身体なんだから、妊娠を早く会社に報告すること。
それに産休の予定を会社も立てないといけないから、必要なのはわかるね?
……と和家さんに半ば説得され、仕事の合間に上司の元へ行く。
「その。
先日、結婚の報告はしたんですが、実は妊娠もしてまして」
「ああ、妊娠。
それはおめでとうございます。
……え、妊娠?」
にこやかにお祝いを言ってくれた課長だが、時間差で聞かされた内容に気づいたらしく、聞き返してきた。
「はい。
和家CEOの子供を身籠もりましたので、結婚することになりました」
「あ、そう、なん、だ。
おめでとう。
今後のことについては近いうちにあらためて相談……で、いい、かな?」
課長はうまく状況が把握できていないらしく、視線は定まらないし、言葉も切れ切れになっているが、仕方ないよね。
「はい、それで大丈夫です。
よろしくお願いします」
頭を下げて自分の席へ戻る。
あとは会社の出方を待つだけだ。
和家さんと私が親しい関係みたいだ、っていうだけで気にするくらいだ。
プライベートな問題に突っ込むのはよくないとあれから思ったのか、結婚報告したときはとりあえずなにも言われなかったが、この先はわからない。
「……ねえ」
「……あれ」
時間が経つにつれ、また私の噂が広がっていく。
今度は、浮気して他の男と子供を作ったのがバレて、ハワイで離婚した女と最悪度がランクアップした。
さらに、そんな悪女に騙されて結婚させられる和家CEOは可哀想、というのまでついている。
「……いちいち説明するの、面倒くさい」
いっそ、サンドイッチマンみたいに、旦那になるはずだった人と別れたのが先で、和家さんと知り合ったのはそのあとです、とか書いた看板を背負っておきたいくらいだ。
もっとも、説明したところで周りは面白がっていて、信じる気はまったくないみたいだが。
終業時間が近づいてきた頃、社内が騒がしくなった。
少しして、今日はもういいので片付けて社長室へ行くように言われた。
わけがわからぬまま、命じられたままに社長室へ行く。
「李依ー」
「へ?」
ドアを開けた途端ににこにこ笑って手を振る和家さんが見えて、変な声が漏れた。
「あの、社長がお呼びだと聞いたのですが」
「呼んだのは僕」
ここに座れと和家さんが隣をぺしぺし叩く。
どうしていいかわからずに社長を見ると黙って頷かれたので、そこへ腰を下ろした。
「御社の社員と結婚させていただきますので、よろしくお願いしますって挨拶に来たんだ」
和家さんは楽しそうだが、社長の笑顔は引き攣っている。
遥か年下とはいえ、相手は足下にも及ばない大会社のCEOと、社長も反応に困っているのだろう。
「きちんと、僕と李依の関係を説明しておいたから。
ですよね、社長?」
「ええ、はい」
笑いかける和家さんへ、曖昧に笑って社長が答える。
これってもしかして、釘を刺しに来たのかな……?
社内で事実に反する噂を立てるのなら、ただじゃおかないぞって。
そんなの……。
「なにかとご迷惑をおかけするかと思いますが、これからも僕の妻をよろしくお願いいたします」
「よろしくお願いします!」
真摯に彼が社長に向かって頭を下げ、私も慌ててそれに倣った。
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
それに普通に頭を下げ返した社長は、さすがだ。
話も終わり、終業時間間際だったのでそのまま和家さんに連れられて帰る。
「……わざわざ説明になんてこなくても、私ひとりで大丈夫だったのに」
車の中でつい、口をついて不満が出ていた。
「んー?
たまたま近くに来たから寄っただけだ。
わざわざ来たわけじゃない」
しれっと和家さんは言っているが、そんなはずはないと思う。
「こういうのは二度と、しないでくださいね!」
「こわい、こわい」
私は怒っているというのに和家さんはおかしそうにくすくす笑っていて、さらに腹が立ってきた。
「……別に李依が頼りないとか思っているわけじゃない」
ひとしきり笑い終わったのか、和家さんが真顔になった。
「でも、僕にできることはしたいんだ。
それもダメか」
和家さんが眼鏡の奥から真っ直ぐに私を見ている。
この人はただ、私を心配してくれているだけ。
それにその気遣いが嬉しくないかと言えば嘘だ。
「……いえ。
その。
……ありがとう、ございました」
急に怒っていた自分が恥ずかしくなった。
和家さんは私を思ってくれているのに、文句とか言って何様だ、私は。
「うん。
僕も李依に相談してからすればよかったな。
すまない」
「あ、いえ。
そんな」
赤くなっているであろう頬に気づかれたくなくて、俯いた。
まさか、こんなことで詫びてくれるなんて思わない。
「嬉しかった、ので」
いいのかな、彼にとって私は子供ができてしまったから結婚するだけの相手なのに、こんなに想われていて。
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