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第二章 責任を取ってもらおうだなんて思っていません
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とりあえず今日は家に送ると言われ、住んでいるマンスリーに送ってもらう。
「……本当にここに住んでいるのか?」
「はい、そうですが……?」
和家さんは絶望的な顔をしているが、なんでだろう?
「こんなところに李依を一分、一秒たりとも置いておけない。
帰るぞ」
「えっ、あっ」
戸惑う私を無視して、和家さんは私をリムジンに押し込んだ。
そのまま、またホテルのスイートに戻ってくる。
「しばらくここで生活してくれ。
本当は李依を連れてアメリカに戻るつもりだったが、妊娠しているなら出産して落ち着くまではこっちがいいよな」
「えっと……」
ソファーに座り、落ち着かず部屋の中をうろうろする和家さんを見ていた。
「早急に落ち着ける家を買おう。
それから……」
「あの」
「李依のご両親にも挨拶に行かないとな。
あとは」
声をかけたものの彼は聞こえていないらしく、ブツブツ言いながらぐるぐる歩き続けている。
「和家さん!」
「ん?
どうかしたのか」
少し強く声を出したら、ようやく和家さんは足を止めて私へ視線を向けた。
「その、私のために無理はしなくていいので。
別にアメリカでも出産はできますし」
ハイシェランドホテルのグループ本社はアメリカにある。
和家さんも通常はそこで仕事をしているはず。
なのに私のために日本で家を買うとかさせられない。
「初めての出産が言葉の通じない外国だとか不安だろ」
「それは……」
私の英語が日常会話すらおぼつかないのは彼にすでに知られている。
それに不安がないか言えば不安しかない。
それでも、彼に無理はさせられない。
「別に仕事はリモートでもできる。
それに用があるときはプライベートジェットですぐだからな」
「プライベートジェット……」
そんなものを持っているだなんて、和家さんが想像していた以上にお金持ちでくらくらした。
さらにアメリカまでがすぐって感覚も理解できない。
「いっそ本社を、日本に移動させてもいいな」
和家さんは真剣に悩んでいるが、なんだか私の妊娠で大袈裟な話になってきた……。
「いえ、だから、私がアメリカに着いていきますから、そこまでしなくても」
「いやダメだ。
李依に無理はさせられない」
話は平行線のまま、交わりそうにない。
じゃあ、これならどうかな。
「別居でも大丈夫です。
それで、たまに寄ってくれたら」
それでもここに家を買うことになるんだろうし、無駄なお金は使わせるが、仕事で無理をさせないだけマシだ。
「バーカ。
それじゃ、結婚する意味がないだろ」
「あいたっ」
デコピンされてヒリヒリ痛む額を押さえる。
「僕はできるだけ李依と一緒にいて、李依を甘やかせたいの。
だから素直に甘えとけ」
和家さんの手が、言い聞かせるように軽く私の頭をぽんぽんした。
「それに母国である日本に、李依の待つ家があると思うと嬉しい」
「そう、ですか」
「うん」
彼が私の隣に腰を下ろす。
顔が近づいてきてあれ?とか思っているうちに、彼の唇が私の額に触れた。
「まあ、正直に言えば、僕は家が嫌いでほとんど帰っていなかったんだ。
でも、李依が待っているなら喜んで帰る」
「家が、嫌い……?」
さらっと出てきたけれど、それってどういう意味なんだろう?
「和家さんのご両親って……?」
親と同居で仲が悪いとかならわかる。
「僕に両親はいない。
育ててくれた祖母ももう死んだ」
さっきまでと違い和家さんの声は淡々としていて、感情がない。
なにか、地雷を踏んでしまった……?
「その。
……すみませんでした」
「なんで李依が謝るんだ?
それにどのみち、結婚するんだから家族の話はしなければいけない」
それはそうだけれど、やはり聞いてはいけない話だった気がする。
これからは触れないように気をつけよう。
「それより、身体は大丈夫なのか?
今日だってほぼ食べてないし」
「あー……。
食べられるときは食べているので」
適当に笑って誤魔化してみる。
カロリーゼリーでどうにかやっているだなんて言えない。
「つわりでも食べられるもの、調べておくな。
ここにもノンカフェインの飲み物を常備するようにする」
「ありがとうございます」
「つらかったらいつでも言えよ。
そうだ、李依の両親へのご挨拶は今度の週末でいいか?
早く籍も入れたほうがいいと思うし」
どんどん先の予定を決めていく和家さんはとても楽しそうだ。
それを見ていると私も嬉しくなってくる。
「入籍日、いつがいい?
この日とかどうだ?」
携帯を操作し、和家さんは直近の記念日なんかを調べている。
そういうのが凄くいいなと思った。
……でも。
和家さんは子供ができたから、仕方なく結婚するんじゃないのかな?
そうじゃないならなんで、私と結婚するのかやっぱりわからない……。
「……本当にここに住んでいるのか?」
「はい、そうですが……?」
和家さんは絶望的な顔をしているが、なんでだろう?
「こんなところに李依を一分、一秒たりとも置いておけない。
帰るぞ」
「えっ、あっ」
戸惑う私を無視して、和家さんは私をリムジンに押し込んだ。
そのまま、またホテルのスイートに戻ってくる。
「しばらくここで生活してくれ。
本当は李依を連れてアメリカに戻るつもりだったが、妊娠しているなら出産して落ち着くまではこっちがいいよな」
「えっと……」
ソファーに座り、落ち着かず部屋の中をうろうろする和家さんを見ていた。
「早急に落ち着ける家を買おう。
それから……」
「あの」
「李依のご両親にも挨拶に行かないとな。
あとは」
声をかけたものの彼は聞こえていないらしく、ブツブツ言いながらぐるぐる歩き続けている。
「和家さん!」
「ん?
どうかしたのか」
少し強く声を出したら、ようやく和家さんは足を止めて私へ視線を向けた。
「その、私のために無理はしなくていいので。
別にアメリカでも出産はできますし」
ハイシェランドホテルのグループ本社はアメリカにある。
和家さんも通常はそこで仕事をしているはず。
なのに私のために日本で家を買うとかさせられない。
「初めての出産が言葉の通じない外国だとか不安だろ」
「それは……」
私の英語が日常会話すらおぼつかないのは彼にすでに知られている。
それに不安がないか言えば不安しかない。
それでも、彼に無理はさせられない。
「別に仕事はリモートでもできる。
それに用があるときはプライベートジェットですぐだからな」
「プライベートジェット……」
そんなものを持っているだなんて、和家さんが想像していた以上にお金持ちでくらくらした。
さらにアメリカまでがすぐって感覚も理解できない。
「いっそ本社を、日本に移動させてもいいな」
和家さんは真剣に悩んでいるが、なんだか私の妊娠で大袈裟な話になってきた……。
「いえ、だから、私がアメリカに着いていきますから、そこまでしなくても」
「いやダメだ。
李依に無理はさせられない」
話は平行線のまま、交わりそうにない。
じゃあ、これならどうかな。
「別居でも大丈夫です。
それで、たまに寄ってくれたら」
それでもここに家を買うことになるんだろうし、無駄なお金は使わせるが、仕事で無理をさせないだけマシだ。
「バーカ。
それじゃ、結婚する意味がないだろ」
「あいたっ」
デコピンされてヒリヒリ痛む額を押さえる。
「僕はできるだけ李依と一緒にいて、李依を甘やかせたいの。
だから素直に甘えとけ」
和家さんの手が、言い聞かせるように軽く私の頭をぽんぽんした。
「それに母国である日本に、李依の待つ家があると思うと嬉しい」
「そう、ですか」
「うん」
彼が私の隣に腰を下ろす。
顔が近づいてきてあれ?とか思っているうちに、彼の唇が私の額に触れた。
「まあ、正直に言えば、僕は家が嫌いでほとんど帰っていなかったんだ。
でも、李依が待っているなら喜んで帰る」
「家が、嫌い……?」
さらっと出てきたけれど、それってどういう意味なんだろう?
「和家さんのご両親って……?」
親と同居で仲が悪いとかならわかる。
「僕に両親はいない。
育ててくれた祖母ももう死んだ」
さっきまでと違い和家さんの声は淡々としていて、感情がない。
なにか、地雷を踏んでしまった……?
「その。
……すみませんでした」
「なんで李依が謝るんだ?
それにどのみち、結婚するんだから家族の話はしなければいけない」
それはそうだけれど、やはり聞いてはいけない話だった気がする。
これからは触れないように気をつけよう。
「それより、身体は大丈夫なのか?
今日だってほぼ食べてないし」
「あー……。
食べられるときは食べているので」
適当に笑って誤魔化してみる。
カロリーゼリーでどうにかやっているだなんて言えない。
「つわりでも食べられるもの、調べておくな。
ここにもノンカフェインの飲み物を常備するようにする」
「ありがとうございます」
「つらかったらいつでも言えよ。
そうだ、李依の両親へのご挨拶は今度の週末でいいか?
早く籍も入れたほうがいいと思うし」
どんどん先の予定を決めていく和家さんはとても楽しそうだ。
それを見ていると私も嬉しくなってくる。
「入籍日、いつがいい?
この日とかどうだ?」
携帯を操作し、和家さんは直近の記念日なんかを調べている。
そういうのが凄くいいなと思った。
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