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第二章 責任を取ってもらおうだなんて思っていません
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「僕の子を妊娠しているんだろ?」
ソファーに私を座らせ、その前に跪いて和家さんは私の顔をのぞき込んだ。
それに黙って首を振る。
「なんで否定するんだ」
今度は強く言われたが、それでも唇を硬く引き結ぶ。
和家さんに迷惑をかけたくない。
だから、もう聞かないで。
「李依!」
私が否定し続けるものだからついに彼が大きな声を出し、びくりと大きく身体が震えた。
「あ、……すまない。
怯えさせるつもりはないんだ」
悲しそうに和家さんが力なく笑い、心臓が鷲掴みされたかのように胸が痛んだ。
そのせいで唇がつい、緩む。
「……ひとりで産んで、育てるので」
「李依?」
「……和家さんに迷惑は、かけません。
これは私の責任、です。
和家さんに責任を取ってほしいとか、言いません」
ぽつりぽつりと話す私の言葉を、彼は黙って聞いている。
「だからもう、私を忘れてください」
「忘れられるわけがないだろ!」
出てきそうな涙を堪え、顔を上げる。
途端に和家さんに抱き締められた。
「結婚しよう。
李依も、お腹の子も僕が幸せにする」
「だから私はっ」
腕の中から抜け出ようとするが、彼はますます力を込めた。
「私じゃ、和家さんと釣りあわないんです。
こんな私と結婚しても、和家さんは幸せになれない」
「釣りあわないとか幸せになれないとか誰が決めるんだ?
そんなの、僕自身が決める。
李依にも決めさせない」
強い意志のこもった声で、暴れていた身体が止まった。
「言っただろ?
李依が誰かの幸せを願うのなら、僕が李依を幸せにするって。
僕に李依とお腹の子を、幸せにさせてくれ」
その背中に回しかけた手をぐっと堪える。
「……離して、ください」
「嫌だ、離さない。
今離したら今度こそ、李依はいなくなってしまう」
逃がすまいとさらに彼の腕に力が入り、痛い。
「私は和家さんを愛しているわけじゃ」
「わかってる」
「ならなんで」
とくん、とくんと淋しげな、和家さんの心臓の鼓動が私に伝わり、私も胸が苦しくなった。
けれどここで、折れるわけにはいかない。
「僕に責任を取らせてくれ。
子供には父親が必要だろ?」
「それは……」
彼の言うとおりだ。
妊娠している今、いつまで働けるのかわからない。
貯蓄もそんなにないし、産んだあとも職場に復帰できる確証もない。
なにより、母子家庭が不幸だとは言わないが、子供を愛してくれる父親がいるのならそのほうがいいに決まっている。
「自分のためじゃない、子供のためだと思えばいい。
それで李依が……少しずつでいいから僕を好きになってくれたら嬉しい」
私を抱き締める和家さんは優しい。
それに私は彼が嫌いなわけではない。
むしろ――好き、だ。
ただ、ほとんど私のことを知らないのに彼がここまで私に拘るのかわからなくて、一歩を踏み出せずにいた。
しかし、子供を理由にされたら。
「……そう、ですね。
子供には父親が必要ですもんね」
「そうだ」
「わかりました、和家さんと結婚します」
「わかった」
和家さんの手が頬に触れ、その親指が私の目尻を撫でた。
「よろしく、李依。
これからゆっくり夫婦に――家族になっていこう」
「はい」
眩しいものでも見るかのように和家さんが眼鏡の奥で目を細める。
私もそれに笑い返していた。
和家さんの言うとおり、焦る必要はない。
ゆっくり和家さんを知って、愛して、家族になっていこう。
ソファーに私を座らせ、その前に跪いて和家さんは私の顔をのぞき込んだ。
それに黙って首を振る。
「なんで否定するんだ」
今度は強く言われたが、それでも唇を硬く引き結ぶ。
和家さんに迷惑をかけたくない。
だから、もう聞かないで。
「李依!」
私が否定し続けるものだからついに彼が大きな声を出し、びくりと大きく身体が震えた。
「あ、……すまない。
怯えさせるつもりはないんだ」
悲しそうに和家さんが力なく笑い、心臓が鷲掴みされたかのように胸が痛んだ。
そのせいで唇がつい、緩む。
「……ひとりで産んで、育てるので」
「李依?」
「……和家さんに迷惑は、かけません。
これは私の責任、です。
和家さんに責任を取ってほしいとか、言いません」
ぽつりぽつりと話す私の言葉を、彼は黙って聞いている。
「だからもう、私を忘れてください」
「忘れられるわけがないだろ!」
出てきそうな涙を堪え、顔を上げる。
途端に和家さんに抱き締められた。
「結婚しよう。
李依も、お腹の子も僕が幸せにする」
「だから私はっ」
腕の中から抜け出ようとするが、彼はますます力を込めた。
「私じゃ、和家さんと釣りあわないんです。
こんな私と結婚しても、和家さんは幸せになれない」
「釣りあわないとか幸せになれないとか誰が決めるんだ?
そんなの、僕自身が決める。
李依にも決めさせない」
強い意志のこもった声で、暴れていた身体が止まった。
「言っただろ?
李依が誰かの幸せを願うのなら、僕が李依を幸せにするって。
僕に李依とお腹の子を、幸せにさせてくれ」
その背中に回しかけた手をぐっと堪える。
「……離して、ください」
「嫌だ、離さない。
今離したら今度こそ、李依はいなくなってしまう」
逃がすまいとさらに彼の腕に力が入り、痛い。
「私は和家さんを愛しているわけじゃ」
「わかってる」
「ならなんで」
とくん、とくんと淋しげな、和家さんの心臓の鼓動が私に伝わり、私も胸が苦しくなった。
けれどここで、折れるわけにはいかない。
「僕に責任を取らせてくれ。
子供には父親が必要だろ?」
「それは……」
彼の言うとおりだ。
妊娠している今、いつまで働けるのかわからない。
貯蓄もそんなにないし、産んだあとも職場に復帰できる確証もない。
なにより、母子家庭が不幸だとは言わないが、子供を愛してくれる父親がいるのならそのほうがいいに決まっている。
「自分のためじゃない、子供のためだと思えばいい。
それで李依が……少しずつでいいから僕を好きになってくれたら嬉しい」
私を抱き締める和家さんは優しい。
それに私は彼が嫌いなわけではない。
むしろ――好き、だ。
ただ、ほとんど私のことを知らないのに彼がここまで私に拘るのかわからなくて、一歩を踏み出せずにいた。
しかし、子供を理由にされたら。
「……そう、ですね。
子供には父親が必要ですもんね」
「そうだ」
「わかりました、和家さんと結婚します」
「わかった」
和家さんの手が頬に触れ、その親指が私の目尻を撫でた。
「よろしく、李依。
これからゆっくり夫婦に――家族になっていこう」
「はい」
眩しいものでも見るかのように和家さんが眼鏡の奥で目を細める。
私もそれに笑い返していた。
和家さんの言うとおり、焦る必要はない。
ゆっくり和家さんを知って、愛して、家族になっていこう。
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