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最終章 唯一大事なおもちゃ
3-1 秘密のお買い物
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「よかったね、いいのが買えて」
「うん。翔のおかげだよ」
腕時計売り場で包装待ち。
利香は興味がないから、自分のアクセサリー見ているって、その辺をぶらぶらしている。
今日のお買い物の目的は、悠生の誕生日プレゼント兼婚約指環のお礼。
いつも私のことを大事にしてくれる、悠生にちゃんとお返ししたくて。
利香と翔に相談した。
婚約指環のお返しも兼ねているから、長く使えるもので身につけてもらえるもの。
というわけで、腕時計がいい、そう結論を出したまではよかった。
けど、悠生が使うくらいの奴、ってなるとお値段がハンパない。
少額ながらも毎月のお給料から貯蓄に回す癖はついていたし、悠生と付き合うようになって、さりげなく援助してくれていたからさらに増えている。
それで足りない、ってことはないのはわかっている。
けど、実家のことを考えると、使うのには躊躇して。
悩んで悩んで、食欲が落ちた。
「マリッジブルーで」
そう誤魔化してみたのだけれど。
「君にもそんな繊細なところがあったんだな」
皮肉たっぷりに言いながらも、悠生の顔には心配って書いてある。
けど、悠生には言えないし。
結局、実家に帰ったときに、ばあちゃんに打ち明けてみた。
ばあちゃんは私の数少ない、相談相手だ。
高校で利香に会うまではばあちゃんだけだった。
ばあちゃんは結婚の話をすると喜んでくれて、……そして。
「これ、使いなさい」
ばあちゃんから渡された通帳。
しかも私名義。
「ばあちゃんはね、沙也加に幸せになって欲しいんだ。
あんな母親にしてしまったの、ばあちゃんにも責任があるし。
こんなことしかできなくて、ごめんな」
「ばあちゃん……」
ばあちゃんにしがみついてわんわん泣いた。
なぜか少しだけ、気持ちがすっきりしていた。
最後にばあちゃんは、
「まあ、うちは結納返しとかできないから。
それで勘弁してもらって」
と笑っていたけれど。
いざ買うとなると、どれがいいのかわからない。
一緒に行って、って手もあるけど、できれば秘密にしたい。
それで翔に、一緒にきてもらうことにした。
同じ男だし、年だってわりと近い。
職種も営業で、身なりにかなり、気を使うタイプだし。
そして今日、利香と翔と三人で、お買い物に行くことになったというわけだ。
包装してもらった時計を受け取って、利香と合流。
「結婚祝い!」
利香から差し出された紙袋。
……えっと?
「一応、シルクのパジャマだから、悠生さんも文句言わないと思う」
「あ、ありがとう……」
……気、使わせちゃったな。
ふたりが結婚するときは、私もすてきなプレゼント、考えよう。
紙袋の中身を見ると、なぜか箱がふたつ入っていた。
意味がわからずに、つい利香の顔を見てしまう。
「小さい方の箱はね、悠生さんの誕生日に開けて。
ぜーったい、喜ぶと思うから!」
ぐふぐふとなぜか意味深そうに利香は笑っている。
なぜか翔も。
……ええ。
確かに誕生日、悠生は凄く喜んで、大変なことになりましたとも。
お茶して、少しぶらぶらして、ふたりと別れて。
地下鉄に乗って桜坂のマンションに帰る。
悠生は送り迎えするって言ったけど、断った。
以前のアイランドシティのマンションと違い、桜坂からだと地下鉄一本で天神。
すぐ、だし。
わざわざ車出す方が大変だし。
ちょっといじけていた悠生のために、チーズタルト。
地下街のチーズケーキ屋さんはいつも長蛇の列で、買うのはなかなか面倒。
悠生は食べたいくせに、並ぶのがあまり好きじゃないから。
だから、今日は頑張って買ってみた。
もっとも、三人でおしゃべりしながら並んでいたら、あっという間だったけど。
「ただいまー」
「遅い」
玄関まで出迎えてくれた悠生とキス。
あ、「遅い」は「お帰り」ね。
実際のところ、約束通りの時間に帰っても、本気で遅いと思っている節もあるけど。
「お茶、飲むだろ?
コーヒー、紅茶、ウーロン茶、緑茶、どれが……」
「あ、チーズタルトがあるよ!」
「……コーヒーにしよう」
悠生が全部言い終わらないうちに遮る。
ニヤリ、悠生は片頬をあげると、コーヒーを淹れ始めた。
「しかし、あの列に並ぶとは、沙也加はよっぽど暇人なんだな」
……いや、ゆるみきった顔でそんなことを言われてもね?
私が座っているのは悠生の足のあいだ。
しっかりと私をホールドする悠生の腕。
悠生の手で私の口に入れられるチーズケーキ。
……初めて部屋に連れ込まれたあの日から、なにも変わっていない。
と、いうか慣れたよ、いい加減。
「……で。
あの男は誰だ?」
「……はい?」
唐突に悠生の口から出た言葉。
いったい、なんでしょう?
「今日、男とふたりだっただろ?
誰だ、あの男?」
さっきまでの甘い雰囲気は一転。
私を見下ろす、悠生の冷たい視線。
顎を掴んでいる手はぎりぎりと締め付け、痛い。
「友達で、利香の彼氏、だけど。
……というか、つけてたの?」
「そんな暇なことはしない。
修理に出してたカフスボタン、取りに行ってただけだ。
……友達?
あんな顔で笑っていて?」
レンズが光って顔がよく見ない。
口元は嘲笑するかのように歪んでいる。
「友達、だから。
高校から一緒で、相談とかも乗ってもらってて、その、お兄ちゃん、みたいな。
だから」
「誰だろうと、男とふたり、だったんだろう?」
「利香も一緒だった、よ」
じっと私を見つめる、レンズの向こうの冷たい瞳。
私も逸らさないでじっと見返す。
ふっと一瞬、悠生が笑ったかと思ったら。
「嘘つきは悪い子だ、そう教えたはずなのに、まだわかってないようだな」
「ついてない、嘘」
私の手首を痛いくらいに掴んで悠生が立ち上がる。
引きずられるように寝室に連れて行かれ、そして。
「入ってろ」
「えっ!?
いや、出して!
出して!」
押し込められた、クローゼット。
扉の前になにか置かれたのか、押してもびくともしない。
――ドンドンドン、ドンドンドン!
「出して!
出してってば!」
私の訴えは虚しく。
扉は開けてもらえなかった。
「うん。翔のおかげだよ」
腕時計売り場で包装待ち。
利香は興味がないから、自分のアクセサリー見ているって、その辺をぶらぶらしている。
今日のお買い物の目的は、悠生の誕生日プレゼント兼婚約指環のお礼。
いつも私のことを大事にしてくれる、悠生にちゃんとお返ししたくて。
利香と翔に相談した。
婚約指環のお返しも兼ねているから、長く使えるもので身につけてもらえるもの。
というわけで、腕時計がいい、そう結論を出したまではよかった。
けど、悠生が使うくらいの奴、ってなるとお値段がハンパない。
少額ながらも毎月のお給料から貯蓄に回す癖はついていたし、悠生と付き合うようになって、さりげなく援助してくれていたからさらに増えている。
それで足りない、ってことはないのはわかっている。
けど、実家のことを考えると、使うのには躊躇して。
悩んで悩んで、食欲が落ちた。
「マリッジブルーで」
そう誤魔化してみたのだけれど。
「君にもそんな繊細なところがあったんだな」
皮肉たっぷりに言いながらも、悠生の顔には心配って書いてある。
けど、悠生には言えないし。
結局、実家に帰ったときに、ばあちゃんに打ち明けてみた。
ばあちゃんは私の数少ない、相談相手だ。
高校で利香に会うまではばあちゃんだけだった。
ばあちゃんは結婚の話をすると喜んでくれて、……そして。
「これ、使いなさい」
ばあちゃんから渡された通帳。
しかも私名義。
「ばあちゃんはね、沙也加に幸せになって欲しいんだ。
あんな母親にしてしまったの、ばあちゃんにも責任があるし。
こんなことしかできなくて、ごめんな」
「ばあちゃん……」
ばあちゃんにしがみついてわんわん泣いた。
なぜか少しだけ、気持ちがすっきりしていた。
最後にばあちゃんは、
「まあ、うちは結納返しとかできないから。
それで勘弁してもらって」
と笑っていたけれど。
いざ買うとなると、どれがいいのかわからない。
一緒に行って、って手もあるけど、できれば秘密にしたい。
それで翔に、一緒にきてもらうことにした。
同じ男だし、年だってわりと近い。
職種も営業で、身なりにかなり、気を使うタイプだし。
そして今日、利香と翔と三人で、お買い物に行くことになったというわけだ。
包装してもらった時計を受け取って、利香と合流。
「結婚祝い!」
利香から差し出された紙袋。
……えっと?
「一応、シルクのパジャマだから、悠生さんも文句言わないと思う」
「あ、ありがとう……」
……気、使わせちゃったな。
ふたりが結婚するときは、私もすてきなプレゼント、考えよう。
紙袋の中身を見ると、なぜか箱がふたつ入っていた。
意味がわからずに、つい利香の顔を見てしまう。
「小さい方の箱はね、悠生さんの誕生日に開けて。
ぜーったい、喜ぶと思うから!」
ぐふぐふとなぜか意味深そうに利香は笑っている。
なぜか翔も。
……ええ。
確かに誕生日、悠生は凄く喜んで、大変なことになりましたとも。
お茶して、少しぶらぶらして、ふたりと別れて。
地下鉄に乗って桜坂のマンションに帰る。
悠生は送り迎えするって言ったけど、断った。
以前のアイランドシティのマンションと違い、桜坂からだと地下鉄一本で天神。
すぐ、だし。
わざわざ車出す方が大変だし。
ちょっといじけていた悠生のために、チーズタルト。
地下街のチーズケーキ屋さんはいつも長蛇の列で、買うのはなかなか面倒。
悠生は食べたいくせに、並ぶのがあまり好きじゃないから。
だから、今日は頑張って買ってみた。
もっとも、三人でおしゃべりしながら並んでいたら、あっという間だったけど。
「ただいまー」
「遅い」
玄関まで出迎えてくれた悠生とキス。
あ、「遅い」は「お帰り」ね。
実際のところ、約束通りの時間に帰っても、本気で遅いと思っている節もあるけど。
「お茶、飲むだろ?
コーヒー、紅茶、ウーロン茶、緑茶、どれが……」
「あ、チーズタルトがあるよ!」
「……コーヒーにしよう」
悠生が全部言い終わらないうちに遮る。
ニヤリ、悠生は片頬をあげると、コーヒーを淹れ始めた。
「しかし、あの列に並ぶとは、沙也加はよっぽど暇人なんだな」
……いや、ゆるみきった顔でそんなことを言われてもね?
私が座っているのは悠生の足のあいだ。
しっかりと私をホールドする悠生の腕。
悠生の手で私の口に入れられるチーズケーキ。
……初めて部屋に連れ込まれたあの日から、なにも変わっていない。
と、いうか慣れたよ、いい加減。
「……で。
あの男は誰だ?」
「……はい?」
唐突に悠生の口から出た言葉。
いったい、なんでしょう?
「今日、男とふたりだっただろ?
誰だ、あの男?」
さっきまでの甘い雰囲気は一転。
私を見下ろす、悠生の冷たい視線。
顎を掴んでいる手はぎりぎりと締め付け、痛い。
「友達で、利香の彼氏、だけど。
……というか、つけてたの?」
「そんな暇なことはしない。
修理に出してたカフスボタン、取りに行ってただけだ。
……友達?
あんな顔で笑っていて?」
レンズが光って顔がよく見ない。
口元は嘲笑するかのように歪んでいる。
「友達、だから。
高校から一緒で、相談とかも乗ってもらってて、その、お兄ちゃん、みたいな。
だから」
「誰だろうと、男とふたり、だったんだろう?」
「利香も一緒だった、よ」
じっと私を見つめる、レンズの向こうの冷たい瞳。
私も逸らさないでじっと見返す。
ふっと一瞬、悠生が笑ったかと思ったら。
「嘘つきは悪い子だ、そう教えたはずなのに、まだわかってないようだな」
「ついてない、嘘」
私の手首を痛いくらいに掴んで悠生が立ち上がる。
引きずられるように寝室に連れて行かれ、そして。
「入ってろ」
「えっ!?
いや、出して!
出して!」
押し込められた、クローゼット。
扉の前になにか置かれたのか、押してもびくともしない。
――ドンドンドン、ドンドンドン!
「出して!
出してってば!」
私の訴えは虚しく。
扉は開けてもらえなかった。
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