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2.酔ったあとは……
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「……?」
目を開けて見えた天井は、見覚えのないところだった。
「水、飲むか?」
「……はい」
聞こえた声に惰性で返事をすると、苦笑いの大室課長がペットボトルを渡してくれた。
冷たい水を飲むと、次第にあたまがはっきりしてくる。
……ワインで酔って、それで。
「これくらいでこんなに酔うなら、泉はもう、酒を飲まない方がいいな」
「すみませんでした。
……それでここって」
「ん?
部屋取っといて正解だったな」
そっと、大室課長の手が頬にふれ、びくりと身体が震える。
そんな私にくすりとおかしそうに笑うと、大室課長は唇を重ねてきた。
「あの、大室課長?」
困惑している私にかまわず、ちゅっ、再びふれる唇。
「泉を食事に誘う口実にするために、このあいだ案内頼んだの」
ちゅっ、ちゅっ、ふれ続ける唇にあたまは大混乱している。
「意味、わかるだろ?」
ふるふるとあたまを振ると、はぁーっとため息を落とされた。
「じゃあ、これなら?」
顎にふれた手が、軽く唇を開かせる。
また重なった唇はさっきまでと違って深く、私の唇を割って舌が進入してくる。
身体を思いっきり引こうとしたが、いつの間にか腰に回された手に拒まれてしまう。
ちろちろと上顎の裏を舐められ、思わず大室課長の腕を掴んでいた。
必死で逃げ回っても容易に舌は捕らえられ、くちゅり、くちゅりと水音が響き出す。
息継ぎの度に自分の口から落ちるのは、信じられないほど熱を帯びた吐息。
「……はぁーっ」
唇が離れ、深い吐息を落とすと、ぐったりと大室課長の肩にもたれ掛かった。
「泉は俺のことが好きだろ?」
びくり、肩が跳ねる。
……気付かれてた。
ずっと、大室課長を想っていたこと。
大室課長の下で働くようになったときから、好きだった。
仕事ができて、気遣いもうまくて。
真剣な顔も好きだし、笑ったときは少し子供っぽくなるギャップも好き。
でも、私からしたら、大室課長は手の届かない存在だと思ってた。
「知らないと思ってたのか?
すぐに気付く。
それくらい、俺は泉を見ていたから」
ぎゅっと強く抱きしめられると涙が落ちた。
ぽろり、ぽろり、続いてそれは落ちていく。
「毎日、朝一に来て受付の花の水を換えてくれてるのも知ってる。
率先して、シュレッダーの掃除をしてくれてるのも。
そういう小さな、気遣いのできる泉が好きだ」
私を肩から引き離すと、大室課長は両手で私の顔を挟んだ。
レンズの向こうと視線が合うと照れたように笑うから、私も嬉しくて笑うと、最後の涙がぽろりと落ちた。
そっと、大室課長の親指がそれを拭ってくれる。
再び重なった唇に、大室課長の首に手を回した。
いつの間にか大室課長の手が後ろあたまに回り、私の髪をぐちゃぐちゃにかき乱していく。
部屋の中に響くのは舌を絡ませる水音と、熱い吐息。
「……泉」
気が付けばベッドに押し倒されていた。
レンズの奥の熱で潤んだ瞳。
艶を含んだ大室課長の声。
「まだ気持ち、聞いてない」
分かり切っていることなのに。
不安そうに聞いてくる大室課長がたまらなく愛おしい。
「好き、です。
大室課長」
笑い返すと、また唇が重なった。
そして――。
目を開けて見えた天井は、見覚えのないところだった。
「水、飲むか?」
「……はい」
聞こえた声に惰性で返事をすると、苦笑いの大室課長がペットボトルを渡してくれた。
冷たい水を飲むと、次第にあたまがはっきりしてくる。
……ワインで酔って、それで。
「これくらいでこんなに酔うなら、泉はもう、酒を飲まない方がいいな」
「すみませんでした。
……それでここって」
「ん?
部屋取っといて正解だったな」
そっと、大室課長の手が頬にふれ、びくりと身体が震える。
そんな私にくすりとおかしそうに笑うと、大室課長は唇を重ねてきた。
「あの、大室課長?」
困惑している私にかまわず、ちゅっ、再びふれる唇。
「泉を食事に誘う口実にするために、このあいだ案内頼んだの」
ちゅっ、ちゅっ、ふれ続ける唇にあたまは大混乱している。
「意味、わかるだろ?」
ふるふるとあたまを振ると、はぁーっとため息を落とされた。
「じゃあ、これなら?」
顎にふれた手が、軽く唇を開かせる。
また重なった唇はさっきまでと違って深く、私の唇を割って舌が進入してくる。
身体を思いっきり引こうとしたが、いつの間にか腰に回された手に拒まれてしまう。
ちろちろと上顎の裏を舐められ、思わず大室課長の腕を掴んでいた。
必死で逃げ回っても容易に舌は捕らえられ、くちゅり、くちゅりと水音が響き出す。
息継ぎの度に自分の口から落ちるのは、信じられないほど熱を帯びた吐息。
「……はぁーっ」
唇が離れ、深い吐息を落とすと、ぐったりと大室課長の肩にもたれ掛かった。
「泉は俺のことが好きだろ?」
びくり、肩が跳ねる。
……気付かれてた。
ずっと、大室課長を想っていたこと。
大室課長の下で働くようになったときから、好きだった。
仕事ができて、気遣いもうまくて。
真剣な顔も好きだし、笑ったときは少し子供っぽくなるギャップも好き。
でも、私からしたら、大室課長は手の届かない存在だと思ってた。
「知らないと思ってたのか?
すぐに気付く。
それくらい、俺は泉を見ていたから」
ぎゅっと強く抱きしめられると涙が落ちた。
ぽろり、ぽろり、続いてそれは落ちていく。
「毎日、朝一に来て受付の花の水を換えてくれてるのも知ってる。
率先して、シュレッダーの掃除をしてくれてるのも。
そういう小さな、気遣いのできる泉が好きだ」
私を肩から引き離すと、大室課長は両手で私の顔を挟んだ。
レンズの向こうと視線が合うと照れたように笑うから、私も嬉しくて笑うと、最後の涙がぽろりと落ちた。
そっと、大室課長の親指がそれを拭ってくれる。
再び重なった唇に、大室課長の首に手を回した。
いつの間にか大室課長の手が後ろあたまに回り、私の髪をぐちゃぐちゃにかき乱していく。
部屋の中に響くのは舌を絡ませる水音と、熱い吐息。
「……泉」
気が付けばベッドに押し倒されていた。
レンズの奥の熱で潤んだ瞳。
艶を含んだ大室課長の声。
「まだ気持ち、聞いてない」
分かり切っていることなのに。
不安そうに聞いてくる大室課長がたまらなく愛おしい。
「好き、です。
大室課長」
笑い返すと、また唇が重なった。
そして――。
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