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5.変態ドS眼鏡に売られた

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「じゃあ、明日お待ちしています」

最後まで笑ったまま、和久井先生は店を出ていった。
笑顔でひらひらと手を振り返してる千草をジト目で睨む。

「なーんで怒ってんの?」

「……千草が私を、変態ドS眼鏡に売り渡したから」

「まだそんなこと云ってる」

「いたっ」

デコピンされてますますいじいけた。
そんな私に千草が小さくはぁっとため息をついた。

「文ってさ。
しっかり者の姐御肌、みたいに見えるじゃない?
文もそんなふうに立ち回ってるし」

そうだっけ?
意識したこと、ないけど。
ああ、でも、千草に甘えられると嬉しくて、つい可愛がっちゃうけど。

「だから私も、甘えてあげてたけど。
ほんとの文ってか弱い乙女だし」

「は?」

か弱い乙女、ってなに?
いやいやそれ以前に、甘えてあげてた、って?

「ん?
ああ、私、ね。
結構計算高い女だよ。
文が知ったらきっと、嫌いになるくらい」

首を傾げて、ちょっと泣きそうになってる千草。

まあ、確かに、今日は性格変わった?とか思っちゃったし。
きっとこっちが千草の素、なんだろうな。

「嫌いになんてならないよ。
千草は私の友達だもん」

「……ありがとう、文」

なんでかいい子いい子ってあたま撫でられた。
いつもと立場が逆転してるとは思うけど、嫌じゃない。

「でも、か弱い乙女は……」

「合コンのときとか緊張しすぎてハイになってるの、気づいてないとでも思ってた?
机の中、ぐちゃぐちゃの私と違ってきれいに整理してあるし。
ハンカチにだってきちんとアイロンかけてある。
私が男だったら、絶対文をお嫁にもらうんだけど」

するりと千草の手が私の頬を撫でる。

じーっと見つめられてなぜかどきどきした。

ふわふわ可愛い女の子だと思ってたのに、なんかいまはえらく男前に見える。

プロポーズされたらハイって答えてしまいそうなくらい。

「だから文を任せられる男、探してたんだけどなかなかいなくてさ。
莫迦ばっかりで近づけるのもヤになるくらい」

「え、えーっと」

あー、なんかそういや、千草と知り合ってから、合コンで連絡先とか交換したことない……。

「でも、さっきの和久井先生。
一目で文の本質、見抜いてたし。
これはもう、運命だよね!」

「いや、それは歯医者が嫌いで怯えてたってだけで……」

「それがわかるだけですごいの!」

なんか千草は力説してますが。
そうなんですか?

「文ってあんまり顔に出さないし。
ここのところ不機嫌になってるのだって、私以外、知ってる人いないと思うよ?」

「へ、へー」

「だから和久井先生には文を任せられると思うの。
よかったね、文。
いい人に出会えて」

「……」

わずかに涙ぐんでさえいる千草になんて答えていいのかわからない。
あいつはただ、自分の性癖を満たしてくれる、いいおもちゃを見抜く力があるだけだと思いますが?
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