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第九章 ワルイコトで豪遊です!
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「お気をつけていってらっしゃいませ」
「ミドリもありがとな」
「ありがとうございました」
お礼を言ってミドリさんと別れ、神社へと向かう。
「浴衣、似合ってるな」
私を見下ろし、小さくふふっと炯さんが笑う。
「ありがとうございます」
嬉しくて頬が熱くなっていく。
「凄く艶っぽくて今すぐ押し倒したいが……帰るまでの我慢だな」
「えっ、あっ」
ちゅっと露わになっているうなじへと口付けが落とされ、思わずそこを押さえていた。
うーっ、こんなの反則だよ……。
「け、炯さんの浴衣姿も素敵です」
自分だけどきどきさせられるのもしゃくなので、反撃を試みる。
実際、炯さんの浴衣姿はとても色っぽくて、心臓の高鳴りが止まらない。
「そうか?」
あっさりと言った彼の顔が近づいてくる。
「……なあ。
欲情、してくれてる?」
その指摘で心臓が大きく跳ねた。
どうして炯さんは気づいてしまうんだろう。
うなじに口付けを落とされたときから、じんわりとそこが湿っているのに気づいていた。
「このまま……帰ろうか」
妖艶に光る瞳が、レンズの向こうから見ている。
とろりと蜜が、流れ落ちるのを感じた。
「あ……ダメですよ」
さりげなくその胸を押して、身体を離す。
「屋台、すっごく楽しみにしてきたんですから。
花火だって見たいです!」
火照り、すっかり欲情している顔を知られたくなくて、俯いたまま捲したてた。
「そうか。
残念」
顔を上げると、彼がにやりと口端を持ち上げるのが見えた。
炯さん、狡い。
いつも私は彼に、いいように弄ばれっぱなしだ。
参道には多くの屋台が並んでいた。
「たこ焼き!
焼きそば!
リンゴ飴も食べたいです!」
「はいはい」
「金魚掬いも、ヨーヨー釣りもやりたいです!」
「はいはい。
でも、先に挨拶な」
はしゃぐ私に苦笑いし、炯さんは私の手を引いて人混みを進んでいく。
……ちょっと子供っぽかったかな。
ちらりと彼を見上げたら、目があった。
「祭りなんていくつになってもはしゃぐもんだからな。
ほら」
炯さんが視線を向けた先では、サラリーマン数人がなにやら子供みたいに大騒ぎしていた。
もしかして、フォローしてくれた?
でも、はしゃいでいいんだってちょっと楽になった。
「こんばんは、灰谷の若旦那!」
出店の一番端、神社のすぐ隣にあるテントで、炯さんを見つけた初老の男性から声をかけられた。
「若旦那はよしてくださいよ」
笑いながら炯さんは中へと入っていく。
勧められて、ふたり並んでパイプ椅子に座った。
簡易事務所の中では先ほどの男性を中心に四、五人が談笑していた。
「今年も若旦那のおかげで、無事に祭りがおこなえています」
「いえいえ。
皆様の尽力のおかげです」
にっこりと炯さんが笑う。
大学卒業時に今の家のある土地を祖父に譲り受けて以来、祖父に引き続き炯さんはこのお祭りにそれなりの寄付をしてきたそうだ。
「そちらが若奥様ですか?」
ちらりと彼の視線が、私へと向かう。
「はい。
といってもまだ、籍は入れてないんですけどね」
「は、はじめまして!
城坂凛音です。
これからはよろしくお願いしましゅ……!」
慌てて挨拶したものの、……噛んだ。
それだけでも頭を上げられないのに、さらに炯さんがおかしそうにくすくすと笑っていれば、恥ずかしさは倍増だ。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
男性も笑いを堪えていて、今すぐこの地面に穴を掘って埋まりたくなってきた……。
「しっかし、可愛らしい方ですね。
若旦那が惚れるのもわかりますよ」
「そうでしょう」
なぜか自慢げに炯さんが頷く。
いや、そこは自慢されていいのか。
しかし、せっかく大人の魅力が出るように落ち着いた柄を選んだのに、可愛いって台無しだよ……。
「ミドリもありがとな」
「ありがとうございました」
お礼を言ってミドリさんと別れ、神社へと向かう。
「浴衣、似合ってるな」
私を見下ろし、小さくふふっと炯さんが笑う。
「ありがとうございます」
嬉しくて頬が熱くなっていく。
「凄く艶っぽくて今すぐ押し倒したいが……帰るまでの我慢だな」
「えっ、あっ」
ちゅっと露わになっているうなじへと口付けが落とされ、思わずそこを押さえていた。
うーっ、こんなの反則だよ……。
「け、炯さんの浴衣姿も素敵です」
自分だけどきどきさせられるのもしゃくなので、反撃を試みる。
実際、炯さんの浴衣姿はとても色っぽくて、心臓の高鳴りが止まらない。
「そうか?」
あっさりと言った彼の顔が近づいてくる。
「……なあ。
欲情、してくれてる?」
その指摘で心臓が大きく跳ねた。
どうして炯さんは気づいてしまうんだろう。
うなじに口付けを落とされたときから、じんわりとそこが湿っているのに気づいていた。
「このまま……帰ろうか」
妖艶に光る瞳が、レンズの向こうから見ている。
とろりと蜜が、流れ落ちるのを感じた。
「あ……ダメですよ」
さりげなくその胸を押して、身体を離す。
「屋台、すっごく楽しみにしてきたんですから。
花火だって見たいです!」
火照り、すっかり欲情している顔を知られたくなくて、俯いたまま捲したてた。
「そうか。
残念」
顔を上げると、彼がにやりと口端を持ち上げるのが見えた。
炯さん、狡い。
いつも私は彼に、いいように弄ばれっぱなしだ。
参道には多くの屋台が並んでいた。
「たこ焼き!
焼きそば!
リンゴ飴も食べたいです!」
「はいはい」
「金魚掬いも、ヨーヨー釣りもやりたいです!」
「はいはい。
でも、先に挨拶な」
はしゃぐ私に苦笑いし、炯さんは私の手を引いて人混みを進んでいく。
……ちょっと子供っぽかったかな。
ちらりと彼を見上げたら、目があった。
「祭りなんていくつになってもはしゃぐもんだからな。
ほら」
炯さんが視線を向けた先では、サラリーマン数人がなにやら子供みたいに大騒ぎしていた。
もしかして、フォローしてくれた?
でも、はしゃいでいいんだってちょっと楽になった。
「こんばんは、灰谷の若旦那!」
出店の一番端、神社のすぐ隣にあるテントで、炯さんを見つけた初老の男性から声をかけられた。
「若旦那はよしてくださいよ」
笑いながら炯さんは中へと入っていく。
勧められて、ふたり並んでパイプ椅子に座った。
簡易事務所の中では先ほどの男性を中心に四、五人が談笑していた。
「今年も若旦那のおかげで、無事に祭りがおこなえています」
「いえいえ。
皆様の尽力のおかげです」
にっこりと炯さんが笑う。
大学卒業時に今の家のある土地を祖父に譲り受けて以来、祖父に引き続き炯さんはこのお祭りにそれなりの寄付をしてきたそうだ。
「そちらが若奥様ですか?」
ちらりと彼の視線が、私へと向かう。
「はい。
といってもまだ、籍は入れてないんですけどね」
「は、はじめまして!
城坂凛音です。
これからはよろしくお願いしましゅ……!」
慌てて挨拶したものの、……噛んだ。
それだけでも頭を上げられないのに、さらに炯さんがおかしそうにくすくすと笑っていれば、恥ずかしさは倍増だ。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
男性も笑いを堪えていて、今すぐこの地面に穴を掘って埋まりたくなってきた……。
「しっかし、可愛らしい方ですね。
若旦那が惚れるのもわかりますよ」
「そうでしょう」
なぜか自慢げに炯さんが頷く。
いや、そこは自慢されていいのか。
しかし、せっかく大人の魅力が出るように落ち着いた柄を選んだのに、可愛いって台無しだよ……。
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