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第二章 楽しいワルイコト

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今後の打ち合わせを終え、炯さんは私を家まで送ってくれた。
ついでに、両親から私の引っ越し許可を取ってくれるらしい。
そんなの、自分で話をすると言ったものの。

「そういうの、凛音のいいところだし、任せたいけどさ。
こういう話は俺からしたほうがすんなり上手くいくの。
それに俺は今から凛音を悪い子に染めていくんだからな。
少しでもよき夫という印象を植え付けておかないといけない」

まるで悪戯を企む子供のように、炯さんは楽しそうだ。

「そうですか」

「そうなんだ」

なんだかおかしくて、くすくすと笑ってしまう。
想定していたものとは違い、彼とは楽しい結婚生活を送れそうだ。
ただし、あまり家に居ないのは淋しいけれど。

父は炯さんから話があると言われ、少々緊張しているように見えた。
もしかしたらふたりにしていたあいだになにかあり、破談を切り出されるのかもしれないなどと思っているのかもしれない。

「籍は入れてないだけでもう結婚したも同然ですし、すぐにでも凛音さんとの生活をスタートさせたいのですが」

いかにもよき夫といったふうに、爽やかに炯さんが笑う。
それは私の目から見れば作りものめいていたが、父には効いていた。

「そ、そうだな。
いいだろう」

一瞬あと、父は我に返ったのか小さく咳払いし、仰々しく頷いてみせた。

「ありがとうございます」

「う、うん」

炯さんに微笑みかけられ、父がぽっと頬を赤らめる。
女性どころか高年の男性まで魅了してしまう炯さん、恐るべし。

話が済み、帰る炯さんを玄関まで見送った。

「明日から出張なんだ。
凛音の引っ越しまでには帰ってくる」

「ご無理はなさらないでくださいね」

じっと、私の前に立つ炯さんを見上げる。

「そんな優しい言葉をかけてもらえたら、張り切って仕事が速く終わりそうだ」

彼が膝を折り、顔を近づけてくるのを黙ってみていた。
そのうち、私の唇に彼の唇が軽く触れる。

「……帰ってきたらエッチなことも、たくさん教えてやるな」

耳もとで囁いて、炯さんは離れた。

「えっ、あっ」

熱い吐息のかかった耳を押さえる。
口をパクパクさせている私を見て、炯さんは右の口端を持ち上げてにやりと笑った。

まだ熱にでも浮かされているかのようにふらふらと自室へ行き、ぽすっとベッドへ倒れ込む。

……炯さんって……。

先ほどのアレを思い出して耐えられなくなり、枕で出てくる奇声を抑えてごろごろ転がる。
なんであの人はあんなに恥ずかしい行為がさらっとできるのだろう。
これは私が男慣れしていないから、過剰に反応してしまうだけ?
これから一緒に過ごしていくうちに、慣れていくのかな……。

気持ちも落ち着き、起き上がってウサギのぬいぐるみを抱く。
これはこのあいだ、炯さんとゲームセンターで取ったものだ。
ちなみに、一緒に彼にとってもらったポテチは、四日ほどかけて美味しくいただいた。
両親からはそんなジャンクなものをと渋ーい顔をされたが。

「私、炯さんと結婚するんだ」

改めて認識すると歓喜が体中を駆け回り、また奇声を発しそうになる。
結婚相手が彼のような人だといいと思っていたし、きっともっと時間があれば彼を好きになるんだろうなと思っていた。
その彼が、私の結婚相手なのだ。
これほど嬉しいことはない。

それに炯さんは、私に悪いことを教えてくれると言った。
自由を約束してくれた。
こんな素敵な旦那様を選んでくれた父にはもう、感謝しかない。

「新しい生活、楽しみだな」

引っ越しは二週間後。
今からわくわくして、寝不足にならないか心配だ……。
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