私の赤点恋愛~スパダリ部長は恋愛ベタでした~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

文字の大きさ
上 下
30 / 36
第6章 ……好き

2.お疲れ様

しおりを挟む
翌日早朝、メーカーの担当さんから連絡が入ったものの、在庫は希望数にほど遠いものだった。

そもそもあの容器は特殊なものであまり作っていないので、今回のような大量注文は特注に近いのだと言っていた。
足りない代わりに提案されたのが、同じ容器を卸している先から融通してもらえないか交渉してはどうかというものだった。

チームの全員に連絡し、出てこられる人間には出社してもらう。

「これ、全部電話するんですか……」

集まった全員の口から、すでに疲労の色の濃いため息が落ちる。
容器メーカーから送られてきたリストは、うんざりするほど膨大だった。
それもそうだろう、ほとんどが個人でやっているお店だったから。

「北海道や九州など、どう考えても直接回れない地域は除外するからここからさらに減る。
申し訳ないが、頼んだ」

きれいな姿勢で佑司がお辞儀をする。

「京屋部長が悪いんじゃないんで。
……なあ」

「そうだよね」

「じゃあ、やるか!」

みんな、てきぱきと電話をかけはじめ、私も佑司もそれに加わる。
ある程度目処がついたところで、少しずつ回収に出てもらった。

――ピコン。

携帯が通知音を立て、画面を確認する。
歩くのももどかしく佑司の元へ行き、それ――駿からのNYAINを見せた。

【例の容器。
うちの仕入れ先で持ってるとこあったよ。
取りに来てくれるんならかなりの数融通してくれるって。
ただし、工場が秋田なんだけど】

「どうしますか」

数的にはありがたい。
ただし、場所が。
行けない距離ではないけれど、厳しい距離。
新幹線ならすぐなんだろうが、荷物が多いから車じゃないと無理だし。

「行ってくる。
いまからだと……零時近くになるが、それでも大丈夫か確認してくれ」

時刻は午後四時。
そんなに時間がかかるところにこれから行こうだなんて。

「……わかり、ました」

でも私には止められなかった。
このプロジェクトはなんとしてでも成功させなければならない。

会社のためにも、――佑司のためにも。

時間がもったいなくて、速攻で駿に電話を入れる。

「いまの話。
京屋部長が行くそうなので、先方に零時近くになっても大丈夫か確認取ってもらっていい?」

『マジで行くの?
了解、連絡取ってみる』

折り返しの電話をイライラとしながら待つ。
数分後、かかってきたのはOKの電話だった。

「じゃあ、行ってくる」

立ち上がった佑司へ、半ば屍に変わりつつあるみんなの視線が向く。

「みんな、今日は本当にすまなかった。
あと少し、よろしく頼む。
無事に納品された暁には盛大に飲み会を開こう」

「はい」

みんな、最後の気力を振り絞って残り僅かにまた、電話をかけはじめる。
私は部屋を出ていった佑司を追った。

「本当にひとりで大丈夫ですか」

「大丈夫もなにも、俺ひとりしかいま動ける人間がいないんだからしょうがないだろう」

運転のできる社員は全員すでに出払っていた。
残っているのは佑司ただひとり。

「私、ついていきましょうか。
運転は代われませんが、隣で眠らないように見張ることはできます」

「チーはダメだ」

強い意志を込めた目で佑司がレンズの向こうから私を見つめる。

「チーはここに残ってみんなの連絡と帰りを待ってもらわないと困る。
これは、チーにしか頼めないことだから」

「佑司……」

半分は本当、半分は私に徹夜などさせられないといったところか。
もっと頼ってほしいという気持ちもありつつ、私にしかできないと言われるとそれ以上なにも言えなかった。

「事故、起こさないで無事に帰ってきてください」

思いっきり背伸びをして手を伸ばす。
すぐに彼がその高い背をかがめてくれたので、ちゅっと唇を触れさせて離れる。

「こんな人目に触れるところでキスするとかダメじゃなかったのか」

意地悪く、ニヤリと佑司の右の口端だけが上がった。

「きょ、今日は特別ですよ」

自分らしくないTLヒロイン的行動は顔の熱を上げていく。

「もうちょっと充電させて」

いつの間にか私の背中は壁につき、私の顔を両手で挟んだ佑司にがっつり唇を食われた。
離れると、艶を帯びたオニキスが眼鏡の向こうに見えた。

「……これで元気に帰ってこられる。
あと頼んだな、チー」

ひらひらと手を振りながら佑司が去っていき、見えなくなってようやく、なにが起こったのか把握した。

……これだから、スパダリ様は。

でも、これで佑司が元気になれたんならいい。
佑司が出ていって一時間ほどですべて電話はかけ終わった。
追加の先には近くにいる人へ回収に言ってもらうべく連絡済みだ。

「今日はお疲れ様でした。
あとこのとは私がやりますので、皆さんはもう帰ってください」

「お疲れ様でしたー」

みんな、ふらふらと席を立つ。
私はまだ、帰ってきていない人の連絡と帰りを待たなければいけないが、遠方まで行った佑司に比べればまし。

回収に出た人たちが全員戻ってきたのを確認して、私も家へ帰る。
今日の夜はひとりだと思うと淋しい。
ただただ、佑司が事故を起こさずに無事に帰ってくるのだけを祈って眠ろう……。



朝起きたとき、まだ佑司は帰ってきていなかった。
大丈夫か心配になったけど、携帯にはいくつかNYAINが入っていた。

【いま、向こうの工場出た。
チーも遅くまでお疲れ。
おやすみ】

【休憩中。
さすがに眠いからちょっと仮眠取る】

【また休憩。
朝日が昇ってきた。
徹夜明けには目に染みる】

【工場着。
これでちゃんと、納品できそう。
いまから帰る】

最後のメッセージは私が起きる少し前だ。

お腹空いて帰ってくるのかな。
でも眠いから早く寝たいよね。
リゾットとかだったらお腹に優しいからいいかな。

冷蔵庫を開けて、材料を探す。
ネギとベーコンがあって牛乳とチーズもあったから、これで大丈夫。
お鍋を出して調理を開始した。

「ただいまー」

「おかえりなさい。
お疲れ様でした」

帰ってきた佑司が私に口付けを落とす。
以前はあんなに嫌だったのに、いまはそれが嬉しい。

「なんかいい匂いがする」

「お腹、空いてないですか。
リゾット作ったんですけど」

「食う」

着替えもせずにテーブルに着いた佑司の前へ、よそったリゾットを置く。

「うまそう。
いただきます」

佑司がリゾットへスプーンを突っ込み、私も一緒に食べる。

「うまい」

「よかったです」

ふにゃんと締まらない顔で佑司が笑い、ついつい私の顔も緩んでしまう。
よっぽどお腹が空いていたのか、佑司はあっという間に完食してしまった。

「お代わり、ある?」

「あー……。
じゃあ、これ」

食べかけの、私のお皿を差し出す。
けれど佑司はむーんと不機嫌そうに唇を尖らせた。

「それ食ったらチーの分がなくなるだろ。
だったらいい。
シャワー、浴びてくるわ」

さっさと椅子を立ち、彼はリビングダイニングを出ていった。

なんだろう、いまの。
ちゃんと私を気遣ってくれるんだ。

そういうのは嬉しくて、にやけそうになる。
私も残りを食べてしまって、食洗機をセットした。

「チー」

ソファーでぼーっと携帯で小説を追っていたら、佑司から抱きつかれた。

「ちょっと!
髪、びしょびしょじゃないですか!」

「もー、眠くて面倒くさい……」

急いでタオルを取って戻ってきたときには、彼はうつらうつらしていた。

「佑司が一番、遠くまで行ったんですもんね。
お疲れ様でした」

「……ん」

濡れた髪を、タオルで拭いてあげる。
佑司はもう目を開けているのもつらそうだ。

「今日はゆっくり、休んでくださいね」

ぽすっ、っと彼が私の胸にもたれかかってくる。

「佑司?」

「すー」

気持ちよさそうな寝息が聞こえてくる。
そーっと立ち上がってタオルケットを取ってこようとしたら、服を思いっきり掴まれていた。
仕方ないので起こさないようにゆっくりと身体をずらし、上半身だけでも横になれるようにする。

「おやすみなさい、佑司」

膝枕状態で、佑司の髪を撫でる。
幸せそうな寝顔。
こんなの見てたら、さっき起きたばかりなのに眠くなっちゃうよ……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」  突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。  冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。  仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。 「お前を、誰にも渡すつもりはない」  冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。  これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?  割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。  不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。  これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。

幼馴染以上恋人未満 〜お試し交際始めてみました〜

鳴宮鶉子
恋愛
婚約破棄され傷心してる理愛の前に現れたハイスペックな幼馴染。『俺とお試し交際してみないか?』

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

蕩ける愛であなたを覆いつくしたい~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されてます~

泉南佳那
恋愛
梶原茉衣 28歳 × 浅野一樹 25歳 最悪の失恋をしたその夜、茉衣を救ってくれたのは、3歳年下の同僚、その端正な容姿で、会社一の人気を誇る浅野一樹だった。 「抱きしめてもいいですか。今それしか、梶原さんを慰める方法が見つからない」 「行くところがなくて困ってるんなら家にきます? 避難所だと思ってくれればいいですよ」 成り行きで彼のマンションにやっかいになることになった茉衣。 徐々に傷ついた心を優しく慰めてくれる彼に惹かれてゆき…… 超イケメンの年下同僚に甘く翻弄されるヒロイン。 一緒にドキドキしていただければ、嬉しいです❤️

Re_Love 〜婚約破棄した元彼と〜

鳴宮鶉子
恋愛
Re_Love 〜婚約破棄した元彼と〜

会社の後輩が諦めてくれません

碧井夢夏
恋愛
満員電車で助けた就活生が会社まで追いかけてきた。 彼女、赤堀結は恩返しをするために入社した鶴だと言った。 亀じゃなくて良かったな・・ と思ったのは、松味食品の営業部エース、茶谷吾郎。 結は吾郎が何度振っても諦めない。 むしろ、変に条件を出してくる。 誰に対しても失礼な男と、彼のことが大好きな彼女のラブコメディ。

誘惑の延長線上、君を囲う。

桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には "恋"も"愛"も存在しない。 高校の同級生が上司となって 私の前に現れただけの話。 .。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚ Иatural+ 企画開発部部長 日下部 郁弥(30) × 転職したてのエリアマネージャー 佐藤 琴葉(30) .。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚ 偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の 貴方を見つけて… 高校時代の面影がない私は… 弱っていそうな貴方を誘惑した。 : : ♡o。+..:* : 「本当は大好きだった……」 ───そんな気持ちを隠したままに 欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。 【誘惑の延長線上、君を囲う。】

幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜

葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在 一緒にいるのに 言えない言葉 すれ違い、通り過ぎる二人の想いは いつか重なるのだろうか… 心に秘めた想いを いつか伝えてもいいのだろうか… 遠回りする幼馴染二人の恋の行方は? 幼い頃からいつも一緒にいた 幼馴染の朱里と瑛。 瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、 朱里を遠ざけようとする。 そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて… ・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・ 栗田 朱里(21歳)… 大学生 桐生 瑛(21歳)… 大学生 桐生ホールディングス 御曹司

処理中です...