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第5章 これは……恋、ですか?
5.京屋千重って?
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土曜日はお昼前から出かけた。
電車で街に出たから、佑司に知られたら叱られるかもしれない。
でも出かけるときは常にタクシー、なんて贅沢はやっぱり気が引けるし。
最初に向かったのは――下着ショップ。
その、佑司が喜ぶような下着を買おうと思って。
いや、私のいまの下着はTバックや紐パンってこう、エロいラインナップになっていますが?
でもこう、ベビードールとかそういうのを着た方がさらに喜んでくれるかな、って。
「とはいえ……」
店頭で見ているだけであたまがくらくらする。
赤いバラが添えられた黒のブラとショーツのセットなんていかにもらしいが、白とかピンクとかの清楚な感じの方が燃えるとかいう話も聞くし。
佑司はどっちなんだろ?
「わかるか、そんなこと」
あ、でも、買ってくれた下着って形はエロいけどパステル系が多いんだよね。
ということは、そっち系か。
ブラとショーツを選び、総レースのキャミソールを見ながらふと思う。
もしかしてこんなのより、ワイシャツの方が喜ぶ?
だって部屋に連れ込まれたあの日、私にうきうきと自分のシャツを着せようとしたし。
でもさ、ワイシャツにするんだったらその下は黒とかの下着の方がギャップで燃えない?
私は燃える。
一度は決めたセットを戻し、最初に見ていた黒の下着にした。
この答えがあっているかは謎だけど。
適当に昼食を済ませ、雑貨店なんかをうろうろする。
キャンドルを焚くと雰囲気でそうだが、火事が怖いのでLEDの奴にする。
アロマも超音波のディフューザーを買った。
アロマオイルは……イランイラン。
催淫効果があってインドネシアでは新婚の寝室にこの花を撒くらしい。
「てか、荷物おおっ」
さすがにこれで、電車で帰るのはつらそうだ。
ちょっとだけ贅沢してタクシー乗っちゃおう。
家に帰り、荷物を佑司の目につきそうにないところへ隠す。
だってこれは来週末のお楽しみなのだ。
――ピコン。
携帯が通知音を立て、画面を見る。
【いまから接待。
行きたくねー。
ホテルに帰ってずーっとチーと喋ってたい】
ふて腐れている佑司の顔が思い浮かんで、ついつい小さく笑いが漏れる。
【お疲れ様です。
お仕事なんだから頑張ってくださいね】
【終わったら電話ください。
明日も休みですし、何時でも待っています】
すぐに既読になってハイテンションで走り回る眼鏡男子のスタンプが送られてきた。
それを確認して画面を閉じる。
昼間もちょくちょく、疲れたとか帰りたいとかNYAINを入れてきて、そのたびに慰めた。
きっと明日もそうなんだろうな。
帰ってきたらいっぱい、あたまを撫でてあげよう。
冷蔵庫を片付けついでにごはんを食べる。
今日はせっかくなのでベッドでごろごろしながら、ネットで小説を読もう。
――ピプルルルッ!
「はい」
携帯が着信を告げ、画面には佑司からだと表示される。
慌てて読むのを中断して出た。
『チー?』
「どうしたんですか、まだ接待中じゃ?」
最後にNYAINが入ってきてからまだ、一時間ほどしかたっていない。
いくらなんでも早すぎる。
『んー?
充電切れそうでヤバいから』
佑司の声からは疲れが滲み出ている。
「えっと、お疲れ様です」
『うん』
「お仕事頑張って、偉いですね」
『それから?』
それからとか言われたって、困る。
『あー、京屋部長ー。
誰と電話してるんですかー』
携帯越しに女性の声が聞こえてきて、びくんと肩が跳ねた。
『……離せ』
『えーっ、もっと飲みましょうよー』
心臓の鼓動がどくん、どくんと妙に大きく響く。
佑司は、嫌がっている。
それに絶対そんなことないって信じている。
でも、――それでも、彼に女性が纏まりついているが、たまらなく嫌だった。
ああそうか、佑司もきっと、こんな気分だったんだ。
『左手に指環している男に媚びうるとか、お前、あたまおかしいんじゃないか』
ピキッと、携帯の向こうで空気が凍る。
そのままバタバタと足音が遠ざかっていった。
『悪い、チー』
「い、いえ。
いいんですか、いまの」
自分の声が引きつりそうになるのがわかる。
『知るか。
あれが嫌で出てきたっていうのに。
……ああ、ほんとに悪い』
もしかして。
いままでさんざん、こういう嫌な目に遭ってきたから佑司は、指環を左手につけることに拘ったんだろうか。
『チー?』
「あ、いえ。
佑司も大変ですね」
『ほんと、勘弁してほしい』
はぁーっと佑司の口から落ちるため息は重い。
『あんま出てられないし、そろそろ戻るわ。
少し充電できたし、なんとか我慢できそう』
「佑司」
『なに?』
「――ちゅっ」
やった途端、自分の阿呆さ加減で顔がぼふっと火を噴く。
『……かなり充電できた、サンキュ。
――ちゅっ』
リップ音を最後に通話が終わる。
ふらふらと寝室を出て、キッチンに向かう。
冷蔵庫からスパークリングウォーターのペットボトルを出し、一気に半分まで飲み干した。
それでもほてりは収まらず、思わず中身をあたまにぶっかけたくなった。
「ヤバい、完全にTLだよ……」
自分のあんな行動はありえない。
もしかして佑司と付き合っているうちに少しずつ、私もTLヒロインとして成長しているんだろうか。
……全然嬉しくないけど。
翌日の昼過ぎ、やってきた宅配のお兄さんを見てあたまを抱えた。
――だって、うち一軒分の荷物なのに台車に山積みでやってきたから。
「京屋千重さんでお間違えないですかー」
「はい」
……誰だよ、それ。
とか声に出さなかった私は偉い。
受け取った受領書の束にサインをしていく。
その間にお兄さんは玄関の中へ荷物を積んでくれた。
「ありがとございましたー」
「お疲れ様でしたー、……と。
で、これどうするよ」
超ハイテンションで買い物をしていた佑司が容易に想像できる。
初めてお買い物に行ったときもそうだった。
「アイスはさっさっと冷凍庫に入れて。
カニは今晩のごはんにする?
それで鮭は一匹丸々のままだと入んないから、佑司が帰ってきたら捌いてもらおう。
ジャガイモにんじんは当面、冷蔵庫に入れなくてもなんとかなるかな?」
なるべく軽そうな奴から運んで、ジャガイモなんかの重いのは残しておく。
冷蔵庫に入れられるものだけさっさと入れた。
「とりあえずごはん炊いて、……って、佑司帰ってくるの、夜中近いんだった……」
疲れて帰ってくる佑司に鮭を捌かせようなんてもってのほかだ。
仕方ない、自分でどうにかするか。
「ただいまー」
「……おかえりなさい」
「ん?
なんでチー、そんなに疲れてんの」
佑司の疑問はもっともだ。
だって私はぐったりとソファーに沈んでいたんだから。
「荷物、無事に届いたんだな。
え、まさかチーひとりで片付けてくれたのか」
「……まあ」
あれから。
四苦八苦して鮭を解体し、カニと共に冷凍庫へ押し込んだ。
「鮭は帰ってから俺が捌こうと思ってたのに」
「それでなくてもお疲れの佑司に、そんなことさせるわけにはいかないので」
「チー!」
佑司がいきなり抱きついてきたうえに、盛んに頬ずりしてくる。
遅い時間だから少し伸びた髭が、ざりざり当たって痛い。
「やっぱりチーは優しいなー」
むちゅーっと熱烈にキスされればも、なにも言う気も起きなかった。
「おやすみ、チー」
「おやすみなさい」
佑司に抱きしめられてベッドに入ると、安心できてすぐに眠気が襲ってくる。
いなかった二晩、どうもよく眠れていなかったみたいだ。
出張のせいで先延ばしになった私の告白計画。
もうすでに、気持ちは佑司に伝わっているけれど、ちゃんと言葉にして伝えたい。
次の週末。
ちゃんと好きっていうからいつも以上に喜んでくださいね。
電車で街に出たから、佑司に知られたら叱られるかもしれない。
でも出かけるときは常にタクシー、なんて贅沢はやっぱり気が引けるし。
最初に向かったのは――下着ショップ。
その、佑司が喜ぶような下着を買おうと思って。
いや、私のいまの下着はTバックや紐パンってこう、エロいラインナップになっていますが?
でもこう、ベビードールとかそういうのを着た方がさらに喜んでくれるかな、って。
「とはいえ……」
店頭で見ているだけであたまがくらくらする。
赤いバラが添えられた黒のブラとショーツのセットなんていかにもらしいが、白とかピンクとかの清楚な感じの方が燃えるとかいう話も聞くし。
佑司はどっちなんだろ?
「わかるか、そんなこと」
あ、でも、買ってくれた下着って形はエロいけどパステル系が多いんだよね。
ということは、そっち系か。
ブラとショーツを選び、総レースのキャミソールを見ながらふと思う。
もしかしてこんなのより、ワイシャツの方が喜ぶ?
だって部屋に連れ込まれたあの日、私にうきうきと自分のシャツを着せようとしたし。
でもさ、ワイシャツにするんだったらその下は黒とかの下着の方がギャップで燃えない?
私は燃える。
一度は決めたセットを戻し、最初に見ていた黒の下着にした。
この答えがあっているかは謎だけど。
適当に昼食を済ませ、雑貨店なんかをうろうろする。
キャンドルを焚くと雰囲気でそうだが、火事が怖いのでLEDの奴にする。
アロマも超音波のディフューザーを買った。
アロマオイルは……イランイラン。
催淫効果があってインドネシアでは新婚の寝室にこの花を撒くらしい。
「てか、荷物おおっ」
さすがにこれで、電車で帰るのはつらそうだ。
ちょっとだけ贅沢してタクシー乗っちゃおう。
家に帰り、荷物を佑司の目につきそうにないところへ隠す。
だってこれは来週末のお楽しみなのだ。
――ピコン。
携帯が通知音を立て、画面を見る。
【いまから接待。
行きたくねー。
ホテルに帰ってずーっとチーと喋ってたい】
ふて腐れている佑司の顔が思い浮かんで、ついつい小さく笑いが漏れる。
【お疲れ様です。
お仕事なんだから頑張ってくださいね】
【終わったら電話ください。
明日も休みですし、何時でも待っています】
すぐに既読になってハイテンションで走り回る眼鏡男子のスタンプが送られてきた。
それを確認して画面を閉じる。
昼間もちょくちょく、疲れたとか帰りたいとかNYAINを入れてきて、そのたびに慰めた。
きっと明日もそうなんだろうな。
帰ってきたらいっぱい、あたまを撫でてあげよう。
冷蔵庫を片付けついでにごはんを食べる。
今日はせっかくなのでベッドでごろごろしながら、ネットで小説を読もう。
――ピプルルルッ!
「はい」
携帯が着信を告げ、画面には佑司からだと表示される。
慌てて読むのを中断して出た。
『チー?』
「どうしたんですか、まだ接待中じゃ?」
最後にNYAINが入ってきてからまだ、一時間ほどしかたっていない。
いくらなんでも早すぎる。
『んー?
充電切れそうでヤバいから』
佑司の声からは疲れが滲み出ている。
「えっと、お疲れ様です」
『うん』
「お仕事頑張って、偉いですね」
『それから?』
それからとか言われたって、困る。
『あー、京屋部長ー。
誰と電話してるんですかー』
携帯越しに女性の声が聞こえてきて、びくんと肩が跳ねた。
『……離せ』
『えーっ、もっと飲みましょうよー』
心臓の鼓動がどくん、どくんと妙に大きく響く。
佑司は、嫌がっている。
それに絶対そんなことないって信じている。
でも、――それでも、彼に女性が纏まりついているが、たまらなく嫌だった。
ああそうか、佑司もきっと、こんな気分だったんだ。
『左手に指環している男に媚びうるとか、お前、あたまおかしいんじゃないか』
ピキッと、携帯の向こうで空気が凍る。
そのままバタバタと足音が遠ざかっていった。
『悪い、チー』
「い、いえ。
いいんですか、いまの」
自分の声が引きつりそうになるのがわかる。
『知るか。
あれが嫌で出てきたっていうのに。
……ああ、ほんとに悪い』
もしかして。
いままでさんざん、こういう嫌な目に遭ってきたから佑司は、指環を左手につけることに拘ったんだろうか。
『チー?』
「あ、いえ。
佑司も大変ですね」
『ほんと、勘弁してほしい』
はぁーっと佑司の口から落ちるため息は重い。
『あんま出てられないし、そろそろ戻るわ。
少し充電できたし、なんとか我慢できそう』
「佑司」
『なに?』
「――ちゅっ」
やった途端、自分の阿呆さ加減で顔がぼふっと火を噴く。
『……かなり充電できた、サンキュ。
――ちゅっ』
リップ音を最後に通話が終わる。
ふらふらと寝室を出て、キッチンに向かう。
冷蔵庫からスパークリングウォーターのペットボトルを出し、一気に半分まで飲み干した。
それでもほてりは収まらず、思わず中身をあたまにぶっかけたくなった。
「ヤバい、完全にTLだよ……」
自分のあんな行動はありえない。
もしかして佑司と付き合っているうちに少しずつ、私もTLヒロインとして成長しているんだろうか。
……全然嬉しくないけど。
翌日の昼過ぎ、やってきた宅配のお兄さんを見てあたまを抱えた。
――だって、うち一軒分の荷物なのに台車に山積みでやってきたから。
「京屋千重さんでお間違えないですかー」
「はい」
……誰だよ、それ。
とか声に出さなかった私は偉い。
受け取った受領書の束にサインをしていく。
その間にお兄さんは玄関の中へ荷物を積んでくれた。
「ありがとございましたー」
「お疲れ様でしたー、……と。
で、これどうするよ」
超ハイテンションで買い物をしていた佑司が容易に想像できる。
初めてお買い物に行ったときもそうだった。
「アイスはさっさっと冷凍庫に入れて。
カニは今晩のごはんにする?
それで鮭は一匹丸々のままだと入んないから、佑司が帰ってきたら捌いてもらおう。
ジャガイモにんじんは当面、冷蔵庫に入れなくてもなんとかなるかな?」
なるべく軽そうな奴から運んで、ジャガイモなんかの重いのは残しておく。
冷蔵庫に入れられるものだけさっさと入れた。
「とりあえずごはん炊いて、……って、佑司帰ってくるの、夜中近いんだった……」
疲れて帰ってくる佑司に鮭を捌かせようなんてもってのほかだ。
仕方ない、自分でどうにかするか。
「ただいまー」
「……おかえりなさい」
「ん?
なんでチー、そんなに疲れてんの」
佑司の疑問はもっともだ。
だって私はぐったりとソファーに沈んでいたんだから。
「荷物、無事に届いたんだな。
え、まさかチーひとりで片付けてくれたのか」
「……まあ」
あれから。
四苦八苦して鮭を解体し、カニと共に冷凍庫へ押し込んだ。
「鮭は帰ってから俺が捌こうと思ってたのに」
「それでなくてもお疲れの佑司に、そんなことさせるわけにはいかないので」
「チー!」
佑司がいきなり抱きついてきたうえに、盛んに頬ずりしてくる。
遅い時間だから少し伸びた髭が、ざりざり当たって痛い。
「やっぱりチーは優しいなー」
むちゅーっと熱烈にキスされればも、なにも言う気も起きなかった。
「おやすみ、チー」
「おやすみなさい」
佑司に抱きしめられてベッドに入ると、安心できてすぐに眠気が襲ってくる。
いなかった二晩、どうもよく眠れていなかったみたいだ。
出張のせいで先延ばしになった私の告白計画。
もうすでに、気持ちは佑司に伝わっているけれど、ちゃんと言葉にして伝えたい。
次の週末。
ちゃんと好きっていうからいつも以上に喜んでくださいね。
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