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第4章 昔付き合っていた人

4.元彼との約束

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次の日はニャーソンさんに行く佑司のお供を命じられた。

「仕事、終わってないのに……」

「急ぎはないから明日でいいだろ。
時間的にちょうどいいし、直帰でメシ食って帰ろう」

どうも、直帰でごはんが目的だった気がしないでもない。
同伴なんて今日の午後になっていきなり聞いたし。

「お待たせしました」

会議室で佑司と待っていたら、少しして先方のチーフ、有薗(ありぞの)課長と駿がやってきた。

「こちらこそ、お時間ありがとうございます」

「それで、経過報告でしたっけ」

「はい」

瀬戸レモンさんと契約が無事に結ばれた件や、容器の発注などここ最近決まったことを報告する。
メールで済む内容だとは思うけど、瀬戸レモンさんとの契約は先方も気を揉んでいただけに直接報告したかったのだろう。

「ありがとうございます。
発売まであと一ヶ月です。
このまま詰めていきましょう」

「はい。
ありがとうございます」

「それで。
……安座間くん」

「はい」

席を立った駿が私たちの間に入り、目の前に持ってきたノートパソコンを広げた。
一瞬、佑司が眉間に皺を寄せたように見えたけど……気のせい、ですか。

「パッケージとディスプレイのプランです」

画面の中のシミュレーションでは、白とレモンイエローのストライプ柄敷き紙の上に、商品が並べてあった。
所々に木の葉が散らしてあって、爽やかな感じだ。

「パッケージは上部のレモンコンポートが売りなのであまり目立たない感じで……」

佑司と私の間に身体を割り込ませ、駿はパソコンを操作した。

近すぎて、ときどき肩が当たる。

画面に映し出されたパッケージの案は、蓋には商品名と値段、ワンポイントでレモンの輪切り、側面に三層の説明イラストが描かれていた。

「こんな感じでいかがでしょう」

「いいんじゃないですか。
爽やかだし」

当たり障りのない返事を佑司がする。
なんだかそれは、らしくない気がした。

「ではこれで進めさせていただきます。
まだ最終プランではないので、変更になるかもしれませんが」

「はい、それでお願いいたします」

うーん、やっぱり佑司の返事は素っ気ない。
もしかしてさっきから、ご機嫌斜めなのかな。

「本日はお時間、ありがとうございました」

「こちらこそありがとうございました。
あと少しです、頑張っていきましょう」

「はい」

話は終わり、有薗課長に促されて佑司は部屋を出ていった。
私も続こうとしたんだけど……佑司に、引き留められた。

「チー」

「なに?」

「NYAINの返事、もらってない」

「あー……」

昨日、酷くお疲れで帰ってきた佑司に気を取られて、完全に忘れていた。

「いまじゃ、ダメなの」

「ダメ。
チーとふたりで、ちゃんと話したい」

早く行かないと佑司のご機嫌が悪くなりそうだし、だいたい昨日、こういう場合は誘いに乗ってはあとあと面倒だと学習した。
けれどいいと言わないと、駿が掴んだ私の手を離してくれそうにない。

「わかった。
都合がいいとき連絡するから、それでいい?」

「OK」

望む返事がもらえたからか、ようやく駿が手を離してくれた。

「じゃあ」

「連絡、待ってるから!」

追ってくる駿の声から逃げるように佑司を追う。

昔からそうだった。
自分の気持ちが一番で私の気持ちはあまり考えない。
佑司は自分だけ気持ちいいのは嫌だって言ってくれたけど、駿は自分が気持ちよくなりたい一心で私に関係を迫った。

「なに、やってたんだ?」

エレベーター前で待っていた佑司はなんでもないように訊いてきたけれど、僅かに右足をダンダンと床に打ち付けていた。

「ちょっと、お手洗いに」

「ふーん」

興味なさげにそれだけ言い、ちょうど到着したエレベーターへ乗り込む。
後ろから私を見下ろす佑司の視線が痛い。
きっと彼は、私が嘘をついているって知っている。

「んで。
なに食って帰る?
あ、がっつり肉食いたいからステーキにでもするか!」

私の返事を待たずに佑司は車を出した。
訊きたいはずなのだ、さっきのこと。
なのになにも訊いてこないのはなんでだろう。
私としては都合がいいけど。



翌週の月曜日、帰ってきた途端、佑司に抱きつかれた。

「金曜、接待になった……」

「らしい、ですね」

金曜はショッピングモールや24時間スーパーも展開している『NYAON』グループ本社で、夏の新商品のプレゼンと商談だって聞いている。
NYAONさんといえばもちろん、うちの取引先最大手だし、接待してでも契約は取りたいに決まっている。

「帰ってきたらまた、よしよししてあげますから頑張ってきてください」

「んー、だったら頑張れるかもー」

ふにゃんと、これ以上ないほど気の抜けた顔で佑司が笑う。
そういうところ、ほんと可愛いなー。

「おやすみ、チー」

「おやすみなさい」

ちゅっと佑司の頬に口付けする。
嬉しそうに笑った彼はいつものように、私を抱き締めて布団に潜り込んだ。
目を閉じて寝たフリをする。
しばらくして私がネタと思った佑司は部屋を出ていった。

……さてと。

バタンとドアが閉まったのを確認し、そーっと目を開ける。
手探りで枕元の携帯を引き寄せた。

「もう寝てるかな……」

駿のアカウントを選び、メッセージを打ち込む。

【食事の件。
金曜日だったら都合がいいけど。
どうですか】

少しの間、画面を見つめて待つ。
既読にはなりそうになかったから、画面を閉じようとした、ら。

【金曜?
OK、OK。
どこ、待ち合わせする?】

少し悩んで、会社のカフェテリアで待ち合わせにしてもらった。

「佑司にも言わないとだよね……」

駿に金曜にしてもらいたかったのは、佑司が接待でいないからだ。
彼に用がない日に私だけが人と食事に行くなど、許してくれようはずがない。
しかも、さんざんだだこねられるのが見えているし。
面倒くさいことは回避したい。

「……あとで、考えよ」

いま考えたってそうそう簡単には答えは出ない。
またTLノベル読んで、正解を探さないと……。
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