上 下
6 / 36
第1章 昔の彼の生まれ変わり?

6.ペアリング

しおりを挟む
ぶらぶら見て回りながら、佑司が唐突に足を止める。

「……指環」

彼の視線の先には、エンゲージリングが飾ってある。
まさか、あれを買うなんて言わないよね?

「買おう、指環!」

まさか、が現実になってあたまが痛い。

「あのー、ですね?
私たちはまだ、恋人同士ですらないわけで……」

「とりあえずで付き合ってるのはわかってる。
でもそれって仮押さえってことだろ?
なら、その印つけたっていいだろ」

私を引きずって、佑司は強引に店に入っていく。
すぐに店員に言って、ペアリングをいくつか並ばせた。

「……ペアなんですか」

「当たり前だろ。
お揃いがいいに決まってる。
……ほら、チーはどれがいい?」

「えーっと……」

いいのか、ほんとに。
私としてははなはだ疑問なんだけど、佑司は嬉しそうに選んでいる。
なら……いいことにしよう。

「そういえば、チーの誕生日っていつだ?」

「四月ですけど」

「過ぎてるじゃないか!
なんで早く言わない!?」

いや、会社で聞かれることなんてないし。
それに、自分の誕生日を喧伝して回る奴なんていないだろう。

「四月の誕生石は……ダイヤか。
じゃあ、ダイヤがついているのがいいな」

さらにダイヤに候補を絞り、目の前にリングが並べられた。

「どれがいいかなー」

さりげなく左手を取られ、反射的に引っ込める。
冷たい視線を送ったら、びくっと一瞬、佑司の肩が跳ねた。

「ええっと……」

今度は右手が取られ、指環が嵌められる。

「んー、いい感じ?
こっちは?」

並べられた指環を全部、彼はとっかえひっかえ私の指に嵌めた。
最終、ホワイトゴールドのシンプルなストレートで、女性用にだけ中央に五つほどダイヤが並べられたものをもう一度嵌めた。

「これにしよう、これに」

「はぁ……」

どうでもいいが、ついている値札が私の一ヶ月分の食費よりも高い。
さっきは大量に服を買い、さらにこんなもをぽんと買う佑司は……まあ、スパダリ様なんだから当たり前なんだろうか。

「その、……こんなに高いもの、ほんとにいいんですか……?」

「チーは遠慮するんだ?」

そりゃ、するだろ、普通。

「服も遠慮されたし。
チーはほんと、可愛いな!」

「……ぐえっ」

人前だというのに、いきなり抱きつかれた。
店員がバカップルだとくすくす笑っていてさらに恥ずかしい。

「別に無理なんかしてないから、チーは心配しなくていいの」

「そうですか……」

なんだか知らないが佑司はご機嫌みたいだし、これ以上は聞かないでおこう。


適当なお店で昼食を食べ、さらに店を見て回る。
佑司はペアの、パジャマとか部屋着とか買ってくれた。

「もうこんな時間かー」

気づけば、外は夕闇に沈みはじめていた。

「まだ全部買えてないんだよなー。
ま、いっか。
また明日にすれば」

ちょっと待って。
全部買えてないってなに?
今日、さんざんお買い物したよね?
しかも私のものばっかり。

「買い物して……あ、いや。
今日は食って帰ろう」

「はぁ……」

駐車場に戻り、車に乗る。
今日は高級そうな天ぷら店に連れていかれた。
美味しい、けど肩がこる。
町の定食屋的天ぷら店の方が私は好みだ。



佑司の家に帰り着いたときにはぐったりと疲れていた。

「コーヒー飲むか」

「そーですね」

おしゃれな、イタリア製のコーヒーマシーンがすぐに豆を曳きだす。
ソファーに寄りかかってぼーっとその音を聞いていた。

「ほら」

「ありがとうございます」

カップを手に、佑司が隣に座る。
受け取ったカップの中身はカフェラテだった。

「今日からチーと同棲かー」

嬉しくてたまんない、佑司はそんな顔をしてる。

「あ、確認なんですけど。
家賃とかは……」

「ん?
別に必要ないけど」

「……は?」

いやいや、家賃は折半でしょ、やっぱり。
とはいえ、こんな高級マンションの家賃なんて、たとえ折半でも私には無理だろうけど。

帰ってきてから説明してくれたけど。
中央棟の一階にラウンジ、最上階にジムと大浴場。
それで、そこから渡り廊下で各棟に繋がっていて、各階に一部屋ずつしかない。
住んでいるのはやっぱり、部長さんだとか若社長さんなんだとかがほとんどなんだって。

「いえ、おいてもらうのにタダとかは……」

「んー?
チーが俺の妻だったら家賃とかもらわないだろ?
そういうこと」

「……は?」

いま、妻とかいいましたか?
もしかしてすでに、結婚とかまで視野に入れてるの?
いや、いまの問題はそこじゃないからいい。

……いや、よくないけど。

でも、結婚していたとしても、共働きなら家計の分担とかしない?

「それでもやっぱり、そういうわけにはいかないんじゃ……」

「別に?
俺、チーひとりくらい、余裕で養えるし」

「……は?」

そこでなんで嬉しそうなのかわからん。

「その。
……失礼ですが、佑司の収入って……」

「俺の収入?
んー、だいたい」

佑司が口にした額は、私の年収を2倍してさらにゼロを足したくらいあった。

「え、そんなにあるんですか」

「そ。
だからチーは今すぐ会社を辞めたっていい。
……おっと!」

思わず出た手は、軽くよけられた。
そういうのはちょっとムカつく。

「いや、でも、やっぱり……」

いくら彼にお金があろうと居候させてもらうわけだし、タダだとか居心地が悪い。

「ガタガタ言わない!
俺がそーしたいんだから、いいの」

「はぁ……」

いいのか?
いや、よくない。
が、それ以上言うと機嫌を損ねそうだから、やめた。

「わかりました……」

「ん、じゃあ今日からよろしく、チー」

眼鏡の奥の目を細め、にっこりと佑司が笑う。

「よろしくお願いします……」

なんか疲れた。
もう疲れた。

だから昨日今日のことを後悔することがあったって、疲れていたから仕方ないと諦めることにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

年下の部下がぐいぐい押してくるんだけど!?

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「柏原課長。 俺と付き合ってくれませんか?」 唐突に、10も年下の部下の大宮から告白された。 いやいや、ない、ないよ。 動揺している私なんか無視して、大宮はさらに続ける。 「なら、賭をしませんか」 ……と。 柏原留美  33歳、独身 文具問屋 営業三課課長 恋愛関係に疎く、女を捨てた人 なのに、年下から告白されて……? × 大宮伊織 23歳 文具問屋 営業三課所属 仕事熱心で、丁寧な男 社内外の女性に意識されている人 なのに10も年上の柏原が好き!? 恋に疎いアラサー女に迫る、若手社員! 彼の真意はいったい!?

ネカフェ難民してたら鬼上司に拾われました

瀬崎由美
恋愛
穂香は、付き合って一年半の彼氏である栄悟と同棲中。でも、一緒に住んでいたマンションへと帰宅すると、家の中はほぼもぬけの殻。家具や家電と共に姿を消した栄悟とは連絡が取れない。彼が持っているはずの合鍵の行方も分からないから怖いと、ビジネスホテルやネットカフェを転々とする日々。そんな穂香の事情を知ったオーナーが自宅マンションの空いている部屋に居候することを提案してくる。一緒に住むうち、怖くて仕事に厳しい完璧イケメンで近寄りがたいと思っていたオーナーがド天然なのことを知った穂香。居候しながら彼のフォローをしていくうちに、その意外性に惹かれていく。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

Spider

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
花火大会に誘われた。 相手は、会社に出入りしている、コーヒー会社の人。 彼はいつも、超無表情・事務的で。 私も関心がないから、事務的に接してた。 ……そんな彼から。 突然誘われた花火大会。 これは一体……?

誘惑の延長線上、君を囲う。

桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には "恋"も"愛"も存在しない。 高校の同級生が上司となって 私の前に現れただけの話。 .。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚ Иatural+ 企画開発部部長 日下部 郁弥(30) × 転職したてのエリアマネージャー 佐藤 琴葉(30) .。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚ 偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の 貴方を見つけて… 高校時代の面影がない私は… 弱っていそうな貴方を誘惑した。 : : ♡o。+..:* : 「本当は大好きだった……」 ───そんな気持ちを隠したままに 欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。 【誘惑の延長線上、君を囲う。】

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

副社長氏の一途な恋~執心が結んだ授かり婚~

真木
恋愛
相原麻衣子は、冷たく見えて情に厚い。彼女がいつも衝突ばかりしている、同期の「副社長氏」反田晃を想っているのは秘密だ。麻衣子はある日、晃と一夜を過ごした後、姿をくらます。数年後、晃はミス・アイハラという女性が小さな男の子の手を引いて暮らしているのを知って……。

ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編

タニマリ
恋愛
野獣のような男と付き合い始めてから早5年。そんな彼からプロポーズをされ同棲生活を始めた。 私の仕事が忙しくて結婚式と入籍は保留になっていたのだが…… 予定にはなかった大問題が起こってしまった。 本作品はシリーズの第二弾の作品ですが、この作品だけでもお読み頂けます。 15分あれば読めると思います。 この作品の続編あります♪ 『ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編』

処理中です...