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プロローグ
プロローグ
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「チーのその鈍さが、僕を傷つけてるってわからないの?」
彼の、私を責める声。
私が鈍いから、彼の気持ちがわからない。
だから、いつもいつも彼を傷つける。
昨日は大学の友達と一緒にレポートをやってその流れで飲みにいった。
本当にただ、それだけ。
友達が――男だってことを除けば。
「男とふたりなんてなに考えてるの?」
彼の、私を責める声。
昨晩、NYAINがなかなか既読にならなかったことを問い詰められ、その流れで男友達とふたりで飲みにいったと白状させられた。
「でも」
「でも、なに?」
黒縁眼鏡の奥から彼がじっと見つめる。
いい訳はもう聞きたくない、そんな彼の瞳に言いかけた言葉は飲み込んだ。
「……なんでもない」
最初のうちは私の弁明を聞いてくれていた彼だけど、最近はもううんざりだとばかりになにも聞いてくれなくなった。
「いつもそうだよね」
はぁーっと、彼の口から重いため息が落ち、びくっと肩が跳ねた。
「……チーにとって僕はなに?」
目を伏せた彼が訊いてくる。
それはまるで、私と目すらあわせたくないとでもいうようだった。
「君は……彼氏、だよ」
そう答えたけれど、私の中で彼は彼氏かどうか曖昧な存在だった。
付き合っている人、その認識はある。
けれど彼氏=恋人だとするならば、私の中で彼は彼氏ではないと思う。
だっていまだに、彼に対して明確な恋愛感情があるのかすらわからない。
しかし正直に答えると彼をさらに怒らせそうで、求めていそうな無難なことを言った。
「じゃあさ。
なんで彼氏がいるのに他の男と飲みにいくの?」
「え……」
それこそ、なにがいけなかったのかわからない。
飲みにいった彼は、明確に私の中では友達で、彼自身も私をそう見ていた……と、思う。
だから恋愛のどうこうだのあるはずがないのだから、彼が心配する必要もない。
――なのに。
「普通、行かないだろ。
男と、しかもふたりっきりでとか」
そうなのだろうか。
私にはその〝普通〟って奴がわからない。
だからこうやって、彼を度々怒らせる。
「……ごめん」
また、間違えた。
いつも、そう。
いくら気をつけても間違った行動を取ってしまう。
最近ではとうとうなにが正解なのかわからなくて、お箸の上げ下げですら気を遣う。
「どうしてチーは、そんなに鈍感なの?」
「……ごめん」
恋愛に鈍い自分が嫌になる。
きっと、好きと言われて恋愛感情などなにもわからないまま付き合ったのが間違っていた。
でも私は彼が嫌いじゃなかったし、どっちかといえば好意を持っていた。
だからきっと、付き合ううちに好きという気持ちが、恋愛感情というものがわかると思っていた。
「……もういいよ」
はぁーっ、とまた彼の口から重いため息が落ちる。
もう何度、こうやって彼にため息をつかせたことだろう。
「別れよ、僕たち」
泣き笑いの、彼の顔。
私があんな、顔をさせている。
わかっているけれどなんと答えていいのかわからない。
「チーのことは好きだけど。
でももう、疲れたんだ。
チーと一緒にいるの。
……チーは僕を、傷つけてばかりだから」
「……ごめん」
俯いた視界に、ぽつぽつと水滴が落ちてくる。
「泣いたら許してもらえると思ってるの?
泣きたいのは僕の方だっていうのに」
「……ごめん」
必死に、泣きやもうと努力した。
けれど涙はいつまでたっても止まらない。
「もういいよ」
はぁーっ、再び落ちてくる、彼のため息。
そのままコツコツと足音が遠ざかっていく。
止めなきゃいけないのはわかっていたけど、その言葉が見つからない。
ごめん、ごめんなさい。
私が鈍いから、優しいあなたを傷つけた。
ごめんなさい、ごめんなさい。
許してなんていえないけれど。
せめて次は、私みたいな人を好きになりませんように――。
彼の、私を責める声。
私が鈍いから、彼の気持ちがわからない。
だから、いつもいつも彼を傷つける。
昨日は大学の友達と一緒にレポートをやってその流れで飲みにいった。
本当にただ、それだけ。
友達が――男だってことを除けば。
「男とふたりなんてなに考えてるの?」
彼の、私を責める声。
昨晩、NYAINがなかなか既読にならなかったことを問い詰められ、その流れで男友達とふたりで飲みにいったと白状させられた。
「でも」
「でも、なに?」
黒縁眼鏡の奥から彼がじっと見つめる。
いい訳はもう聞きたくない、そんな彼の瞳に言いかけた言葉は飲み込んだ。
「……なんでもない」
最初のうちは私の弁明を聞いてくれていた彼だけど、最近はもううんざりだとばかりになにも聞いてくれなくなった。
「いつもそうだよね」
はぁーっと、彼の口から重いため息が落ち、びくっと肩が跳ねた。
「……チーにとって僕はなに?」
目を伏せた彼が訊いてくる。
それはまるで、私と目すらあわせたくないとでもいうようだった。
「君は……彼氏、だよ」
そう答えたけれど、私の中で彼は彼氏かどうか曖昧な存在だった。
付き合っている人、その認識はある。
けれど彼氏=恋人だとするならば、私の中で彼は彼氏ではないと思う。
だっていまだに、彼に対して明確な恋愛感情があるのかすらわからない。
しかし正直に答えると彼をさらに怒らせそうで、求めていそうな無難なことを言った。
「じゃあさ。
なんで彼氏がいるのに他の男と飲みにいくの?」
「え……」
それこそ、なにがいけなかったのかわからない。
飲みにいった彼は、明確に私の中では友達で、彼自身も私をそう見ていた……と、思う。
だから恋愛のどうこうだのあるはずがないのだから、彼が心配する必要もない。
――なのに。
「普通、行かないだろ。
男と、しかもふたりっきりでとか」
そうなのだろうか。
私にはその〝普通〟って奴がわからない。
だからこうやって、彼を度々怒らせる。
「……ごめん」
また、間違えた。
いつも、そう。
いくら気をつけても間違った行動を取ってしまう。
最近ではとうとうなにが正解なのかわからなくて、お箸の上げ下げですら気を遣う。
「どうしてチーは、そんなに鈍感なの?」
「……ごめん」
恋愛に鈍い自分が嫌になる。
きっと、好きと言われて恋愛感情などなにもわからないまま付き合ったのが間違っていた。
でも私は彼が嫌いじゃなかったし、どっちかといえば好意を持っていた。
だからきっと、付き合ううちに好きという気持ちが、恋愛感情というものがわかると思っていた。
「……もういいよ」
はぁーっ、とまた彼の口から重いため息が落ちる。
もう何度、こうやって彼にため息をつかせたことだろう。
「別れよ、僕たち」
泣き笑いの、彼の顔。
私があんな、顔をさせている。
わかっているけれどなんと答えていいのかわからない。
「チーのことは好きだけど。
でももう、疲れたんだ。
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「……ごめん」
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「泣いたら許してもらえると思ってるの?
泣きたいのは僕の方だっていうのに」
「……ごめん」
必死に、泣きやもうと努力した。
けれど涙はいつまでたっても止まらない。
「もういいよ」
はぁーっ、再び落ちてくる、彼のため息。
そのままコツコツと足音が遠ざかっていく。
止めなきゃいけないのはわかっていたけど、その言葉が見つからない。
ごめん、ごめんなさい。
私が鈍いから、優しいあなたを傷つけた。
ごめんなさい、ごめんなさい。
許してなんていえないけれど。
せめて次は、私みたいな人を好きになりませんように――。
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