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最終章 私は一生、あなたのもの
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夜は取締役就任のお祝いだって、ヒルズのレストランで食事だった。
「一週間ぶりのまともな食事……!」
「いや、昼食っただろ」
「うっ」
確かに昼食は普通に食べたけれど。
「……でも、御津川さんいなくて社長でひとり、ケータリングだったから……」
さすがに株価が一気に落ちれば、社長もじっとしているわけにはいかない。
終わるまで待ってろ、はよかったけど、彼はまともに昼を取る時間すらなかった。
おかげで市場が閉まる直前には若干持ち直し、一安心だ。
「可愛いな、李亜は」
眼鏡の奥で目尻を下げ、彼がうっとりと私を見る。
それだけで、心臓は勝手に甘い鼓動を刻みはじめる。
「夏原社長には連絡入れたのか?」
「はい」
御津川氏の仕事が終わるのを待っている間に、夏原社長に電話した。
仕事の話は大変ありがたかったが、やることができてしまったから、って。
「なんか言ってたか?」
「残念だが仕方ない、と」
「だろうな。
李亜ほどの人間を、簡単に手放す奴はただの阿呆だ。
みすみす李亜を寿退社させた上司は、無能だったんだな」
「えっと……。
でも再就職は全然、決まってなかったので」
そこまで彼が買ってくれているのは嬉しいが、私はそこまでの人間なんだろうか。
再就職だってあれだったのに。
「ん?
名前が変わって実績がリセットされてたんだろ」
そこかー、なんて言葉は口に出さないでおいた。
この就職活動で、既婚女性の再就職がいかに厳しいか身に染みてわかった。
取締役に就任したらMITSUGAWAを足がかりに、そういう社会を変えてやる。
今日は泊まって帰ると御津川氏が私を連れてきたのは、――処女を奪われたあの部屋だった。
「あのときは雰囲気もなにもなかっただろ」
短い口付けを繰り返しながら、彼に押し倒されていく。
「あれから李亜を抱いていいのか自信もなかったし」
「あっ」
ふっ、と耳に息を吹きかけられ、甘い声が漏れた。
あの日から御津川氏はずっと、私を抱いていない。
これが二回目だ。
「今日は思いっきり、李亜を可愛がる。
……愛してる、李亜」
「……ん」
唇が重なり、ぬるりと熱いそれが入ってくる。
初めてのあの日と違い、自分からも彼を求めた。
「もしかして初めて会った日、私にキス、しましたか?」
眼鏡を外し、ジャケットを脱ぎ捨てる彼を見ながら問いかける。
「したな。
俺がタクシー代を払う代わりに」
「そっか……」
私のファーストキスは、初めから御津川氏――慧護だった。
それがこんなにも、嬉しい。
「李亜……」
ネクタイを抜き取った彼が、再び覆い被さってくる。
「慧護。
愛してる」
一瞬、大きく見開かれた彼の目が、僅かに潤む。
腕を絡めて彼を引き寄せ、今度は私から唇を重ねた。
【終】
※※子供ができた番外に続きます※※
「一週間ぶりのまともな食事……!」
「いや、昼食っただろ」
「うっ」
確かに昼食は普通に食べたけれど。
「……でも、御津川さんいなくて社長でひとり、ケータリングだったから……」
さすがに株価が一気に落ちれば、社長もじっとしているわけにはいかない。
終わるまで待ってろ、はよかったけど、彼はまともに昼を取る時間すらなかった。
おかげで市場が閉まる直前には若干持ち直し、一安心だ。
「可愛いな、李亜は」
眼鏡の奥で目尻を下げ、彼がうっとりと私を見る。
それだけで、心臓は勝手に甘い鼓動を刻みはじめる。
「夏原社長には連絡入れたのか?」
「はい」
御津川氏の仕事が終わるのを待っている間に、夏原社長に電話した。
仕事の話は大変ありがたかったが、やることができてしまったから、って。
「なんか言ってたか?」
「残念だが仕方ない、と」
「だろうな。
李亜ほどの人間を、簡単に手放す奴はただの阿呆だ。
みすみす李亜を寿退社させた上司は、無能だったんだな」
「えっと……。
でも再就職は全然、決まってなかったので」
そこまで彼が買ってくれているのは嬉しいが、私はそこまでの人間なんだろうか。
再就職だってあれだったのに。
「ん?
名前が変わって実績がリセットされてたんだろ」
そこかー、なんて言葉は口に出さないでおいた。
この就職活動で、既婚女性の再就職がいかに厳しいか身に染みてわかった。
取締役に就任したらMITSUGAWAを足がかりに、そういう社会を変えてやる。
今日は泊まって帰ると御津川氏が私を連れてきたのは、――処女を奪われたあの部屋だった。
「あのときは雰囲気もなにもなかっただろ」
短い口付けを繰り返しながら、彼に押し倒されていく。
「あれから李亜を抱いていいのか自信もなかったし」
「あっ」
ふっ、と耳に息を吹きかけられ、甘い声が漏れた。
あの日から御津川氏はずっと、私を抱いていない。
これが二回目だ。
「今日は思いっきり、李亜を可愛がる。
……愛してる、李亜」
「……ん」
唇が重なり、ぬるりと熱いそれが入ってくる。
初めてのあの日と違い、自分からも彼を求めた。
「もしかして初めて会った日、私にキス、しましたか?」
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「したな。
俺がタクシー代を払う代わりに」
「そっか……」
私のファーストキスは、初めから御津川氏――慧護だった。
それがこんなにも、嬉しい。
「李亜……」
ネクタイを抜き取った彼が、再び覆い被さってくる。
「慧護。
愛してる」
一瞬、大きく見開かれた彼の目が、僅かに潤む。
腕を絡めて彼を引き寄せ、今度は私から唇を重ねた。
【終】
※※子供ができた番外に続きます※※
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