偽りの花婿は花嫁に真の愛を誓う

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第3章 セレブの暮らし

3-2

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「ただいま、李亜」

今日も、帰ってきた御津川氏は私にキスをした。

「おかえりなさい。
出掛けるって、どこに行くんですか?」

「ん?
ラウンジだ。
李亜をお披露目しないといけないからな」

手を引かれ、寝室へ移動する。
彼が入っていったウォークインクローゼットは先日買った服が詰め込まれていた。

「やっぱり李亜にはネイビーのドレスが似合うな」

「はぁ……」

何着か私に当てたりしたあと、言葉どおりネイビーのドレスを私に持たせた。

「李亜がネイビーなら俺は黒かな……」

少し悩んで自分のスーツを選びだし彼は……いきなり、脱ぎだした。

「えっ、ちょっと待ってください!」

慌てて、部屋を飛び出る。

……ちょっとくらい、考えてくれても。

なんて思っていたんだけど。

「別にいまさら、意識する関係でもないだろうが」

ネクタイを首に掛けた状態で出てきた彼は、袖口のカフスボタンを留めた。

「だ、だって……!」

こっちとしてはついこの間まで処女だったんです! 配慮を!

……なんて口に出せるわけがなく。

「わかった、わかった。
李亜は、可愛いな」

ニヤリと右の口端を上げ、御津川氏は私にちゅっ、と口付けした。

「……子供扱い」

それが不満で、頬を軽く膨らませ、唇を尖らせる。
けれど。

「わるかった、わるかった。
これで機嫌直せ、な?」

顔をのぞき込んだ彼がまた私にキスし、ニカッと八重歯を見せて悪戯っぽく笑う。

「……やっぱり子供扱い」

「んー?」

少し考えた彼の顔が、近づいてくる。
またキスして誤魔化す気かと思ったものの。

「……愛してる、李亜。
これで、許してくれるか」

熱い重低音が直接耳に入ってきて、鼓膜を揺らす。
その甘い響きに腰砕けになって、力が抜けた。

「おっと!
危ない」

すかさず、彼が支えてくれる。

「やっぱり李亜は、可愛いなー」

ちゅっ、と耳たぶに口付けした彼の手を借りて、立った。
けれど全身は燃えるように熱い。

「このまま李亜をもっと可愛がりたいが……そんな時間はないからな」

器用にパチン、とウインクし、彼は私に持たせていたドレスを手に取った。
反対の手で私の手を掴み、レジデンスを出る。
そのまま来たのはオフィスビルの美容室だった。

「セット頼む」

「かしこまりました」

御津川氏の一言で、わらわらとスタッフが寄ってくる。
すぐに施術用の椅子に座らされ、あっという間に髪がセットされ化粧が施された。
最後に、持ってきたドレスに着替える。

「うん、やっぱり李亜にはネイビーだな。
美しすぎてまた、求婚したいくらいだ」

跪いた彼が手を取り、そこに口付けが落とされれば、一気に頬が熱くなった。

「いきますか、奥様?」

「……はい」

差し出された腕にそっと自分の手をのせる。
……これで正しいのかなんてわかんないけど。
でもそれだけで、大切に扱われている感じはひしひしと伝わった。

エレベーターの中はふたりきりだった。

「今日はいろいろな人に李亜を紹介するが、とにかく笑っていれば大丈夫だ。
なにがあっても俺がフォローするから、安心しろ」

「……はい」

紹介って誰に? という疑問はあるが、今日の装いでおおよその見当はついた。
それにオフィスビル上層階のVIPラウンジでは夜な夜な、ヒルズ内外のセレブが交流会を開いているという噂は聞いていた。

「緊張しなくていい。
俺がついている」

ぎこちないまま、うん、うんと頷き、深呼吸をしたタイミングでドアが開く。

「いくぞ」

きらびやかなその世界へ、私は足を踏み出した。
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