偽りの花婿は花嫁に真の愛を誓う

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第2章 理想の新婚生活

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レジデンスに帰り、私の部屋だって言われた部屋に引っ込む。
そこは前に住んでいたマンションの部屋に近い状態にしてあった。

「じゃ、はじめますかね」

パソコンを起動させ、求人情報サイトをさすらう。
御津川氏は遊んで暮らせばいい、という口ぶりだったが、そんなの嫌だ。
そもそも仕事を辞めたのだって、私だって寿退社できるのよ、って見栄を張っただけで、一年くらいしたらまた、仕事をはじめるつもりだったし。

「どこかに引っかかるといいんだけどなー」

めぼしい会社のエントリーシートを片っ端から埋めていく。
転職斡旋サイトにも登録した。
ずっと画面を見ていて、凝り固まっていた肩をほぐす。
時計を確認したら、すでにお昼を回っていた。

「お昼ごはん食べよ」

レンジで買ってきたお弁当を温め、ダイニングテーブルで食べる。

「さすが、米沢牛」

値段だけ、いつもコンビニで買って食べるお弁当よりも美味しかった。

食後はすることもないので、テレビを観ていた。

「え、これもあれも観られるの!?」

各種オンデマンド契約をしているみたいで、観たかった映画やドラマが見放題なのが嬉しい。
さらに音響設備もかなりいいものを設置してあって、臨場感もある。

「どうしよう、天国すぎて困る……」

ほくほくで見逃した映画を観ていたら、スーパーのスタッフが配達に来た。
買ったものをしまおうと開けた冷蔵庫の中は、案の定のほぼ空だった。

「ですよねー」

テキパキと位置を決めてしまい、さらにキッチンをチェックする。

「調理道具は一応、揃ってるんだ」

鍋もフライパンも、取っ手の取れるタイプのが大中小揃ってしまってあった。
包丁とまな板も発見したが、どれも使った形跡がない。

「ほんとに外食派なんだ。
でもこれなら、いけそうかな?」

手早く髪を結び、私はキッチンに立った。



「李亜、ただいま」

帰ってきた御津川氏は今朝と一緒で、私にキスをした。

「食事に……って、これ、どうしたんだ?」

ダイニングテーブルの上を見て、彼はそのレンズの幅と同じくらい、目を見開いた。

「作ったんですが、お口にあわなかったらすみません」

「いや、あわないなんてことはないだろ、李亜が作ったんだから」

脱いだコートを椅子にかけ、待ちきれないかのように彼がテーブルに着く。

「いただきます」

彼はわざわざ手をあわせ、置いてあるスプーンを取った。

「うん、旨い。
李亜は料理もできるなんて、凄いな」

ホワイトシチューを一口食べ、彼はにこにこ笑っている。
その顔になぜか、胸の中が温かくなった。

「普通ですよ、これくらい」

「いや、凄いって。
俺はいい嫁さんもらったな」

またシチューを一口食べた、彼の目尻が眼鏡の奥で下がる。

「……喜んでもらえたならよかったです」

顔が熱くなって、気づかれないように俯いた。

――結婚して、夕食を作って旦那様の帰りを待つ。

それは、私の憧れだった。
だから今日、夕食を作ったといってもいい。
でも期待なんてしていなかった。
ただ、文句さえ言わずに食べてくれればいいと思っていた。
なのに、喜んでくれるなんて。

夕ごはんは穏やかに進んでいく。

「今日はなにをしていたんだ?」

「今日は買い物と、あとは映画を観ていました」

なんとなく、職探しをしていたことは隠した。
反対される気がするから。

「そうか。
李亜はどんな映画が好きなんだ?
今度、オススメのを一緒に観よう」

嬉しそうに笑って食べている御津川氏を見ていたら、普通にごはんを食べているだけなのに心がほっこりする。
この人との結婚生活も悪くないのかもしれない、なんて考えていた。
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