42 / 46
最終章 入るor出る?
5.ただひとつだけの後悔を
しおりを挟む
……身体が、揺れる。
ああそうか、征史さんの仕事が終わるのを待っていて、そのまま寝ちゃったんだ。
「……ん」
「目、覚めたか」
私を抱きかかえたまま、征史さんがちゅっと口づけを落としてくる。
「ここ……」
「俺のマンション」
器用に片手でドアを開け、中に入っていく。
リビングで私を、ソファーに下ろした。
「このまま寝るか、それともなんか食うか」
ゆっくりと征史さんの手が私の髪を撫でる。
その愛おしそうな顔に、もしかして私は夢でも見ているんじゃないかと不安になってくる。
「……まさくん」
「ん?」
求めるように手を広げると、征史さんの方からぎゅっと抱きしめてくれた。
「まさくん、まさくん、まさくん」
「どうした?
俺はここにいるぞ」
あやすように私の髪を撫でる征史さんの手は優しくて、ますます現実感が遠のいていく。
「私まだ、夢を見ているわけじゃないんですよね?
これ、現実なんですよね?」
「夢じゃない、現実だ。
もし夢だったとしたら……もう二度と、目覚めないでいい」
「……まさくん?」
私の顔を両手で挟み、親指で涙を拭う征史さんの目は、泣きだしそうに歪んでいる。
「たった二日でも気が狂いそうだった。
君を守ると言った自分の方が守られて、情けなくて悔しくて、自分自身を殴り殺したくなった」
「……うん」
心細げに震えている征史さんの身体に触れると、怯えるようにびくんと小さく揺れた。
かまわずに私にしてくれるみたいにぎゅーっと抱きしめる。
「もう二度と愛乃を手放さない。
今度こそ絶対に、君を守ってみせる」
「……ありがとう、まさくん」
嬉しそうに笑う征史さんの目尻から、きれいな涙が転がり落ちていく。
今度私が、その涙を指で拭った。
「……この傷、残るそうだな」
「あ、……うん」
征史さんが手が、頬に貼ってあるガーゼの上から傷を撫でる。
「女の顔に残るような傷を作ってしまってすまない」
征史さんは詫びてくれるけれど、これは自分自身で作った傷だ。
征史さんに責任はない。
「まさくんが悪いんではないので」
気にすることないよと笑うけれど、征史さんの顔はちっとも晴れない。
「いや、俺の責任だ。
俺が愛乃を守れなかったから……」
征史さんがまた、落ち込んでいく。
そんなに私を守れなかったのを気に病んでいるのだと、私もつらくなってくる。
「もう!
私が気にしてないんだから気にしないでください!
それよりお腹が空きました。
またカツ丼、食べたいです」
努めて明るく笑って振る舞う。
「リクエストは嬉しいが、もうカツのストックがないんだよなー。
疲れている愛乃を食べに連れ出すもあれだし、出前を取るか!」
ようやく征史さんも笑ってくれて、あれこれと思案しだした。
それを見ながら、傷を作ってしまったのを後悔した。
あのときはいっぱいいっぱいで仕方なかったのかもしれない。
でもちょっと気をつければ征史さんをこんなに苦しめたりしなかった。
自分のやったことに後悔しないと決めたが、これだけは後悔だ。
出前で取ったカツ丼を食べて、お風呂に入る。
今日は疲れているだろうからって、早めにベッド。
「おやすみ、愛乃」
「おやすみなさい、まさくん」
ちゅっと軽くキスしたものの、征史さんはまだじっと私を見ている。
「……まさくん?」
「もっとキスしていいか?
嫌ならやめる」
「……うん」
その意味がわかり躊躇いがちに頷くと、余裕なく征史さんの唇が重なった。
まるで私の存在を確認するかのように貪られ、いつの間にか私を上から征史さんが見ている。
「まさくん。
……あのね?」
「なに?」
また唇を重ねようとした征史さんの動きが止まる。
「その、まさくんは私の最初で最後の男になれるのが嬉しいって言ってくれたけど。
でも、その……」
鼻の奥がじーんと痛くなって、言葉が詰まる。
「そんなことを気にしているのか。
少しくらいなんかあっても、俺が最初で最後なのは変わらない」
「……はい」
「それに……俺は愛乃が最後の女だって決めていたから」
愛おしい、そんな顔で征史さんが私の頬を撫で、出てきそうになった涙を拭って笑う。
征史さんも笑ってくれてまた唇が重なった。
私の最初の人は征史さん。
最後の人も征史さん。
これだけは絶対に、変わらない。
ああそうか、征史さんの仕事が終わるのを待っていて、そのまま寝ちゃったんだ。
「……ん」
「目、覚めたか」
私を抱きかかえたまま、征史さんがちゅっと口づけを落としてくる。
「ここ……」
「俺のマンション」
器用に片手でドアを開け、中に入っていく。
リビングで私を、ソファーに下ろした。
「このまま寝るか、それともなんか食うか」
ゆっくりと征史さんの手が私の髪を撫でる。
その愛おしそうな顔に、もしかして私は夢でも見ているんじゃないかと不安になってくる。
「……まさくん」
「ん?」
求めるように手を広げると、征史さんの方からぎゅっと抱きしめてくれた。
「まさくん、まさくん、まさくん」
「どうした?
俺はここにいるぞ」
あやすように私の髪を撫でる征史さんの手は優しくて、ますます現実感が遠のいていく。
「私まだ、夢を見ているわけじゃないんですよね?
これ、現実なんですよね?」
「夢じゃない、現実だ。
もし夢だったとしたら……もう二度と、目覚めないでいい」
「……まさくん?」
私の顔を両手で挟み、親指で涙を拭う征史さんの目は、泣きだしそうに歪んでいる。
「たった二日でも気が狂いそうだった。
君を守ると言った自分の方が守られて、情けなくて悔しくて、自分自身を殴り殺したくなった」
「……うん」
心細げに震えている征史さんの身体に触れると、怯えるようにびくんと小さく揺れた。
かまわずに私にしてくれるみたいにぎゅーっと抱きしめる。
「もう二度と愛乃を手放さない。
今度こそ絶対に、君を守ってみせる」
「……ありがとう、まさくん」
嬉しそうに笑う征史さんの目尻から、きれいな涙が転がり落ちていく。
今度私が、その涙を指で拭った。
「……この傷、残るそうだな」
「あ、……うん」
征史さんが手が、頬に貼ってあるガーゼの上から傷を撫でる。
「女の顔に残るような傷を作ってしまってすまない」
征史さんは詫びてくれるけれど、これは自分自身で作った傷だ。
征史さんに責任はない。
「まさくんが悪いんではないので」
気にすることないよと笑うけれど、征史さんの顔はちっとも晴れない。
「いや、俺の責任だ。
俺が愛乃を守れなかったから……」
征史さんがまた、落ち込んでいく。
そんなに私を守れなかったのを気に病んでいるのだと、私もつらくなってくる。
「もう!
私が気にしてないんだから気にしないでください!
それよりお腹が空きました。
またカツ丼、食べたいです」
努めて明るく笑って振る舞う。
「リクエストは嬉しいが、もうカツのストックがないんだよなー。
疲れている愛乃を食べに連れ出すもあれだし、出前を取るか!」
ようやく征史さんも笑ってくれて、あれこれと思案しだした。
それを見ながら、傷を作ってしまったのを後悔した。
あのときはいっぱいいっぱいで仕方なかったのかもしれない。
でもちょっと気をつければ征史さんをこんなに苦しめたりしなかった。
自分のやったことに後悔しないと決めたが、これだけは後悔だ。
出前で取ったカツ丼を食べて、お風呂に入る。
今日は疲れているだろうからって、早めにベッド。
「おやすみ、愛乃」
「おやすみなさい、まさくん」
ちゅっと軽くキスしたものの、征史さんはまだじっと私を見ている。
「……まさくん?」
「もっとキスしていいか?
嫌ならやめる」
「……うん」
その意味がわかり躊躇いがちに頷くと、余裕なく征史さんの唇が重なった。
まるで私の存在を確認するかのように貪られ、いつの間にか私を上から征史さんが見ている。
「まさくん。
……あのね?」
「なに?」
また唇を重ねようとした征史さんの動きが止まる。
「その、まさくんは私の最初で最後の男になれるのが嬉しいって言ってくれたけど。
でも、その……」
鼻の奥がじーんと痛くなって、言葉が詰まる。
「そんなことを気にしているのか。
少しくらいなんかあっても、俺が最初で最後なのは変わらない」
「……はい」
「それに……俺は愛乃が最後の女だって決めていたから」
愛おしい、そんな顔で征史さんが私の頬を撫で、出てきそうになった涙を拭って笑う。
征史さんも笑ってくれてまた唇が重なった。
私の最初の人は征史さん。
最後の人も征史さん。
これだけは絶対に、変わらない。
0
お気に入りに追加
134
あなたにおすすめの小説
お見合い代行のお相手は、我が社のハイスペCEOでした。
濘-NEI-
恋愛
旧題:口止め料で七変化!〈お断り前提で挑んだお見合い代行のお相手は、我が社のハイスペCEOでした〉
“幼い頃から女優に憧れてきたけれど、大根役者の私の夢が叶う日なんて来ないのはもう分かってる。“
ブライダル関連企業で契約社員として勤務する沙矢には、自分の楽しさとやりがいのための『副業』がある。
《人材レンタルサービス》を通じて、どこにでも居る誰かを「演じて」芝居を続ける道を選んだ沙矢だったが、マズいことになった。
お断り前提で、お見合い代行を頼まれた沙矢の前に現れたのは、なんと沙矢が勤める会社のCEOである梶峰だった!?
20230208
追記:梶峰さん(ヒーロー)視点は★をつけます。
おじさんは予防線にはなりません
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「俺はただの……ただのおじさんだ」
それは、私を完全に拒絶する言葉でした――。
4月から私が派遣された職場はとてもキラキラしたところだったけれど。
女性ばかりでギスギスしていて、上司は影が薄くて頼りにならない。
「おじさんでよかったら、いつでも相談に乗るから」
そう声をかけてくれたおじさんは唯一、頼れそうでした。
でもまさか、この人を好きになるなんて思ってもなかった。
さらにおじさんは、私の気持ちを知って遠ざける。
だから私は、私に好意を持ってくれている宗正さんと偽装恋愛することにした。
……おじさんに、前と同じように笑いかけてほしくて。
羽坂詩乃
24歳、派遣社員
地味で堅実
真面目
一生懸命で応援してあげたくなる感じ
×
池松和佳
38歳、アパレル総合商社レディースファッション部係長
気配り上手でLF部の良心
怒ると怖い
黒ラブ系眼鏡男子
ただし、既婚
×
宗正大河
28歳、アパレル総合商社LF部主任
可愛いのは実は計算?
でももしかして根は真面目?
ミニチュアダックス系男子
選ぶのはもちろん大河?
それとも禁断の恋に手を出すの……?
******
表紙
巴世里様
Twitter@parsley0129
******
毎日20:10更新
誘惑の延長線上、君を囲う。
桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には
"恋"も"愛"も存在しない。
高校の同級生が上司となって
私の前に現れただけの話。
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
Иatural+ 企画開発部部長
日下部 郁弥(30)
×
転職したてのエリアマネージャー
佐藤 琴葉(30)
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の
貴方を見つけて…
高校時代の面影がない私は…
弱っていそうな貴方を誘惑した。
:
:
♡o。+..:*
:
「本当は大好きだった……」
───そんな気持ちを隠したままに
欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。
【誘惑の延長線上、君を囲う。】
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
恋とキスは背伸びして
葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員
成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長
年齢差 9歳
身長差 22㎝
役職 雲泥の差
この違い、恋愛には大きな壁?
そして同期の卓の存在
異性の親友は成立する?
数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの
二人の恋の物語
地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!
めーぷる
恋愛
見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。
秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。
呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――
地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。
ちょっとだけ三角関係もあるかも?
・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。
・毎日11時に投稿予定です。
・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。
・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。
○と□~丸い課長と四角い私~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
佐々鳴海。
会社員。
職場の上司、蔵田課長とは犬猿の仲。
水と油。
まあ、そんな感じ。
けれどそんな私たちには秘密があるのです……。
******
6話完結。
毎日21時更新。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる