上 下
36 / 36
最終章 あなたより先に死なない

8-2

しおりを挟む
その後。
典子さんの旦那さんが浮気をしており、しかもその女性に貢ぐために会社のお金まで使い込んでいたのが発覚。
マスコミ報道されるほどの夫婦喧嘩へと発展した。

さらに当然ながら祖父からも私の件で烈火のごとくお叱りを受けており、半ば一族から追い出された。
宣利さんは〝ちょっとくらいの嫌がらせ〟と言っていたが、これがちょっと?
でも、本当にやろうとしていたことからしたら、ちょっとなのかもしれない……。



不運に見舞われた結婚式から、二年が経った。
子供――琳汰朗りんたろうはかなりの早産だったのでその後の発育が心配だったが、問題なく大きくなり無事に二歳になる。
尽力くださったドクターや看護師さんたちには頭が下がる思いだ。
しかし、どうしても子供の名前に私の字を入れたかったって、宣利さんの愛が重い。
でも、好きなんだけれど。

「かーりん」

準備を済ませたところで宣利さんが控え室に顔を出す。

「琳汰朗は?」

「お義母さんが面倒見てくれてる。
みんなに可愛い、可愛い言われて得意満面になってたよ」

「あの子は……」

私の口からため息が落ちていく。
琳汰朗はロボットなんて呼ばれていた宣利さんの子供かと疑いたくなるほど、周囲に愛嬌を振りまく。
おかげでその愛くるしい顔立ちもあって、天使かと大人気だ。
でも、それが本来の宣利さんだったんじゃないかと思うんだよね。

琳汰朗の育児に宣利さんの祖父母と両親には口を挟ませていない。
祖父は大事な跡取りだと早速英才教育をしようとしてきたが、宣利さんがシャットダウンした。

『琳汰朗は僕たちの子供ですが、跡取りではありません。
未来は自由に選ばせる。
後を継ぎたいといえば継がせますが』

初節句の日、うるさい祖父にきっぱりとそう言い切った宣利さんは格好よくて、惚れ直した。

「今日のドレスも綺麗だね。
また、求婚していい?」

ちゅっと宣利さんが唇を重ねてくる。
今度は時間がたっぷりあるから、ドレスはフルオーダーした。
形は前回と同じスリムAラインだが、スカート部分にオーガンジーを重ねバックのリボンがティアードスカートのような雰囲気になっている。
大人っぽさの中にも甘さがあり、お気に入りだ。

「何度求婚するつもりなんですか?」

おかしくてつい、笑ってしまう。

「んー、何度でも?
僕と結婚してくれてありがとう」

ちゅっとまた、唇が重なる。
結婚して何年経とうと、宣利さんの甘さは変わらない。

時間になり、父と一緒に中庭に出る。
秋薔薇が咲き乱れ、私たちを祝福するかのように空は澄み渡っている。
今日はあの日のやり直し結婚式だ。

父に腕を取られ、敷かれている赤絨毯の上を進んでいく。
その先では琳汰朗を抱いた宣利さんが待っていた。

今日も神父に扮したスタッフの前にふたりプラスひとり並び、式が始まる。

「倉森花琳を妻とし、永遠に愛することを誓いますか」

「はい、誓います」

宣利さんの声はあの日と同じ……さらに強い決意で溢れている。

「倉森宣利を夫とし、永遠に愛することを誓いますか」

「はい、誓います」

私を深く、深く愛してくれている宣利さんを、私も愛する。
この気持ちは死ぬまで、変わらない。

「では、誓いのキスを」

タイミングを計り、スタッフが合図を出してくる。

「うわーっ!」

唇を重ねた瞬間、歓声が上がった。
今回も成功のようだ。
唇が離れ、子供と三人そろって空を見上げる。
そこにはあの日と同じで、ブルーインパルスの軌跡がハートを矢で貫いていた。
琳汰朗は大喜びで手を叩いている。

「なあ。
二人目、欲しくないか」

空を見上げたまま、宣利さんがぽつりと呟く。

「いいですね」

そっと、彼の手を取って掴む。
繋いだ手が、幸せそうに揺れた。


【終】
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(4件)

ひつじ
2024.05.24 ひつじ
ネタバレ含む
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
2024.05.24 霧内杳/眼鏡のさきっぽ

感想ありがとうございます。
あの人はもう、あれなので……。

解除
HIRO
2024.05.23 HIRO
ネタバレ含む
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
2024.05.24 霧内杳/眼鏡のさきっぽ

あの人はもう、救いようがないので……。

解除
HIRO
2024.05.23 HIRO

義姉、妊娠の経験無いですよね?
妊娠の経験が無いから、妊娠は病気じゃないとかいっちゃう無神経なタイプですかね?

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
2024.05.23 霧内杳/眼鏡のさきっぽ

感想ありがとうございます。
経験がないから……というよりも、経験があっても無神経なことを言うタイプですね。

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

(完結)戦死したはずの愛しい婚約者が妻子を連れて戻って来ました。

青空一夏
恋愛
私は侯爵家の嫡男と婚約していた。でもこれは私が望んだことではなく、彼の方からの猛アタックだった。それでも私は彼と一緒にいるうちに彼を深く愛するようになった。 彼は戦地に赴きそこで戦死の通知が届き・・・・・・ これは死んだはずの婚約者が妻子を連れて戻って来たというお話。記憶喪失もの。ざまぁ、異世界中世ヨーロッパ風、ところどころ現代的表現ありのゆるふわ設定物語です。 おそらく5話程度のショートショートになる予定です。→すみません、短編に変更。5話で終われなさそうです。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

【完結】お荷物王女は婚約解消を願う

miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。 それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。 アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。 今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。 だが、彼女はある日聞いてしまう。 「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。 ───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。 それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。 そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。 ※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。 ※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

【完結】夫は王太子妃の愛人

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵家長女であるローゼミリアは、侯爵家を継ぐはずだったのに、女ったらしの幼馴染みの公爵から求婚され、急遽結婚することになった。 しかし、持参金不要、式まで1ヶ月。 これは愛人多数?など訳ありの結婚に違いないと悟る。 案の定、初夜すら屋敷に戻らず、 3ヶ月以上も放置されーー。 そんな時に、驚きの手紙が届いた。 ーー公爵は、王太子妃と毎日ベッドを共にしている、と。 ローゼは、王宮に乗り込むのだがそこで驚きの光景を目撃してしまいーー。 *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。 花婿が花嫁のベールを上げるまでは。 ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。 「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。 そして花嫁の父に向かって怒鳴った。 「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは! この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。 そこから始まる物語。 作者独自の世界観です。 短編予定。 のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。 話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。 楽しんでいただけると嬉しいです。 ※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。 ※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です! ※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。 ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。 今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、 ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。 よろしくお願いします。 ※9/27 番外編を公開させていただきました。 ※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。 ※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。 ※10/25 完結しました。 ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。 たくさんの方から感想をいただきました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。