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第五章 花火大会
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「ん……」
寝返りを打とうとしたが、身動きが取れない。
「なに……」
目を開けたらすぐ傍に、宣利さんの顔があった。
……えっ!?
おかげで、いっぺんに目が覚める。
身動きが取れないとは思ったが、がっちがちに彼の手足が絡まっていた。
……いやいやいや。
これはどういう状況だ?
動きたいが気持ちよさそうに眠っている彼を起こすのも忍びない。
仕方なく、じっとした。
……てか、眼鏡かけてない顔、初めて見るな……。
もう夕方だというのに、髭が伸びている気配がない。
お肌も羨ましいくらいつるつるだ。
睫は存外長く、ビューラーでも使ったみたいに綺麗にカールしている。
……ほんと、綺麗な顔してるよね。
嫉妬しちゃうよ。
鼻でも摘まんでやりたいが、がっちりホールドされていて無理だった。
「んん……」
そのうち、宣利さんが小さく身動ぎをした。
そのままゆっくりと、瞼が開く。
「おはようございます」
「……おはよう」
目のあった彼がふわっと笑う。
空気に溶けてしまいそうなそれは酷く幸せそうで、私の心まで幸福感で満たされる。
「この状況を少し、説明してもらえると……」
「ん?」
起き上がった彼は、近くに置いてあった眼鏡を手に取ってかけた。
「花琳の寝顔を見てたら僕も眠くなってきちゃって、一緒に寝たんだけど……。
悪かった?」
少し、心配そうに彼が眼鏡の奥からうかがってくる。
そんな情けない顔しないでよ!
ダメって言えなくなっちゃうじゃない。
「……ダメじゃないですけど」
「よかった」
私の返事を聞き、彼の右の口端が僅かに持ち上がる、途端にカッと頬が熱を持った。
あれ、演技だったんだ!
ほんとに意地悪なんだから。
……でも。
宣利さんに抱き締められていたのは、それだけ愛されているみたいで嬉しかったのも事実だ。
「夕食はルームサービスを取ろうと思ってるけど、どうかな?」
「ルームサービス……?」
別にわざわざそんなもの取らなくても、ホテルに入っているレストランで摂ればいいのでは……?
「ここで夕食を摂りながら花火を見るのもいいだろ?」
思わず、うんうんと頷いていた。
なんで宣利さんってこんなに素敵なことばかり思いつくのだろう?
それでも少し早めの時間にルームサービスを頼む。
やっぱり花火は暗くした部屋で見たい。
「花琳。
姉さんの嫁教育、お疲れ様」
「ありがとうございます」
ノンアルコールのカクテルで乾杯。
泊まりなんだから宣利さんは飲めばいいのに、ひとりだけ飲んでもつまらないと私に付き合ってくれた。
「ほんとにごめんね、花琳をあんな目に遭わせて」
本当に嫌そうに、彼の眉間に深い皺が刻まれる。
「もし、流産していたらどうするつもりだったんだろうね」
「そう……ですね」
つい、ナイフとフォークを置いて自分のお腹を見ていた。
そうなっていたらと考えると、怖い。
子供の命を失うのはもちろん、……この子がいなくなったら?
そのときはこの婚姻関係も終わるんだろうか。
そう考えると怖くて怖くて堪らない。
「宣利さんは……」
そこまで言って、止まる。
子供ができなかったら復縁しなかったのかなんて、聞けない。
そんなの、当たり前じゃないか。
「花琳?」
私が言い淀み、彼は怪訝そうだ。
「宣利さんは子供、好きですか?」
笑って、話題を変える。
「んー、正直言って苦手なんだが……」
それは以前の彼ならば意外でもなんでもない答えだった。
「子供が生まれると思ったら、急に可愛く見えてきたんだよな。
他人の子でもそうなんだから、不思議だよ」
盛んに彼は首を捻っているが、それって父性が芽生えてきたってことじゃないのかな。
「だから、目一杯可愛がると思う。
少なくとも僕みたいには育てたくない、かな」
笑う宣利さんは少し淋しそうだった。
その顔を見て、胸がつきんと痛む。
前も言っていたがこの人はきっと、淋しい子供時代を送ってきたんだろうな。
それを、私が少しでも癒やしてあげられたらいいのに。
「いっぱい甘やかせて可愛がりましょう!
淋しい思いなんて私が絶対、させません!」
「そうだな」
泣き出しそうに彼が笑う。
こんな顔、もうさせたくない。
私が絶対に宣利さんを幸せにするんだ。
彼からしたら迷惑かもしれないけれど。
「あ、でも、ただ甘やかせるのはダメですよ。
いけないことはちゃんと叱らないと」
「そうだな、いい反面教師がいるしな」
同じ人を思い浮かべているのか、宣利さんはおかしそうだ。
うん、典子さんのようにだけは絶対にしてはいけない。
極端なんだよね、ここの姉弟。
姉は我が儘放題だし、宣利さんは生命の危機を感じるほどストイックだし。
寝返りを打とうとしたが、身動きが取れない。
「なに……」
目を開けたらすぐ傍に、宣利さんの顔があった。
……えっ!?
おかげで、いっぺんに目が覚める。
身動きが取れないとは思ったが、がっちがちに彼の手足が絡まっていた。
……いやいやいや。
これはどういう状況だ?
動きたいが気持ちよさそうに眠っている彼を起こすのも忍びない。
仕方なく、じっとした。
……てか、眼鏡かけてない顔、初めて見るな……。
もう夕方だというのに、髭が伸びている気配がない。
お肌も羨ましいくらいつるつるだ。
睫は存外長く、ビューラーでも使ったみたいに綺麗にカールしている。
……ほんと、綺麗な顔してるよね。
嫉妬しちゃうよ。
鼻でも摘まんでやりたいが、がっちりホールドされていて無理だった。
「んん……」
そのうち、宣利さんが小さく身動ぎをした。
そのままゆっくりと、瞼が開く。
「おはようございます」
「……おはよう」
目のあった彼がふわっと笑う。
空気に溶けてしまいそうなそれは酷く幸せそうで、私の心まで幸福感で満たされる。
「この状況を少し、説明してもらえると……」
「ん?」
起き上がった彼は、近くに置いてあった眼鏡を手に取ってかけた。
「花琳の寝顔を見てたら僕も眠くなってきちゃって、一緒に寝たんだけど……。
悪かった?」
少し、心配そうに彼が眼鏡の奥からうかがってくる。
そんな情けない顔しないでよ!
ダメって言えなくなっちゃうじゃない。
「……ダメじゃないですけど」
「よかった」
私の返事を聞き、彼の右の口端が僅かに持ち上がる、途端にカッと頬が熱を持った。
あれ、演技だったんだ!
ほんとに意地悪なんだから。
……でも。
宣利さんに抱き締められていたのは、それだけ愛されているみたいで嬉しかったのも事実だ。
「夕食はルームサービスを取ろうと思ってるけど、どうかな?」
「ルームサービス……?」
別にわざわざそんなもの取らなくても、ホテルに入っているレストランで摂ればいいのでは……?
「ここで夕食を摂りながら花火を見るのもいいだろ?」
思わず、うんうんと頷いていた。
なんで宣利さんってこんなに素敵なことばかり思いつくのだろう?
それでも少し早めの時間にルームサービスを頼む。
やっぱり花火は暗くした部屋で見たい。
「花琳。
姉さんの嫁教育、お疲れ様」
「ありがとうございます」
ノンアルコールのカクテルで乾杯。
泊まりなんだから宣利さんは飲めばいいのに、ひとりだけ飲んでもつまらないと私に付き合ってくれた。
「ほんとにごめんね、花琳をあんな目に遭わせて」
本当に嫌そうに、彼の眉間に深い皺が刻まれる。
「もし、流産していたらどうするつもりだったんだろうね」
「そう……ですね」
つい、ナイフとフォークを置いて自分のお腹を見ていた。
そうなっていたらと考えると、怖い。
子供の命を失うのはもちろん、……この子がいなくなったら?
そのときはこの婚姻関係も終わるんだろうか。
そう考えると怖くて怖くて堪らない。
「宣利さんは……」
そこまで言って、止まる。
子供ができなかったら復縁しなかったのかなんて、聞けない。
そんなの、当たり前じゃないか。
「花琳?」
私が言い淀み、彼は怪訝そうだ。
「宣利さんは子供、好きですか?」
笑って、話題を変える。
「んー、正直言って苦手なんだが……」
それは以前の彼ならば意外でもなんでもない答えだった。
「子供が生まれると思ったら、急に可愛く見えてきたんだよな。
他人の子でもそうなんだから、不思議だよ」
盛んに彼は首を捻っているが、それって父性が芽生えてきたってことじゃないのかな。
「だから、目一杯可愛がると思う。
少なくとも僕みたいには育てたくない、かな」
笑う宣利さんは少し淋しそうだった。
その顔を見て、胸がつきんと痛む。
前も言っていたがこの人はきっと、淋しい子供時代を送ってきたんだろうな。
それを、私が少しでも癒やしてあげられたらいいのに。
「いっぱい甘やかせて可愛がりましょう!
淋しい思いなんて私が絶対、させません!」
「そうだな」
泣き出しそうに彼が笑う。
こんな顔、もうさせたくない。
私が絶対に宣利さんを幸せにするんだ。
彼からしたら迷惑かもしれないけれど。
「あ、でも、ただ甘やかせるのはダメですよ。
いけないことはちゃんと叱らないと」
「そうだな、いい反面教師がいるしな」
同じ人を思い浮かべているのか、宣利さんはおかしそうだ。
うん、典子さんのようにだけは絶対にしてはいけない。
極端なんだよね、ここの姉弟。
姉は我が儘放題だし、宣利さんは生命の危機を感じるほどストイックだし。
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