年下の部下がぐいぐい押してくるんだけど!?

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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4.我慢……しなくていいよ

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気がついたらベッドの上だった。

「あれ……ここ、どこだ……?」

ぼーっとまわりを見渡して、いわゆるラブホテルだって気付き、頬に熱が上がってくる。

というか、なんでこんなところにいるんだろ?

「あ、目、覚めましたか?」

声のした方を見たら、大宮が床に座って携帯をいじっていた。

「水、飲みます?」

「……ああ」

渡されたペットボトルを受け取ると、大宮がベッドに手をついた。

ぎしっ、ベッドが揺れるだけでも身体がぴくりと反応してしまうのに、そのまま隣に座ってくる。

大宮の重さの分だけベッドが沈み、それだけでどきどきと速く鼓動し始めた心臓を落ち着けようと、ペットボトルをゆっくりと傾けた。

「柏原課長、よっぽど気、張ってたんでしょうね。
酔っぱらって寝ちゃって。
家、知らないから遅れないし、俺んち、ここから少し遠いし。
悪いとは思ったんですが、仕方なく」

「あ、ああ。
気、使わせて悪かったな。
……じゃ、じゃあ、帰ろうか」

「もう終電、終わってますよ」

そっと手を重ねられただけで肩が跳ねる。
なのにその手は指を絡めて握ってきた。

「……留美るみ

耳にかかる吐息に、ぞわぞわとした感覚が身体中に広がる。

それは決して、不快ではなくて。

ゆっくりと近づいてきた顔に、間抜けにも眼鏡かけたままキスなんてできるんだろうか、とか考えながら見つめていた。

それに気がついたのか、大宮は唇がふれる寸前で顔を離した。

「留美、目、閉じて」

 
苦笑いをして、繋いでいない方の手で優しくあたまにふれ、瞼に口付けを落としてくる。

目を閉じると今度は……唇に柔らかい感触。

ただ、それだけなのに包まれる幸福感。

……恋ってこんなに幸せなんだ。

初めて知る、幸せ。

「もっとキスさせて」

そっとふれる手に自分から頬を寄せる。

再び重なる唇。

何度も何度もふれるだけでおかしくなりそう、なのに。

そっと口腔なかにぬめったそれが入ってくる。

どうしていいのかわからなくてされるがままになりながらも、次第に自分の口から漏れ出すのは熱を帯びた甘い吐息。

ジンジンと痺れるあたまに支配されていく。

繋いでいた大宮の手は離れ、両手で私のあたまを掴んで髪を乱す。

堕ちていくのが怖くて私は、両手をその首に回してしがみついた。

「……やっぱり、無理」

唇が離れて、そう漏らした大宮に悲しくなった。

……やっぱり、この年で処女とか、重すぎる?

「ああ、そんな顔しないでください!!
そういう意味じゃなくて、その」

そっと私の手を取り、大宮は自分自身のそこにふれさせた。

ふれた瞬間、びくりと私が身体を震わせ、大宮はふっと優しく瞳を細めてそっとおでこに口付けしてくる。

怖々再びふれると、そこは……スラックスの上からでもわかるほど、きつそうに張りつめていた。

「わかりますか?
留美があんまり可愛いから、こんなになっちゃったんです。
ほんとは時間をおいて、ゆっくりするつもりだったんですが……。
もう我慢できない、っていうか。
あ、でも、留美に無理させられないですし、やっぱり我慢します」

困ったように笑う大宮に心臓がぎゅーっと締め付けられる。

……だから。

「……いいよ」

「はい?」

「……いいよ。
そのかわり、優しくして、ね」

熱い顔で、おずおずと上目遣いで見上げる。
目のあった大宮はなぜか真っ赤になった。

「ありがとうございます。
うんと優しく、しますね」

ゆっくりと押し倒され、再び唇が重なる。

そして私は――。



私はいま、困った問題に直面している。

困った……うん。
困った問題だ。

ちなみに、ついふた月前もやはり、人生最大じゃないかと思う問題に直面していたが、今回もやはり。

……ひと月ほど前に付き合い始めた、部下で十歳年下の伊織が私に求婚してくるのだ。

いや、求婚してくれるのは素直に嬉しい。

でも、付き合ってまだひと月なわけで。
しかも私からすれば初彼なわけで。
さらにいうなら相手は十も年下となると、それなりに問題もあるわけで。

「えー、関係ないですよ。
留美、思った以上に可愛いから俺、腕の中に閉じ込めておきたいんですもん。
でも、それ、無理だから。
せめて結婚して縛りたい」

にっこりと笑ってそんなことを言ってくる伊織にため息が漏れる。

「いや、だから……」

「それとも留美は俺のこと、嫌いですか?」

「……好き」

「なら問題ないですよね?」

ちゅっとキスされただけで、いまだにどきどきしてしまう私は結局、黙ってしまって。
伊織は勝手に、結婚の計画を練り始める。

……どうも私は、とんでもない部下に捕まってしまったようだ。





【終】
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