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しおりを挟む「なぜ、それを…?」
シャーロット・クレイドル。
店主が唐突に告げたその名に、彼女は言葉を失わずにはいられなかった。背の高い椅子からずり落ちそうになりながらも、彼女は店主から目を離せずにいる。
その隣では、ルーカスがいつの間にか座り直しており、呆れたような笑みを浮かべていた。
「あー…言っちゃうのなお前」
「言わない方が良かったか?」
「いや、どうせお前にはいつかバレると思ってたし。…ほら姫さん、ちゃんと座れ」
ルーカスは諦めたように肩をすくめる。今も固まっているロッテに手を貸して座り直らせると、彼は店主に向かって一つ注文をした。
「もう一回茶でも淹れてくれよ、ノア」
「了解」
"ノア"という耳慣れない呼び名にも、店主は平然と答えた。彼はそのままお茶の準備を始める。
彼の淹れる紅茶の匂い─今度はどうやらアールグレイのようだ─が漂い始めた頃、彼女はようやく声を出すことができた。
「…ルカ、これはどういうことだ」
「どういうことって?」
「そなたが言ったのではないのか?それしか有り得ない」
「俺は何も言ってねえよ。こいつがそういうことにちいと詳しいだけだ」
「今回に関しては詳しくなくても分かるけどな」
唐突に、上の方から不機嫌そうな声が響く。紅茶のカップを携えた店主だった。
「ったく、人使いの荒い…」と愚痴を零しながらも、彼は紅茶を淹れたカップを2人の前に並べていた。
「おう、サンキュ。そうだお前、せっかくだし自己紹介でもしとけば?『初めまして』なんだろ」
「…分かったよ」
店主はまた、初めて会った時とそっくりそのままの仕草で彼女に礼をした。
『初対面』との違いはせいぜい、その口元に不敵な笑みが浮かんでいることくらいだろうか。
「改めまして、初めてお目にかかります。私、情報屋のノアと申します」
「情報屋…?」
情報を集め、それを売り買いすることで報酬を得る情報屋。どうしても危険がつきまとうその仕事と、この店の主として調理と給仕をしてくれていた彼の姿を結びつけることは難しかった。
「…例えば、何を知っておる?」
「そうですねえ…こいつの秘密の文通相手とか」
「おい」
「公爵家の方々は全員紅茶派で、一番好まれるのはダージリンということとか」
彼女の家族がみんな紅茶好きなのは確かにそうだ。ダージリンが好きなのもその通り。
あと、文通相手の方はちょっと聞いてみたい、と彼女は思う。多分聞いてはいけないのだろうが。
「あとはそうですね…。…今後、公女様に弟君か妹君がお生まれになられること、とか?」
「なっ…!?」
公爵夫人の妊娠。安定期に入るまでは公表しないでおこうと決められていたそれを、彼はさらりと言い当ててみせた。
実は伯父が秘かに伝えているため、ルーカスと親しい彼が知っているのは決しておかしなことではなかったりする。だが、それを知らない彼女には驚愕だった。
唖然とするロッテに、「な、詳しいだろ?」と声がかけられる。隣で笑ったルーカスは、まるで自分の事のように誇らしげだった。
「こいつにこの店やらしてんのもその為さ。こいつの仕事は一級品だからな」
「そりゃ光栄ですね、ギルド長」
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