灰かぶり姫と月の魔法使い

星 佑紀

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第弐譚

0016:父(?)との再会

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「ふが……んむ?(口を塞がれて)フゴゴゴ‼」


「しー! 灰かぶり姫、静かに!(ヒソヒソ声)」



 皆さん、こんばんは? どうも、ツクヨミさんにお姫様抱っこをされた状態で、口を塞がれている灰かぶりです。


 ――何がどうなっているのですか⁉


 心の中で私は呟きました。……実は、マーズ殿下の話を聞いてからの記憶が一切無いのです。


 辺りは暗闇でここが何処かはわかりません。



「もうすぐ着くからそれまでじっとしててね!(ヒソヒソ声)」


「は、はい‼(小声)」



 頭にはてなマークを浮かべながら、私はツクヨミさんに運ばれていくのでした。



 ◇  ◇  ◇



 ツクヨミさんは、とある場所に到着すると、付近の壁をくまなく調べ始めました。



「……ここだ。(凝視)」



 ツクヨミさんは、ぽつりと呟くと、ある壁の一点に左手を添えて、囁くように言いました。



「……山は嵐、月に光、血は銀へ。」



 その途端、壁だったものから、人一人入れるくらいの穴がぽっかりと現れたのです!



「……入れ。」


 穴の奥から声がしました。おそらく、マーズ殿下の声だと思います。


 ツクヨミさんは、一つ頷き、私をギュッと強く抱きしめて、不思議な穴の中へと入って行くのでした。



 ◇  ◇  ◇



「……灰かぶり姫、もう大丈夫だよ。」



 かなり深い場所まで入ったところで、ツクヨミさんは私に言いました。



「……訳あってまだ降ろせないけれど、ここまできたらひと安心だ。」


「そ、そうですか。……ツクヨミさん、運んでくださってありがとうございます。」


「えへへ、どういたしまして。マーズ殿下とお師匠様が待ってるよー。」



 しばらくして、光が差している所を遠くから確認することができました。ツクヨミさんは、元々速い足取りをより一層早めます。



 そして私たちは、光が降り注ぐやや大きく開けた広場にたどり着いたのです。



「二人とも、無事であったか。」



 広場では、床に腰掛けたマーズ殿下が私たちのことを出迎えてくださいました。



「殿下、なんとかここまで辿り着くことができました。……サポートしてくださって、ありがとうございます。」


「気にするな、ツクヨミ。……それよりも、灰かぶり姫をこちらへ。」



 マーズ殿下は私に手招きをして、隣に横たわっている少女(?)へ目を向けました。



「灰かぶり姫、……今、殿下の横で眠っているお人が、僕達のお師匠様だよ。」



 私を地面に下ろしたツクヨミさんは、少女(?)の方へと促します。


 言われた通りに私は少女(?)の傍まで近寄って、膝を付き、彼女の顔を覗き込みました。



 その顔は――――。



 ――幼い頃、私の剣術の稽古をつけてくれていた、お兄ちゃんの顔そのものでした。



「お兄ちゃん⁉」



 私は、なんとか、目を覚ましてほしくて、お兄ちゃんの身体を揺すりまくります。……しかしお兄ちゃんは、一切反応を示さずびくともしません。


 美しい、まるで蝋人形のような、綺麗に整えられた顔でした。


 ――一筋の涙が私の左目から流れ落ちます。


 走馬灯のように、お兄ちゃんとの思い出が脳内で再生されました。


 ――私がお兄ちゃんだと思っていた人は、実の父でした。


 初めて知った真実と、この現実が衝撃的すぎて、今の私にはこの現状が受け止めきれません。


 ――私の心の中に、があらわれた瞬間でした。



「…………赦さない。私のお兄ちゃん、いや、父をこんな目に合わせたを、私は赦しません。」



 ツーーと頬をつたう涙を袖でぐしゃぐしゃに拭き、私は立ち上がりました。


 ――お兄ちゃん、いや……父は言っていた。



『ルナ、を恨むな。』


『……どうしてなの? お兄ちゃん?』


『人を恨んでも、あんまし良いこと無いからな。』



 幼い私の頭に手を乗せて、お兄ちゃんは遠くをボーっと眺めていました。



『理由は生きていれば、いずれ分かる。いいな、ルナ。人を恨むんじゃなくてだな、……。』



 ――『運命を恨め』


 ――私は、の思い通りになんか、絶対になりません。


 の想いを受け継いで、今すべきことを一生懸命努めるのです‼


 ――灰かぶり姫の心に、小さなほのおが点いた瞬間だった。――
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