灰かぶり姫と月の魔法使い

星 佑紀

文字の大きさ
上 下
10 / 31
第弐譚

0010:王子の初恋

しおりを挟む
「ど、どういうことなのか、説明していただけないでしょうか?」



 皆様、どうも、トルネード王国第一王子マーズ殿下からの衝撃発言に脳震盪をおこしている灰かぶりです。


 ――父(?)が仮死状態⁉


 ……私が考えている以上に、事態は深刻なのかもしれません。私は、マーズ殿下に事のあらましを問いかけてみました。



「……そうだな。順を追って説明したほうがいいかもしれない。」


「殿下、差し出がましいようですが、……殿下の幼少期から話されたほうが、灰かぶり姫も頭に入りやすいと思いますよ。」


「ツクヨミさん?」


「たぶん、灰かぶり姫の頭の中では、マーズ殿下とお師匠様との繋がりがよくわからないと思いますので。そうでしょ、灰かぶり姫?」


「は、はい。正直、謎ですね。」


「……わかった。一番最初から話そう。」



 殿下は一つ頷いてぽつりぽつりと昔話を話してくださいました。



「――私は一時期、アデル皇国の人質だったんだ。」






 【回想 side マーズ殿下 始】



 幼少の頃、私はトルネード王国とアデル皇国との取り決めで、一時期『』というかたちでアデル皇国に滞在した。しかし、留学とは名ばかりで、その待遇はまさに人質であり、長い間離宮へと幽閉されていたのだ。

 周りにいた大人達曰く、アデル皇国から採掘される貴重なと引き換えに、私は売られたらしい。


 ――用意された離宮の独居房は薄ら寒く、とても暗かったことを今でも覚えている。


 ひとり、朝から晩まで独居房から出ることもなく、一日一日が過ぎていく。


 会う人も限られた関係者だけで、息の詰まる日々だった。


 ――私はこの狭い世界で衰弱して、いずれあの世へいくのだろう。


 幼いながら、私は、自身の将来の無さを憂いていた。




 ――しかし、ある日を境に、私の退屈な生活は一変する。




 いつもと同じように起床すると、アデル皇国のとある戦闘部隊が、独居房の外で熱くてを繰り広げていたのだ!



ですか?」


「そう、それが私とエドワードとの出会いだ。」



 シルバーブロンドを首元で短く切り揃えた赤目のが外で大の大人達を薙ぎ倒していたのだ‼


 ――私は一瞬で恋に落ちた。


 どうにかして彼女と話がしたくて、私は独居房から脱出しようと試みたが、子供の力故にそれはできなかった。


 毎日毎日、彼女のバトルを見る。

 手が届きそうな距離にいるのに、届かない、存在をあらわせない状況に気が狂いそうになった。



「……これは、本当に父(?)の話なのですか?(ツクヨミに対して小声で)」


「長いけど聞いたげて!(小声)」



 ――そして、ある日、衝撃的な出来事が起こったのだ!


 彼女が放った大火が離宮に延焼して、私は煙を吸ってしまい、意識朦朧の状態となって、死を悟った。とても苦しかったのを覚えている。




 ガシッ‼


「大丈夫か⁉」



 息絶える寸前、彼女が私の肩を掴んで助けようとしてくれていた。



「……わ、私と、け、結婚してください。」



 ――やっと、言えた。もう、死んでも悔いはない。


 私は、『安らかに天国へ行けるな。』と心なしか喜んでいた。



「……生きろ、ばか‼」



 しかし、彼女は私を放っておいてはくれなかった。小さい体で私を担ぎ、離宮の外へと連れ出してくれたのだ!


 ――彼女も私のことが好きなのだと、そのとき、子どもながらに感じたのであった。



「…………?」


「聞いたげて!(小声)」



 それから、彼女が男で、子持ちの既婚者で、魔法使いだということを知った。勿論、プロポーズしたけど断られたよ。



「エドワード、私と結婚してください!」


「俺は男で既婚者だ! 一人娘もいるんだ! ふざけるな‼」


「……じゃあ僕を弟子にしてください!」



 父(トルネード王国の国王)に見つかるまで、エドワードに弟子として、たくさんしばかれた。何度も何度もエドワードにはプロポーズしたんだがな、エドワードの答えはいつも同じだったよ。エドワードを追いかけている途中で、ツクヨミにも出会った。今は仲の良い兄弟弟子だが、当初はエドワードを取られるんじゃないかって、いつもひやひやしていたな。

 ――まあ、これが私とエドワードの甘いエピソードだ。



 【回想 side マーズ殿下 終】






 ……ツッコミどころが満載なのですが、殿下の仰っていることは本心なのだと思います。

 とても恍惚とした表情で、目をギラギラさせて語られていましたので。

 殿下をここまでさせる父(?)とは、一体、何者なのでしょうか? 私は無性に、父(?)に会ってみたくなりました。



「そして、ここからが先日のとある大事件の話だ。」



 キリッと目つきを変え、殿下は口を開きます。



「エドワードが危険な状態に瀕したのには、全て私に責任がある――。」



 ――窓のない部屋に一筋の風が吹く‼――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家計を支える為宮殿に出仕した子爵令嬢は、憧れの麗人の侍女となる

星 佑紀
恋愛
【旧題】悪役令嬢の小説に憧れて宮殿に出仕した子爵令嬢は、公爵令嬢から溺愛される 生まれながらに貧乏な下級貴族の出である、リッツ子爵令嬢アデリア・リッツは、実家の生活費を稼ぐために、自ら宮殿へ出仕することを決意する。 彼女は、とある一冊の本を胸に、魔の巣窟であるマテリア帝国の宮殿へと一歩足を進めた。 「一生懸命働いてお給金をもらいつつ、憧れの公爵令嬢様のお顔を陰ながら拝見させていただきますわ‼︎(恍惚)」 彼女が胸に抱く本は、世界を股に掛ける小説作家クリンゲル・ホームズ氏 著書の『悪役令嬢は能無し婚約者に印籠を渡す』という大衆小説であり、なけなしのお金をはたいて購入した彼女の大切な宝物だった。 「あら、あの子は……。(ジト目)」 ……一心不乱に憧れを追いかけ回す彼女には、密かに舌舐めずりする公爵令嬢の重たい思いに気づく暇はなかったのであった。 ※大幅な加筆修正を行いました。(2023.08.19〜09.07) ※ 続編を連載中です。 ※本編より、自作小説『断罪裁判は蜜の味』の一部キャラクターが登場します。 ※続編より、自作小説『灰かぶり姫と月の魔法使い』の一部キャラクターが登場します。 ※尚、本作品と自作の他作品の世界は全て繋がっており、時系列もほぼほぼ一致しております。(多少のズレはあります。) ※アプリで閲覧される際は縦読み推奨です。 ※予告なく加筆修正致します。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

山小屋の男をたぶらかそうとした雪女は、三児の母となる

星 佑紀
恋愛
「……すみませんが、今晩ここに泊めてもらえないでしょうか?」 雪が降り積もるニホン帝国のとある山奥に、一人の女性が立っていた。 どうやら、彼女は山小屋を一軒ごとに回って、若い男性を誑かしている雪女らしい。 今夜も雪女は、ニヤニヤしながら凍てつく山小屋の扉を叩くのであった。 ――六年後―― 彼女は三児の母となって、山小屋から出られない状況に陥っていた!(汗) 「な、なんでなの~⁉」 「ユキちゃん、大好きだよ‼ ……勿論、逃げたりしないよね?(圧)」 「ひいいいい‼(ガクブル)」 これは、大好きな家族から逃げようとする雪女と、最愛の雪女を逃すつもりのない、とある男のお話。 ※関連作品 『断罪裁判は蜜の味』 『国外追放された魔法使いの不思議な館』 ※クロスオーバー作品になります。尚、本作品と自作の他作品の世界は全て繋がっており、時系列もほぼほぼ一致しております。(多少のズレはあります。) ※アプリで閲覧される際は縦読み推奨です。 ※予告なく加筆修正致します。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

腐女子な女兵士がボロボロな少女を助けたら…。

星 佑紀
恋愛
『班長、本日をもって、私エリン・マラスカスは除隊致します!』 トルネード王国のとあるカルスト台地にて、軍事演習に参加していた救護班所属兵士エリン・マラスカス(隠れ腐女子)は、とある草むらで横たわっている少女を発見する。エリンは、すぐさま上司に報告するが、上司は、既に被爆した少女がもう助からないと告げ、少女に対してサーベルを振り下ろす。サーベルで切られる寸前だった少女を庇って負傷したエリンは、除隊を申し出て、少女を背負って部隊から外れることになった。しかし、エリンが助けた少女は、指名手配されていた、とある王族のお方で……。 『皆に、エリンが腐女子ってこと黙っておいてあげるから、……わかるよね?(真顔)』 『な、なんでそうなるの〜⁉︎』 ※関連作品 『親友に裏切られて国外追放された悪役令嬢は、聖女になって返り咲く』

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

何故か地雷を踏んでしまうモブの受難

星 佑紀
恋愛
僕、ロイド・フォルセットには、とある悩みがある。それは――。 「れ、レイン様、おやめください‼」 「カリン、もう私は待てないのだ!」 「レイン様、……好き。(赤面)」 「カリン――!」 ――いつも、男女がイチャイチャしている場面に出くわしてしまうことだ。(困惑) ――世界を旅するモブの、色んな意味での冒険が、今始まる!―― 「いや、始まらなくていいから!(激おこ)」

処理中です...