灰かぶり姫と月の魔法使い

星 佑紀

文字の大きさ
上 下
4 / 31
第壱譚

0004:灰かぶりの父

しおりを挟む
「それで、一体どういうことなのか説明できますね、ツクヨミさん?(圧)」


「う、うん……。(汗)」



 どうも、魔法使いツクヨミさんを椅子の背もたれに縄でくくりつけている灰かぶりです。

 ツクヨミさんが言うには、隣国のお城で開催される舞踏会に私の父(?)が関係しているとのことですが、話が唐突すぎて全然ついていけてません。



「せ、説明の前に、灰かぶり姫、あのー、目隠しを外していただけないでしょうかー?(脂汗)」


「却下ですわ。……ツクヨミさんのを見ていると、まるで意識を乗っ取られているような、嫌な感じがしますので。」


「……御名答というか、なんというかー。さすが、お師匠様の娘さんだー。(大汗)」


「いいからさっさと洗いざらい話してください‼」


「うえーーん!(涙)」



 ツクヨミさんはぐずぐずなにかと理由をつけてはぐらかそうとしますが、刻一刻と時間は流れていくのです。もう日は暮れて、辺り一帯は真っ暗闇になりました。急がないといけません。

 ……ひとしきりぐずったツクヨミさんは決心がついたのでしょう。ぽつりぽつりと話し始めるのでした。



「……灰かぶり姫のお父さんは、僕の魔法のお師匠様で、この国……アデル皇国にある魔法省の偉大な魔法使いだったんだ。」


「ツクヨミさんと私の父(?)は、その魔法省で出会ったのですか?」


「そうだよ。……とても厳しい師匠でね、いつも練習サボって休んでいたらすぐに見つけられて、拳骨くらってたなー。いやー、思い出すと古傷が痛むねー。(遠い目)」


「それで、私の父(?)は今何処にいるのですか?」


「……隣国のお城さ。(汗)」


「隣国のお城? ど、どうしてアデルの魔法使いが、隣国のお城にいるのですか⁉」


「……ことの経緯を話すと少し長くなるんだけどいいかい?」


「……どうぞ。」



 ツクヨミさんは一つ頷いて口を開きました。



「僕達の国アデル皇国と隣国のトルネード王国は、数十年前から裏でバチバチに争っているんだ。」


「争う? そのようなこと、私、知りませんわ! ……だって、皇国新聞では、お互いの皇太子と王子が仲良く握手しているじゃないですか⁉」


「そう。世間ではアデル皇国とトルネード王国は仲が良いことになっている。貿易は盛んだし、人の行き交いも激しい。経済的には友好関係さ。……けれど、では、お互いの魔法使いが駆り出されて日夜バトルを繰り広げているんだ。(汗)」


「し、信じられませんわ……。」


「そうだと思う。こんなにも、表向きは平和なんだから。簡単には信じられないよね。」


「そ、それで、父(?)はどうなされたのですか?(不安)」


「……先日、とある事件で、僕達を助けようとして身体に大ダメージを受けたんだ。」



 ツクヨミさんは、声色をいっそう暗くしました。とても衝撃的なことだったのでしょう。



「本来なら、すぐにでもお師匠様をアデル皇国に連れて帰りたかったんだけれど、お師匠様から、『舞踏会が終わるまでは、トルネード王国にて待機だ‼』って言われちゃってさ……。(トホホ)」


「そ、そうだったのですか……。(汗)」


「お師匠様は、僕に言ったんだ。『ツクヨミ、お前に一生のお願いだ。一人娘のルナ・ロックを守ってくれ。』とね。」


「ロック? …………待ってください! 私の真名はルナですが、姓はロックではありませんよ⁉」


「いいや、君は正真正銘ロック家の人間だ。その証拠を今から見せてあげるよ。……僕の胸ポケットに小石が入っているから取り出してみてほしい。」



 私は、言われた通りにツクヨミさんの胸ポケットから小石を取り出しました。



「ありがとう。じゃあその小石を力強く握って、目を閉じて。」



 言われるがままに小石を両手で包み込み、目を閉じます。そして、手に力を込めると――。



 シャンシャンシャンシャンシャーン♪



 ――遠くから鈴の音が聞こえてきます。その鈴の音は、とても晴れやかで、心地のよい音色でした。……そして、目の裏に鮮やかな赤色が浮かび上がり、まるで溶けてしまいそうになって――――。



「……いいよ。目を開いて、鏡を見てご覧。」



 私はゆっくりと目を開き、壁掛けの薄汚れた鏡を覗き込みました。



「……えっ⁉ こ、これは誰ですか?」


「君だよ。……君の本来の姿さ。ロック家一族が受け継ぐ銀髪に鮮血の瞳。膨大な魔力。君は、……ロック家唯一の生き残りだ。」



 鏡の奥にはシルバーブロンドの髪の毛に、真っ赤な瞳を大きくした女性が立っています。



「……私の髪の毛はくすんだ灰色で、瞳も鳶色だった気がするのですが。」


「お師匠様が魔法で隠していたからね。……じゃあ、もう一度目を瞑って小石を握りしめて。」


「は、はい。(汗)」



 もう一度目を閉じて、両手に力を込めます。鈴の音は聞こえませんし、目の奥は明るくなりませんが、何かが変わった気がしました。



「……もういいよ。君の通常の姿に戻っているはずさ。」



 私はパチッと目を開けてまじまじと鏡を見ました。そこには元通りの自分がアホ面で覗き込んでいるのでした。



「その小石は君のものだから大切に持っていてほしい。お師匠様からの贈り物だよ。」


「は、はい。……ありがとうございます?」



 状況が突飛すぎて、頭が追いつきませんが、私はロック家(?)の人間で間違いないみたいです。

 私は、不思議な小石を落とさないよう、ワンピースのポケットにそーっと入れました。



「灰かぶり姫、……僕達の不手際でお師匠様が重体になった。……そして、君もお師匠様のような目にあうかもしれない。……君は、隣国の監視対象になっているのだから。」


「……何故、私なのですか?(脂汗)」


「……詳しいことは追々話そう。まずはここから脱出するんだ。」


「脱出⁉ それは一体――――。(汗)」


「……君が、父や継母様おかあさまと呼び義姉様おねえさまと慕う家族達は、……君をこのお屋敷に閉じ込めているからね。」



 ――衝撃的な事実が、灰かぶり姫の心を大きく揺らすのであった。――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家計を支える為宮殿に出仕した子爵令嬢は、憧れの麗人の侍女となる

星 佑紀
恋愛
【旧題】悪役令嬢の小説に憧れて宮殿に出仕した子爵令嬢は、公爵令嬢から溺愛される 生まれながらに貧乏な下級貴族の出である、リッツ子爵令嬢アデリア・リッツは、実家の生活費を稼ぐために、自ら宮殿へ出仕することを決意する。 彼女は、とある一冊の本を胸に、魔の巣窟であるマテリア帝国の宮殿へと一歩足を進めた。 「一生懸命働いてお給金をもらいつつ、憧れの公爵令嬢様のお顔を陰ながら拝見させていただきますわ‼︎(恍惚)」 彼女が胸に抱く本は、世界を股に掛ける小説作家クリンゲル・ホームズ氏 著書の『悪役令嬢は能無し婚約者に印籠を渡す』という大衆小説であり、なけなしのお金をはたいて購入した彼女の大切な宝物だった。 「あら、あの子は……。(ジト目)」 ……一心不乱に憧れを追いかけ回す彼女には、密かに舌舐めずりする公爵令嬢の重たい思いに気づく暇はなかったのであった。 ※大幅な加筆修正を行いました。(2023.08.19〜09.07) ※ 続編を連載中です。 ※本編より、自作小説『断罪裁判は蜜の味』の一部キャラクターが登場します。 ※続編より、自作小説『灰かぶり姫と月の魔法使い』の一部キャラクターが登場します。 ※尚、本作品と自作の他作品の世界は全て繋がっており、時系列もほぼほぼ一致しております。(多少のズレはあります。) ※アプリで閲覧される際は縦読み推奨です。 ※予告なく加筆修正致します。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

断罪裁判は蜜の味

星 佑紀
恋愛
「リリアナ嬢、もう、君にはついていけない。婚約は破棄だ‼︎」 「了解仕りましたわ♡」 私、リリアナ・ヘレンは、本日、婚約者であるロバート殿下から、断罪裁判を起こされる予定ですの。謎の男爵令嬢(ヒロイン)の出現によって、ロバート殿下及び殿下の取り巻き達は骨抜きな状態となり、王宮内の人間関係に亀裂が生じた結果なのです。 私は、この機会を今か今かと待っておりました。 婚約破棄されて国外追放されるために、私リリアナ・ヘレンは頑張って悪役令嬢を務め上げます! 「いや、逃がさないよ♪」 ーー本当の敵は味方にいることをリリアナ嬢は知らなかった……。 ※続編を連載することに致しました。 ※続編より、自作小説『灰かぶり姫と月の魔法使い』の一部キャラクターが登場します。 ※尚、本作品と自作の他作品の世界は全て繋がっており、時系列もほぼほぼ一致しております。(多少のズレはあります。) ※アプリで閲覧される際は縦読み推奨です。 ※予告なく加筆修正致します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

山小屋の男をたぶらかそうとした雪女は、三児の母となる

星 佑紀
恋愛
「……すみませんが、今晩ここに泊めてもらえないでしょうか?」 雪が降り積もるニホン帝国のとある山奥に、一人の女性が立っていた。 どうやら、彼女は山小屋を一軒ごとに回って、若い男性を誑かしている雪女らしい。 今夜も雪女は、ニヤニヤしながら凍てつく山小屋の扉を叩くのであった。 ――六年後―― 彼女は三児の母となって、山小屋から出られない状況に陥っていた!(汗) 「な、なんでなの~⁉」 「ユキちゃん、大好きだよ‼ ……勿論、逃げたりしないよね?(圧)」 「ひいいいい‼(ガクブル)」 これは、大好きな家族から逃げようとする雪女と、最愛の雪女を逃すつもりのない、とある男のお話。 ※関連作品 『断罪裁判は蜜の味』 『国外追放された魔法使いの不思議な館』 ※クロスオーバー作品になります。尚、本作品と自作の他作品の世界は全て繋がっており、時系列もほぼほぼ一致しております。(多少のズレはあります。) ※アプリで閲覧される際は縦読み推奨です。 ※予告なく加筆修正致します。

シチュボ(女性向け)

身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。 アドリブ、改変、なんでもOKです。 他人を害することだけはお止め下さい。 使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。 Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

腐女子な女兵士がボロボロな少女を助けたら…。

星 佑紀
恋愛
『班長、本日をもって、私エリン・マラスカスは除隊致します!』 トルネード王国のとあるカルスト台地にて、軍事演習に参加していた救護班所属兵士エリン・マラスカス(隠れ腐女子)は、とある草むらで横たわっている少女を発見する。エリンは、すぐさま上司に報告するが、上司は、既に被爆した少女がもう助からないと告げ、少女に対してサーベルを振り下ろす。サーベルで切られる寸前だった少女を庇って負傷したエリンは、除隊を申し出て、少女を背負って部隊から外れることになった。しかし、エリンが助けた少女は、指名手配されていた、とある王族のお方で……。 『皆に、エリンが腐女子ってこと黙っておいてあげるから、……わかるよね?(真顔)』 『な、なんでそうなるの〜⁉︎』 ※関連作品 『親友に裏切られて国外追放された悪役令嬢は、聖女になって返り咲く』

処理中です...