灰かぶり姫と月の魔法使い

星 佑紀

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第壱譚

0003:舞踏会に行こうよ!

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「じゃあ灰かぶり姫、本題に入ろうか!」



 皆様どうも、魔法使いツクヨミさんの言いなりになっている(?)灰かぶりです。

 グビグビと紅茶を飲み干して、ツクヨミさんは言いました。



「今日僕がここに来たのは、いつも頑張っている灰かぶり姫を隣国のお城にて開かれる舞踏会へ連れて行くためなんだ♪」


「謹んでお断り申し上げます。」


 ズザーーーー‼



 ツクヨミさんは何故か後ろにひっくりかえってしまいました。……んっ? 私、今おかしなことを言いましたっけ?

 不思議に思っていますと、当のツクヨミさんは脅威の腹筋を発揮して立ち上がり、私の目の前まで来てこう捲し立てました。



「な、なんでなのー? 普通さ、『キャアッ、魔法使い様、素敵! 最高! 大好き‼』ってならない? 『私を王子様のもとへ連れて行って♡』ってさー、なるじゃん? なるのよ、普通ならね! そういう感じでいこうよ‼ パーティー楽しいから、行っちゃおうよ! 行きたいよね? 僕と一緒に行ってくれるよね?」


「いやまったく、行きたいとは思いませんが。(真顔)」



 ツクヨミさんのおそらく目がある部分(髪の毛で覆われており見えません)に向かって、私はキッパリと応えました。すると、ツクヨミさんは大袈裟に頭を抱えて困りだしたのです。



「困った。これはかなり困ったぞー!(汗)」



 ……何やら私をお城へ連れて行かないといけないみたいですね。……しかし、世間のものさしで考えてみますと、それは立派な拉致ではないのでしょうか?


 丁寧にお断りして、帰ってもらいましょう。



「……ということなので、お引き取りくだ……。」


「まってまって、僕まだ帰らないよ! ……(小声で)しょうがない、かくなるうえは! (目に涙を溜めて)……エーン、エーン、お願い灰かぶり姫ー! 僕の為に舞踏会に参加してよー‼(大泣)」



 ツクヨミさんは、鼻水を私のお気に入りのワンピースに擦り付けながら、泣きついてきました。



「やめてください!(怒) ……どうして私なのですか?」


「うえーん、うえーん、……君が唯一の生き残りだからだよ。(ぴえん)」


「生き残り? それはどういうことですか?」


「……君のお父さんは、偉大なる魔法使いだった。」


「……? 何故、父の話が出てくるのです? 父は今単身赴任で家を留守にしていますが、……父に何かあったのですか⁉(汗)」


「……いや、君の考えているは、本当のお父さんではないんだ。」


 ピュウーーーー、ピュイーーン



 窓の無い部屋に、そよそよとした不思議な風が吹いています。

 ツクヨミさんの全身を包む漆黒のローブがパタパタとはためき、頭部を隠していたフードがめくれました。顔面を覆っていた髪の毛が左右に分かれ、朱色と蒼色の瞳があらわれます。



「君のお父さんを僕は助けたいんだ。」



 ――灰かぶり姫の、止まった時計じかんがゆっくりと動き始めた瞬間だった。――
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