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しおりを挟むそこまで言うと凍てつくような瞳を持つ彼は、大きなため息をひとつ吐いた。
「くだらん妄想を吐き出す者とはこれ以上話にならないな。
まるで異星人と話していた気分だ。
次の手を考えればいいだけのこと。
おい、行くぞ。」
「はい。お邪魔いたしました。」
もう早く帰りたいという気持ちが透けて見えるほどわかりやすく、ふたりは出て行った。
「あ、はは……。腰が抜けた……。」
"はらわたが煮えくりかえる"、その意味が初めて分かった。
臓腑の奥底で猛炎がぐらぐら煮える感覚。
けれども怒りが頂点が越して頭はキィン、と冷えていた。
だから思ったことそのまま口に出してしまった。
そういうのって言った後に我に返るのだ。
何かされるんじゃないかと最後のほうは怯えを携えて身構えた。
銀色の箱に逃げる体勢まで整えたほどだ。
「でも、伝わらなかったか……。」
あれだけの想いをぶつけても伝わらない。
もどかしいけれど、消化しなければ進めない。
あくまで僕が目を向けるのはリュカだけだから。
「って、こうしている場合じゃない!」
抜けた腰を気合で何とかして急いでトイレに向かう。
1時間も経っていないけれど、やっぱり不安な時間というものは長く感じるものだ。
コンコンコン
約束通り合図を送ればバンッと音をたたてりぃくんが飛び出して来た。
ほっぺには涙の痕があった。
不安で泣いていたんだと思う。
「りぃくん、不安にさせてごめんね……。」
「陽になにかあったらどうしようって……。ふっ、うぇぇぇん!」
ごめんね、ごめんね、と何度も頭を撫でながら謝った。
でもりぃくんがレイさんたちに探されなくてよかった……。と改めて思う。
りぃくんをだしに脅してくるかも、と考えたけれどさすがに権力者、そこまで浅はかではないようだ。
僕から離れないりぃくんを抱きしめてその日は眠った。
ずっともう大丈夫だよって言い続けたからか次の朝にはいつもの元気なりぃくんに戻っていた。
そして、ずっと待っていた約束の日。
「陽くん、いい?
緊張するときは人って三回書いて飲むんだよ!」
「はい!」
僕の手をしっかり握ってそうアドバイスしてくれる柚さんの手はびっちょりで、僕より緊張していた。
「柚は落ち着け。
陽は伝えたいことをしっかり伝えてこい。」
「はい!」
虎太朗さんはいつも通りだ。
「まぁ、リンゴジュースくらいは用意しておいてやる。」
「……木蓮さんがリンゴジュースすきでストックしているだけじゃないですか。」
「言うようになったじゃないか。」
「いででででっ。」
木蓮さんは僕の頭をそんなにも割りたいのかまたぐりぐりし、それを見た柚さんに鉄拳を食らっていた。
「陽!」
こちらに向けて手を伸ばしてくるりぃくんを抱き上げる。
「どうしたの?」
「陽がんばってね!
リュカのことをメロメロにして来てね!」
「ふふっメロメロなんてどこで覚えたの?」
「もっくんがおしえてくれた!」
「木蓮さんの言うことはあんまり本気にしちゃだめだよ。」
木蓮さんのぐりぐりは怖いからひそひそと教えてあげた。
「それでね、陽にがんばれるおまじない!」
ちゅぅっとりぃくんが僕のほっぺにかわいいキスをしてくれた。
え、なにそれ、かわいい。
「りぃくん、すき。」
「うん、知ってる。
陽はこれからリュカにだいすきを言いに行くんでしょ?
じかん、だいじょーぶ?」
いけない!
りぃくんにとっておきのおまじないをしてもらった僕は、皆に見送ってもらって-shiki-を出た。
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