僕の幸せ

朝比奈和花

文字の大きさ
上 下
87 / 101

86

しおりを挟む




昨日は疲れてそのまま眠ってしまって、柚さんのところにお世話になってしまい、木蓮さんが一度僕たちの家に寄ってくれてりぃくんを保育園に送ってからすぐ出勤した。


そして今日は病院に行く日……。
憂鬱だ。



「やっほー!陽くん元気元気ー?

いやぁ、いい天気だよね今日も!
外は暑くて参っちゃうけど!」

お昼になり-shiki-まで迎えに来てくれた伊南さんのその熱さに僕は参りそう……。



相変わらずな伊南さんだけれども病院に着いて医師という鎧をに纏えば途端に雰囲気が変わった。

明るいのは変わらないけれど僕が誰とも会わなくていいように配慮してくれて、病室で問診する目は真剣そのものだった。


「陽くん、前回発情期来たのいつごろだった?」

「……4月の中旬ごろだったと思います。」

「んー、じゃあもうすぐ3ヶ月か。

一度薬で発情期をぶつけてみようか。」

その提案に身体が少し震えてしまった。
発情期は怖かった。
理性というものも無くなって悪夢に苛まれるから。

「怖い?怖いよね……。

でもフェロモンを溜め込むと身体に負担がかかるんだ。

抑制剤ってね、発情を抑える薬じゃなくて正確には軽減する薬なんだ。

身体は発情しているけれど、αでもヒートがおきないくらいフェロモンを軽く流して、Ω患者自身の理性もきちんと残せるようなね。

つがいがいるΩの人はまた少し変わってくるんだけど……。
まぁそれは今日はいいか。」

伊南さんの説明はとてもわかりやすかった。
理性がきちんと残ればあの熱さの中、悪夢を見る可能性は低くなる。


「仕事は発情期休暇を取るのを勧めるけれど、抑制剤や誘発剤で発情期をコントロールできればりぃくんと発情期中でも普通に過ごせると思うよ。

血の繋がった家族だと遺伝子上の関係で陽くんのフェロモンに反応しずらいし、まだりぃくんは5歳でバース未確定だから陽くんさえ自我が保てれば問題ない。」

それを聞いて発情期のコントロール療法を試してみることに決めた。


「これが誘発剤ね。

いきなり誘発させると身体がびっくりするから徐々に慣れさすために今日から飲んでね。

それでこれを飲み終えたころ発情期が来ると思うから、来たらこの抑制剤を飲むんだよ。

副作用が少ない一番弱い薬だから。

抑制剤っていうのは強い薬であればあるほど効果は高いけれど副作用も強い。
もし気持ち悪くて吐いてしまうようなら俺に連絡ちょうだい。

詳しい説明が書かれている冊子を薬と一緒に入れておくから読んでおいてね。」

用途が書かれた袋に錠剤をしまって手渡してくれた。

そして目の前に携帯よりも大きい銀色の箱が差し出される。

そっと中を開けてみると注射器みたいな針がついた青いアンプルとただの赤いアンプル、そして替え針が三つ入っていた。

「一応、渡しておくよ。

すでに針がついている青いアンプルは緊急抑制剤ね。

即効性だが副作用が大きいし、なにより身体の負担が大きい。

どうしても、という場面以外では使うのを控えてほしい。

もうひとつの赤のアンプルは緊急避妊剤だ。

陽くんには酷な話になるけれど街中でΩが発情してしまい、襲われるという事件は厳しい取り締まりや対策がされて少ないとはいえ、ある。

発情したつがい同士の性行為じゃないから、妊娠がほぼ確実ってわけじゃないけれど、それでもΩの発情はΩ自身の妊娠確率を上げる。

……陽くんはりぃくんがいるから完全にこどもが産める身体なんだ。


こういった事件の被害者はいつもΩだ……悲しいことにね。
これを使うことがない社会を早く構築したいものだよ。
って話が逸れてしまったね。」


これは最終手段のお守りってことなんだ……。
手が少し震えたけれどそれでもしっかりと受け取った。

青と赤のアンプルを使うことがないことを願って。

これの使い方を教わり、簡単な検査をし、次回の日取りを決めて診察は終わった。



しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

花婿候補は冴えないαでした

BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版)

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

処理中です...