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しおりを挟む昨日は疲れてそのまま眠ってしまって、柚さんのところにお世話になってしまい、木蓮さんが一度僕たちの家に寄ってくれてりぃくんを保育園に送ってからすぐ出勤した。
そして今日は病院に行く日……。
憂鬱だ。
「やっほー!陽くん元気元気ー?
いやぁ、いい天気だよね今日も!
外は暑くて参っちゃうけど!」
お昼になり-shiki-まで迎えに来てくれた伊南さんのその熱さに僕は参りそう……。
相変わらずな伊南さんだけれども病院に着いて医師という鎧をに纏えば途端に雰囲気が変わった。
明るいのは変わらないけれど僕が誰とも会わなくていいように配慮してくれて、病室で問診する目は真剣そのものだった。
「陽くん、前回発情期来たのいつごろだった?」
「……4月の中旬ごろだったと思います。」
「んー、じゃあもうすぐ3ヶ月か。
一度薬で発情期をぶつけてみようか。」
その提案に身体が少し震えてしまった。
発情期は怖かった。
理性というものも無くなって悪夢に苛まれるから。
「怖い?怖いよね……。
でもフェロモンを溜め込むと身体に負担がかかるんだ。
抑制剤ってね、発情を抑える薬じゃなくて正確には軽減する薬なんだ。
身体は発情しているけれど、αでもヒートがおきないくらいフェロモンを軽く流して、Ω患者自身の理性もきちんと残せるようなね。
つがいがいるΩの人はまた少し変わってくるんだけど……。
まぁそれは今日はいいか。」
伊南さんの説明はとてもわかりやすかった。
理性がきちんと残ればあの熱さの中、悪夢を見る可能性は低くなる。
「仕事は発情期休暇を取るのを勧めるけれど、抑制剤や誘発剤で発情期をコントロールできればりぃくんと発情期中でも普通に過ごせると思うよ。
血の繋がった家族だと遺伝子上の関係で陽くんのフェロモンに反応しずらいし、まだりぃくんは5歳でバース未確定だから陽くんさえ自我が保てれば問題ない。」
それを聞いて発情期のコントロール療法を試してみることに決めた。
「これが誘発剤ね。
いきなり誘発させると身体がびっくりするから徐々に慣れさすために今日から飲んでね。
それでこれを飲み終えたころ発情期が来ると思うから、来たらこの抑制剤を飲むんだよ。
副作用が少ない一番弱い薬だから。
抑制剤っていうのは強い薬であればあるほど効果は高いけれど副作用も強い。
もし気持ち悪くて吐いてしまうようなら俺に連絡ちょうだい。
詳しい説明が書かれている冊子を薬と一緒に入れておくから読んでおいてね。」
用途が書かれた袋に錠剤をしまって手渡してくれた。
そして目の前に携帯よりも大きい銀色の箱が差し出される。
そっと中を開けてみると注射器みたいな針がついた青いアンプルとただの赤いアンプル、そして替え針が三つ入っていた。
「一応、渡しておくよ。
すでに針がついている青いアンプルは緊急抑制剤ね。
即効性だが副作用が大きいし、なにより身体の負担が大きい。
どうしても、という場面以外では使うのを控えてほしい。
もうひとつの赤のアンプルは緊急避妊剤だ。
陽くんには酷な話になるけれど街中でΩが発情してしまい、襲われるという事件は厳しい取り締まりや対策がされて少ないとはいえ、ある。
発情したつがい同士の性行為じゃないから、妊娠がほぼ確実ってわけじゃないけれど、それでもΩの発情はΩ自身の妊娠確率を上げる。
……陽くんはりぃくんがいるから完全にこどもが産める身体なんだ。
こういった事件の被害者はいつもΩだ……悲しいことにね。
これを使うことがない社会を早く構築したいものだよ。
って話が逸れてしまったね。」
これは最終手段のお守りってことなんだ……。
手が少し震えたけれどそれでもしっかりと受け取った。
青と赤のアンプルを使うことがないことを願って。
これの使い方を教わり、簡単な検査をし、次回の日取りを決めて診察は終わった。
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