86 / 101
85 side 柚
しおりを挟む疲れて眠ってしまった陽くんとその陽くんの腕の中で離れるものかと言わんばかりにしっかり引っ付いて眠るりぃくんをこたくんがゲストルームに運んでくれた。
木蓮は部屋に陽くんからもらったお土産を持って行ってひとり酒盛りを始めてしまった。
ふらっと帰ってきたら、ぼろぼろになりながら自分の葛藤と向き合っている陽くんの姿を見なきゃいけなかったのだから仕方ないけれど。
あの子はわかりづらいけれど陽くんのことを本当に弟のようにかわいがっているから。
陽くんが初めてリンゴジュースを飲んで木蓮に笑顔を見せて以来、欠かさずこの家にストックしているくらいに。
でも、木蓮がいてくれてよかった。
木蓮は表裏ない性格だから、陽くんの横に立って客観的に諭してあげることができた。
普段は腹立つ息子だけれどこういうときは役に立つものだ。
「あんなに感情的になるなんて珍しいな。」
温かいお茶を用意してふたりの時間を過ごしているとぽつりとこたくんが零した。
それは責めているというよりただただ不思議といった温度だった。
「僕もあそこまで熱くなるとは思わなかったけど……。
こたくんだって熱くなった僕を止めなかったのには理由があったんでしょ?
……僕ね、陽くんが出て行ったのは焦ったけれど、嬉しかったんだぁ。
いつも明るくて、笑顔で、一生懸命で……。
だけどそればかりでどこか壁を作られているような気がした……。
だから初めてありのままを感情をぶつけられたのは嬉しかった……。
けどね、きっと陽くんのあの深い傷を癒せるのはルグゼンブルクさんしかいないこともわかっちゃった。
ちょっぴり、寂しいね。」
「あぁ、そうだな。」
雨の日に世界に取り残されたように佇んでいた陽くん。
環境を整えてもりぃくんを育てるのに一生懸命で自分のことなんて後回し。
そんな陽くんがルグゼンブルクさんのおかげで少しずつ自分自身を見れるようになった。
りぃくんの成長を陽くんが見守ってきたように、僕も陽くんの成長を見てきた。
だからこそとても嬉しくて、ルグゼンブルクさんを取り巻く環境に負けそうな陽くんのその小さな背中をなんとしても押してやりたかった。
少し空回っちゃったけれど。
「……西園寺家……。
いや、ルグゼンブルク家に入るということは相当な覚悟がいる。
ルグゼンブルク家はとても複雑だと聞くしな。
詳しいことを知らない陽もルグゼンブルクというビッグネームには尻込みしたんだろう。
それに、あの場はきっと柚の言葉だからよかったんだ。
Ωだからというのもあるかもしれないがそれ以上に陽は柚を母親のように見ているだろうから。
柚の言葉は確実に陽に届いている。」
そうかな……そうだといいな……。
ソファに座るこたくんの横に行きそっと手を握った。
陽くんたち3人の笑顔が溢れる未来を願って。
780
お気に入りに追加
1,152
あなたにおすすめの小説


当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。

白銀オメガに草原で愛を
phyr
BL
草原の国ヨラガンのユクガは、攻め落とした城の隠し部屋で美しいオメガの子どもを見つけた。
己の年も、名前も、昼と夜の区別も知らずに生きてきたらしい彼を置いていけず、連れ帰ってともに暮らすことになる。
「私は、ユクガ様のお嫁さんになりたいです」
「ヒートが来るようになったとき、まだお前にその気があったらな」
キアラと名づけた少年と暮らすうちにユクガにも情が芽生えるが、キアラには自分も知らない大きな秘密があって……。
無意識溺愛系アルファ×一途で健気なオメガ
※このお話はムーンライトノベルズ様にも掲載しています

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。

成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる