僕の幸せ

朝比奈和花

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85 side 柚

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疲れて眠ってしまった陽くんとその陽くんの腕の中で離れるものかと言わんばかりにしっかり引っ付いて眠るりぃくんをこたくんがゲストルームに運んでくれた。

木蓮は部屋に陽くんからもらったお土産を持って行ってひとり酒盛りを始めてしまった。

ふらっと帰ってきたら、ぼろぼろになりながら自分の葛藤と向き合っている陽くんの姿を見なきゃいけなかったのだから仕方ないけれど。

あの子はわかりづらいけれど陽くんのことを本当に弟のようにかわいがっているから。
陽くんが初めてリンゴジュースを飲んで木蓮に笑顔を見せて以来、欠かさずこの家にストックしているくらいに。

でも、木蓮がいてくれてよかった。

木蓮は表裏ない性格だから、陽くんの横に立って客観的に諭してあげることができた。

普段は腹立つ息子だけれどこういうときは役に立つものだ。


「あんなに感情的になるなんて珍しいな。」

温かいお茶を用意してふたりの時間を過ごしているとぽつりとこたくんが零した。

それは責めているというよりただただ不思議といった温度だった。

「僕もあそこまで熱くなるとは思わなかったけど……。

こたくんだって熱くなった僕を止めなかったのには理由があったんでしょ?



……僕ね、陽くんが出て行ったのは焦ったけれど、嬉しかったんだぁ。

いつも明るくて、笑顔で、一生懸命で……。
だけどそればかりでどこか壁を作られているような気がした……。

だから初めてありのままを感情をぶつけられたのは嬉しかった……。
けどね、きっと陽くんのあの深い傷を癒せるのはルグゼンブルクさんしかいないこともわかっちゃった。

ちょっぴり、寂しいね。」

「あぁ、そうだな。」

雨の日に世界に取り残されたように佇んでいた陽くん。

環境を整えてもりぃくんを育てるのに一生懸命で自分のことなんて後回し。

そんな陽くんがルグゼンブルクさんのおかげで少しずつ自分自身を見れるようになった。

りぃくんの成長を陽くんが見守ってきたように、僕も陽くんの成長を見てきた。

だからこそとても嬉しくて、ルグゼンブルクさんを取り巻く環境に負けそうな陽くんのその小さな背中をなんとしても押してやりたかった。

少し空回っちゃったけれど。


「……西園寺家……。
いや、ルグゼンブルク家に入るということは相当な覚悟がいる。

ルグゼンブルク家はとても複雑だと聞くしな。
詳しいことを知らない陽もルグゼンブルクというビッグネームには尻込みしたんだろう。

それに、あの場はきっと柚の言葉だからよかったんだ。

Ωだからというのもあるかもしれないがそれ以上に陽は柚を母親のように見ているだろうから。

柚の言葉は確実に陽に届いている。」

そうかな……そうだといいな……。
ソファに座るこたくんの横に行きそっと手を握った。


陽くんたち3人の笑顔が溢れる未来を願って。
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