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しおりを挟む一時はどうなるかと思ったけれど、最後別れるときには
「またなぁ、りぃくーん!」
「またね、いっくーん!」
とふたりはひしっと固く抱擁していた。
それにいつの間にかりぃくんと呼ぶことも許していた。
「伊南の精神年齢を疑いますね。」
僕の隣に立つリュカさんはりぃくんを見て微笑ましげに、伊南さんにはなにか違うモノを見る目で見ていた。
「……リュカさんは伊南さんに対して冷たい…っていうかなんというか…。
容赦がないですよね……。」
「産まれたときから一緒に育ってプレップ、パブリックスクールまで同じだったんです。
特にパブリックスクールでは散々でしたよ。」
なんでもリュカさんが通ったパブリックスクールは規律を重んじるところだったらしく、監督生だったリュカさんは他の生徒を指導するよりも、自由奔放に行動する伊南さんの手綱を握っていることのほうが多かったそうだ。
「廊下は走るなと言えば没収品のスケートボードをどこからかくすねて廊下を滑り、滑っているから走っていないと屁理屈を言う始末でした。
無駄に注目を集めるんですよ、伊南は。
下級生が憧憬の目を向けるんです。
なにせ、悪いことなどしたことないご子息達ばかりですから。
新鮮に見えたのでしょうね。
さすがにそのときは反省文を履修していない言語で100枚書かせましたけれど。」
はぁ……とため息をついているリュカさんだけど、僕からしてみればどっちもどっちかな、と……。
廊下をスケートボードで走るという行動を閃いた伊南さんも伊南さんだし、反省文を100枚書かせるリュカさんもリュカさんだ。
顔が引き攣ってしまうのは仕方がないと思う。
りぃくんと楽しそうに話しながらも僕とリュカさんの立ち話をしっかり聞いていたらしい伊南さんがうんざりした顔で近づいて来た。
「俺以外の奴らには諭すように注意するのに俺には容赦ないんだよね。
陽くんも気をつけなよ?
リュカはウルフドッグのふりをした本物の狼だから。」
「……?……はい……?」
返事はしたもののどういう意味だろうか、聞こうとしたところで。
「陽さん、りぃくん、そろそろ行きましょうか。」
とリュカさんがりぃくんを抱き上げて車に向かおうとしていたので
「伊南さん、誘っていただきありがとうございました。
とても美味しかったです。
それにりぃくんも楽しかったようで……。
素敵な時間をありがとうございました。」
慌てて伊南さんに駆け寄りお礼を言う。
「……なるほどね……リュカが欲しがるわけだ。
こちらこそ楽しかったよ!
また連絡するから!」
なにかぼそりと呟いていたけれど聞き取れなくてさぁ行った行った、と車に促され、流されるまま車に乗った。
りぃくんは車に乗ってしばらくは歌っていたがやはりテーマパークでたくさん遊んで、伊南さんともはしゃいで限界がきたのだろう、すぐに眠りについた。
静かに車を走らせるリュカさんをちらりを伺う。
僕は常に口元に笑みを浮かべているリュカさんもすきだけれど、こうやって凪いだ海のように少し遠くを見つめるリュカさんもすきだ。
この顔は中々見れないだけどね。
僕がリュカさんを見つめていることに気づいたらすぐいつもの顔に戻っちゃうから。
だからリュカさんのいつもの顔以外を見つけるのは僕の密かな楽しみだったりする。
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