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しおりを挟む伊南さんが立ち上がって僕の胸に顔を埋めて泣いているりぃくんと目線を合わせようとしゃがみ込んだ。
「理人くんが必死に守っている陽くんを泣かせてしまってごめんなぁ。
でもね、これは陽くんを守るために大事なことなんだ。
陽くん、何がそんな怖い?」
αがいるのが怖い……。
でもそれをαのふたりの前で言うのはとても失礼なことで口を噤んでしまう。
「陽さん、伊南は医師です。
どんな理由だったとしても貴方の気持ちを尊重します。」
僕の背中をリュカさんの温かくて大きな手が支えてくれる。
「………αが、いるのが怖い……。」
自分の声がひどく弱々しかった。
「……話してくれてありがとう。
西園寺総合病院のバース科はバースごとに分けられている。
それでも怖いなら個室も用意しよう。
診察する医師と看護師も厳しい試験を受けた者たちだ。
辛くなったら休み休みでいい。
だから一度病院に来てほしい。」
αが怖い、たったひとこと。
なのにそのひとことを言うのにとても疲れてしまって半ば投げやりに頷いた。
その後、伊南さんと連絡先を交換して日程を決めていくということになった。
「理人くん、こっちおいでよ~。
さっきの謝るから!」
「いやっ!」
しょぼーんとしながら伊南さんはあの手この手でりぃくんを誘うが当の本人は僕にしっかりと抱きついて僕の腕の中から出ようとしなかった。
「すみません……きっと眠たいのもあるので……。」
伊南さんの背景にズーンという文字が見えるんじゃないかと思うほど落ち込んでいたから必死に言い訳を混ぜて慰めた。
「伊南……これはりぃくんに嫌われてしまいましたね。
マイナスからのスタート、頑張ってください。」
こちらが慰めているのにリュカさんが伊南さんの傷口に塩をたっぷりと塗りこんだ。
あぁ、さっき伊南さんだけニックネームをつけられたことを自慢されていたから、その仕返しかな……?
「こんのっ…っあ!そうだ、理人くん!
ちょっと待っててな!」
個室から光の速さで出ていき戻ってきた伊南さんの手には不思議な食べものが乗った大きなお皿が。
よく見るとそれはチョコレートのドームだった。
「はい、理人くんこれ持って?
この上に掛けてみて!」
りぃくんに白磁の陶器のミルクピッチャーを持たせて伊南さんはお皿を待機させる。
まだ鼻をすんすん鳴らしているりぃくんは渋々といった感じで白磁の陶器を傾けた。
ふわんと漂うチョコレートの香りにとろりと垂れるホットホワイトチョコレートは茶色の球体をみるみる溶かしていく。
不思議な現象に一瞬にしてりぃくんの目が輝く。
僕もりぃくんと一緒に驚いていた。
あっという間に球体が無くなり中からはガトーショコラが出てきたから。
「理人くん昨日誕生日だったんだろ?
だから用意していたんだ。
ショコラボールっていうんだけど
溶けたチョコには周りのフルーツをつけて食べると美味しいぞー!」
だから仲良くしてくれな!という言葉にりぃくんは首がもげるんじゃないかってくらいぶんぶんと前後に振っていた。
りぃくんと伊南さんやっぱり少し似てるかも……。
その……少し……単純なところが……。
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