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32 side リュカ
しおりを挟む帰ろうとしたら服の裾をくいっと引かれる。
「リュカ……。」
「なんでしょうか?」
私は身を屈めてりぃくんと目線を同じにした。
「リュカは、はるをまもってくれるよね?」
……この子は周りが想像しているよりも賢い。
誰よりも周りをよく見ている。
「ええ、陽を守り、愛すために私はここにいるんです。
もちろん陽の愛するりぃくん。
君も一緒に私は守りたいと考えていますよ。」
彼が全てをかけて守ってきたもの。
私は彼と同じくらいにその彼の宝ものも愛している。
なんて。
早急だ、重い、と言われるか……。
「……はるはね、ぼくのためにほんとうにぜんぶがまんしてきたの。
それはいまもそう。
ぼくのはふつうだけど、はるのふく、ぜんぶほつれてのびているでしょ?
ほんとうはぼくもはるにはきれいなふくをきてほしい。
それにはるはぜんぜんごはん、たべないの。
おなかすかないからっていうけどぜったい、そんなことないとおもう。
……はるはかくしているんだけどね。
あそこのたんすのおくにぼくのランドセルのため、こうこうのため、だいがくのためってわけてぜんぶちょきんしてるの。
そこにはるのためのものはないの。」
あぁ、そうか。
自分のために貯金しているのを知っているから、陽にいい服着て。きちんと食事をして。って言えないのか。
言えば余計に心配させまいと隠すから。
本当にこの親子の間には優しくて温かい愛情しかないのだ。
だからこそふたりの絆は強くて。
でもどこか壊れそうで周りは心配になってしまう。
「よく頑張ってきましたね。」
そっとりぃくんを抱きしめた。
小さな身体で、必死に自分のために頑張る親を支えてきたのだ。
この小さな子もまた、彼とは違う我慢をし続けている。
「ずっとがんばっているのははるで。
ぼくにはなんのちからもなくて、はるをらくにしてあげられない。
それにね、ぜったいはるにいわないでほしいんだけれど。
ぼく、わかっているんだ。
はるがおとうさんになにかひどいことをされたんだって。
だってはるはゆずちゃんで、なのにこたちゃんがいないから……。」
陽は柚さんと同じΩなのに、つがいがいない、と言いたいんだろう。
誰よりも優しく、周りをよく観察し、あまりにも賢すぎるが故に、推測できてしまった生い立ちは彼をひとりで苦しませていた。
まだりぃくんとは出会ってほぼ1日。
だが、彼と話せば話すほど彼の仕草や思考の隅々に知性を感じた。
「はるね、リュカみたいなひとはふだんこわがってちかづかないの。
でも、リュカのことはなんかいつもとちがったきがしたの。」
「貴方は陽に望まれて生まれてきたのです。
望まれて、幸せになってほしい、とずっと思っているから陽は頑張っていられるのです。
理人、誇りなさい。
陽のもとに生まれた自分は幸運だと。
賢いあなたなら理解できるでしょう?
私なら貴方たちの憂いをきっと晴らせます。
まぁ、陽が私を隣にいてもいいと認めてくれたら、ですけれどね。」
たった4歳児の子にそう諭すとりぃくんはこくん、とひとつ頷いた。
正直どこまで理解しているかはわからないけれど、それでも言いたいことは伝わっていると思う。
「……リュカがはるをまもってくれるなら、はるのとなりにいるの、ぼくは、みとめてあげてもいいよ。」
先程の大人びた態度とは裏腹に今度はこどもらしくいじけた様子のりぃくんに笑みが深まった。
「じゃあ私が傍にいてあげられない今はりぃくんが陽を守ってくれますか?」
「うん!」
「そうですね、りぃくん、頼みましたよ。
さぁ、もう夜も遅い……。
布団に入りましょう。
おやすみなさい、いい夢を……。」
りぃくんを布団に入れて私はその場を離れ、携帯を取り出した。
「御影、しばらく日本に留まります。
仕事は全部PCに送ってください。
……え?知りませんよ、貴方が処理しなさい。
………私の運命に逃げられてしまってはたまりませんからね。」
さて、陽、貴方が私の運命だったのです。
もう見ているだけ、なんてことしませんよ。
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