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30 side 柚
しおりを挟むルグゼンブルクさんが去った後、綾継くんがぼそりと呟いた。
「……いやぁ、さすがだわ。」
「あやくん、なに?」
「αはα同士で無駄な争いを避けるために無意識にマウンティングをしちゃうんだけれど、俺もこたも力の差をまざまざと見せられたよ。
あれはだめだな。な、こた。」
「あぁ……。さすがだな。」
αのマウンティングというのは聞いたことがある。
αにはαの中で階級があるらしい。
それはβやΩの僕たちにはわからない世界だけれど。
「……にしても、陽は大変だな……。」
「そうだねぇ……。」
こたくんと綾継くんは顔を合わせて苦笑いをしていた。
僕と心くんにはさっぱりわからない。
「αは本能的につがいを守ろうとするからβやΩに比べて独占欲が強いんだ。
その傾向はαの階級が上であればあるほど強くなっていく。」
ちんぷんかんぷんな僕たちにふたりが言葉を噛み砕いて説明してくれる。
「それにルグゼンブルクさんはあのルグゼンブルク家と西園寺家のハイブリッドでしょ?
もうα中のαだよ。
そんなαが陽くんの運命のつがいなんだ。
陽くんは逃げられないんじゃないかなぁ。」
ここで僕はひとつ気になった。
「あやくんあやくん、あの西園寺家とルグゼンブルク家って?」
僕と同じことを思っていた心くんが先に質問してくれた。
どこかで聞いたことがある気がするんだけれど……。
「ビッグネーム過ぎて逆に浸透していないのか……。
西園寺家はね、この日本の医療の要といってもいい。
医療業界の頂点に立っている家だよ。
ほら、俺の働いている西園寺総合病院はわかるでしょ?
西園寺総合病院は全国に系列病院があって、総理事長が僕の職場の院長なんだけど。
その院長がルグゼンブルクさんの母親で西園寺家本家の方なんだ。
そしてルクゼンブルク家。
世界中を股にかける名家さ。
あらゆる業界で顔が利く。
僕たちが普段何気なく使っているものも辿って行けばルグゼンブルクが関わっていると言われている。
まぁ大きい家なぶん、いくつか噂があるけどね…。
シェーンっていうブランドは知っているかい?
日本や海外の資産家やセレブ御用達のジュエリーブランドなんだけど……。
そこの創立者がルクセンブルク家で今も経営に関わっている。
ルグゼンブルクさんはルグゼンブルクの現当主のご令孫だよ。」
その話に言葉を失う。
もう話が凄すぎて反応できなかった。
ただふたりが運命だということはトップシークレットということはこの場にいる全員が悟った。
「俺たちは陽を見守るしかないな。」
そうだ陽くんがなにかあったとき逃げて来れる場所がここであれるように。
僕たちは見守ろう。
陽くんの幸せを誰よりも願っているから。
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