僕の幸せ

朝比奈和花

文字の大きさ
上 下
28 / 101

27

しおりを挟む




あれだけ気にしないようにしていたのに、綾継さんがあの男の人を僕の前に引き出した。

「あぁ、そうだ陽くん。
君に紹介したい人がいたんだ。

俺の披露宴のとき、陽くんか理人くんになにかあったんじゃないかと心配だったそうで、今日、陽くんが誕生日だと言ったらぜひ祝いたいと仰ってくれたんで連れてきたんだ。」

ダークアッシュのブロンドの髪にダークグレーの聡明さが伺える瞳。

168センチの僕がその人の鼻下あたりだから、180センチは越えているだろう。

……明らかにαだ。

綾継さんからしてみれば同じα同士でいいかもしれないが、僕からしたら警戒対象以外何者でもない。

「リュカ=フラヴィオ=イオリ=ルグゼンブルクと申します。

ぜひ、リュカとお呼びください。
……あのときは大丈夫でしたか?」

にこやかな笑顔で挨拶してくれる。

この人は心がざわつく。
怖いとは思わないが落ち着かない気持ちになる。

「……望月 陽です。
この子は僕の息子の理人といいます。

あのときは少し具合が悪くなっただけなので大丈夫でした。
ありがとうございます。」

早く遠くに行って……。
この脳の芯まで溶けてしまいそうな匂いを遠ざけたい。

「陽さんが20歳の誕生日だと耳にしたので受け取っていただけたら嬉しいです。

お誕生日おめでとうございます。」

リュカさんは大きな包みをふたつくれた。

中身はどちらもリュックサック。
大きなほうは黒の革製のリュックで同じ色の革製のストラップがついていた。
小さなほうは白。
本当に大きさが違うだけで形やストラップは同じだった。

「小さいほうは理人くんのものです。
陽さんとお揃いもいいかなと思いまして。」

「え!ぼくの!?
しかもはるとおそろい!?」

「はい、お揃いです。
ここのストラップにHARUとRIHITOと書いてあるでしょう?

この世にひとつだけのものですよ。

…中もぜひ見てみてくださいね。」

りぃくんには少し大きなバッグを両手で抱えて中身を見だした。

僕はといえばいきなりのプレゼントに戸惑ってしまう。

「はるみて!ぬいぐるみ!かわいい!

これ、いぬ?」

りぃくんは両手でぬいぐるみをぎゅーっと抱きしめている。

かわいい、非常にかわいいが……!

「おおかみっていう動物ですよ。

狼は愛した相手を守り、慈しむんですよ。
私のすきな動物です。

……って少し難しいですね。」

「わかるよ!
だいじにする、ってことだよね!」

「そうですね、理人くんはとても賢い。」

そう言ってリュカさんは頭を撫でた。
りぃくんはそれに満足そうに微笑んで受け入れていた。

僕は驚きのあまり目を見開いていたと思う。

りぃくんは誰にでも人当たりがいいが警戒心が強く、知らない人に触られることを嫌がるのだ。

今までりぃくんに触れることを許したのは僕と琥太郎さん、柚さんの3人だけ。

保育園でも先生に触られる前に自分でどうにかしているようだった。

「プレゼント、ありがとうございます。」

お礼をいいつつりぃくんをリュカさんから離した。

「陽くん、僕たちからもプレゼント。」

九条夫夫からは僕が生まれた年の赤ワインと白ワインをいただいた。
お酒も解禁だからねと言葉を添えられて。


「さぁ、皆揃ったことだし改めて乾杯しよう!

陽くん本当におめでとう、かんぱーい!」

柚さんの鶴の一声で皆、席に座り、美味しい食事に舌鼓を打った。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

白銀オメガに草原で愛を

phyr
BL
草原の国ヨラガンのユクガは、攻め落とした城の隠し部屋で美しいオメガの子どもを見つけた。 己の年も、名前も、昼と夜の区別も知らずに生きてきたらしい彼を置いていけず、連れ帰ってともに暮らすことになる。 「私は、ユクガ様のお嫁さんになりたいです」 「ヒートが来るようになったとき、まだお前にその気があったらな」 キアラと名づけた少年と暮らすうちにユクガにも情が芽生えるが、キアラには自分も知らない大きな秘密があって……。 無意識溺愛系アルファ×一途で健気なオメガ ※このお話はムーンライトノベルズ様にも掲載しています

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

処理中です...