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21 side 柚
しおりを挟む「りぃくん、なにして遊ぶ?」
「あそばない……。ねぇ、はるは?」
りぃくんは陽くんと別れてからソファでずっと体育座りをしている。
いつも無邪気で陽くんにうりうりされててもしょうがないなぁという様子で受け入れているしっかり者のりぃくん。
そんなりぃくんはシェルターに閉じこもった陽くんが気になって仕方ないようだった。
あたりまえだ。
まだ4歳なんだもの。
陽くんの発情期は不定期だけれど身体が怠くなったりと兆候があるため先に準備ができる。
だからいつもりぃくんには僕の手伝いでしばらくお泊りになるからって誤魔化してきた。
でも今回は突発的だったようで。
……陽くんは市販の抑制薬が効かない。
大丈夫かな……。
いや、大丈夫ではないよね。
Ωの発情期を抑制剤なしでひとりで耐える、ということがどれだけ辛いか同じΩとして知っている。
だから番のいるΩは自分だけのαに慰めてもらうし、番のいないΩは発情したらすぐ抑制剤を飲む。
そうでないと身体の中に疼く灼熱に殺されそうになるほど辛いのだ。
ずっと身体が疼いて波がくるとなにがなんだか分からなくて、何かに縋りたくて、熱を発散したくなる。
波が穏やかなときは来る波に怯えて、発情中は思考が違うところに行きやすい。
番がいれば番のフェロモンが自分の発情の波をうまく受け流してくれるし、抑制剤は副作用で頭痛や吐き気に襲われることがあるけれど発情の波を穏やかにしてくれる。
陽くんの場合、思考は確実にあの重い過去に飛ぶだろう。
僕なら耐えられるかわからない。
そんな陽くんがあまりにも辛そうで一度病院に行こうと言えばお金がかかるからと断られ、せめて陽くんに合った抑制剤をもらおうとバース科に半ば強制的に連れて行ったことがある。
そのときちょうどバース科にかかりに来ていたαがいて、フラッシュバックしたのか、αが怖くてたまらなくなったのか、その場で吐いてしまって断念せざるを得なかった。
それを見ると普段、明るくて素直で楽しそうに笑う陽くんが、りぃくんが来てくれたから辛いことなんてなかったなんて言っていた陽くんが、大きな心の傷を無理やり自分でぐちゃぐちゃに縫い合わせて血が出て痛いのに大丈夫!と言っているんだと再認識してしまって、陽くんを病院に連れていくことが難しくなってしまった。
「ゆずちゃん、はる、だいじょうぶかな?
はる、すごいつらそうだった。
いつもわらってるのに、さっきはすごいくるしそうだった……。」
自分の服の裾を掴んで泣きそうなのを堪えているりぃくん。
本当にこの親子は健気でいじらしくて愛しい。
「大丈夫!あの陽くんだもん!
逆に陽くんが出てきたときにりぃくんがそんな顔していたら陽くんが心配しちゃうかも!」
「それは、やだぁ……。」
陽くんに心配されるのは嫌だ。
でも陽くんが心配で仕方がない。
そんな様子のりぃくんにどうすればいいのか悩む。
木蓮はりぃくんより単純だったからなぁ……。
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